五人目のメンバー?
2016/09/15
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「ご苦労だった。結果は上々――つまるところは、合格だ」
男は口元にわずかな笑みを浮かべながら告げた。
最終的にクリアに至ったのは二人のみ。
「合格、か」
結果を聞き、エルニドが困惑を露わにする。
「戦天はまだしも……まさかもげ太が?」
「うん!」
眉根を寄せて尋ねるエルニドに、もげ太はグーを握って答えた。
そんな少年の肩を握るネームレス。
「オイ! やったな、もげっち!」
「えへへ! ななさん、じゃなかったネムさんのおかげだよ!」
ネームレスのロータッチにもげ太がハイタッチを返して喜びを共有する。
「さすがはもげ太、我が見込んだ男よ! ……くくく、我がマスターなれば、その程度はやってくれぬとのう」
「はい! 頑張りました!」
「わたしでも倒せなかったのよ? もげ太くん、凄いわ」
「ありがとうございます!」
キリュウとスズランに頭を撫でられ、もげ太は満面の笑みを浮かべた。
「………………」
それをエルニドは険しい表情で眺めている。
「彼に宛がったダミーは、彼のレベルに合わせてある。驚きも不審も不服も感じる必要はない」
彼の表情から察したのか、クジョウがエルニドに言った。
「そうか。それならばいいのだが……少し腑に落ちない点があってな」
「ほう? 腑に落ちない点とは?」
「先のダミーだ。あれはどういう仕掛けになっているんだ?」
エルニドが疑惑を抱くのも当然だ。
いや、彼のみならず、ネームレスやリリルとて同じことを考えているだろう。
何せ、彼らは百戦錬磨の十二天――まさか自分らが倒せなかったダミーを少年が撃破するとは夢にも思っていまい。
「簡単な細工だ。特定の条件を満たさない限り突破不可能な防壁が張られている。彼と天使は、その条件を突破し、残りは突破できなかった――それだけの話だ」
「天使……?」
「それより、その条件とは?」
「今はまだ話すことはできない。それよりわたしも聞きたいことがあるのだが?」
「なんだ?」
「果たして君たちは――真の全力を以って戦ったのかどうか、ということだ」
◇
こうして与えられた試練を乗り越えたことで、無事、クジョウの協力を得るに至った。
応接室――にはおよそ見えない謎の異空間に通され、一行は男の話に耳を傾ける。
「確かわたしをギルドに迎え入れたいと、そういう話だったな?」
「はい!」
相対するのは、もげ太。
ことギルドに関わる内容であれば、矢面に立つのはマスターである少年でなければならない。
他のメンバーはその後ろ、メンバー以外の者はさらに後方に座っていた。
「凄い部屋ですね……」
「あぁ……何とも形容し難い」
部外者の二人――リリルとエルニドは、ひそひそ声で会話をする。
視線の先はインテリア――と言っていいのだろうか。
ガラスケースに陳列された少女型の人形は華やかにライトアップされ、壁に貼られたタペストリーやポスターもやはり少女一色。
過度な露出のものもあれば、逆にシックなものもある。
時折、人形の中には昆虫を模したパワードスーツのようなヒーローも混じっているのだが……問題は、二人視線が交差する先にあるもの。
「あれ。どう見てもキリちゃんですよね?」
「うむ。どこをどう見ても戦天だな」
台座に置かれた等身大の偶像。
桃と紫を基調とした和服の少女が扇子を広げてポージングを取っている。
加えて言うならば、衣装は本物の着物のようだ。
「それは珠玉の一品だ。細部までVRによって完全再現されている。無論、キャストオフ可能――というよりは、ほぼドールと言った方が適切か」
「我の人権はどこに消えた――!?」
キリュウがすかさず反論を行う。
少女はすぐさま叩き壊そうとしたのだが、その見た目は自身と全くの同一。
「くっ……! 文句の付けようもないほどに完璧に作りおって……これでは手が出せぬ」
「わたしは人形師だ。この程度は造作もない。本来ならば、天使の偶像のみで部屋を埋め尽くしたくはあったのだが……あいにくと素材がなかなか集まらなくてな。見よ」
「よ、よもや天使とは我のことか……?」
話を脱線させたまま、クジョウは偶像のキリュウに手を伸ばした。
「弾力まで完全再現だ。どうだ素晴らしいだろう?」
「ハラスメント! 紛うこと無きハラスメントじゃぞ――!?」
「ふはは! 人形師が人形をどうしようと、それは持ち主の自由――人それを所有権という!!!!」
「ほ、法が……法が我が前に立ちはだかるというのかぁ――!?」
ブルーの縦線エフェクトを背後に展開し、がくりと四肢を突くキリュウ。
「まぁ、ハラスメントが立件すりゃ権利もクソもねーが……」
「脱線はこの辺りでいいだろう。もげ太が困惑する」
「?」
ハテナを浮かべる少年を横目に、二人は男を威圧した。
それでわずかでも尻込みをするような人物であれば苦労はしないのだが。
「クジョウさん! 是非、エバーフレンズに入ってくれませんか?」
尻込みをしないのは、少年とて同じだった。
どちらかと言わずとも、ネームレスもスズランも男を歓迎しているようには見えない。
むしろ何故、当のキリュウがこの男をメンバーに迎え入れようなどと提案したのか、双方のやり取りを目にして謎が深まるばかりだ。
「いいだろう――それが口約だ。と言いたいところではあるのだがな」
「む? それでは話が違うのではないかの?」
不安そうな少年の心をキリュウが代弁する。
「加入も視野に入れる、と言ったはずだ。加入するとは言ってない」
「詐欺だ! 詐欺師の手口だぞ、それは――!?」
「まぁ、そう事を急くな。ちなみに、わたしは詐欺師ではなく合法のペド●ィリアだ」
「本気でコイツ誘うのか、戦天――!?」
「むぅ……実力は確かじゃな、我も早まったような気がしてきたのじゃ……」
「一度口にしたこと、今さら撤回は不可能だぞ? マイエンジェル」
「って、もう入る気満々かよ――!?」
などとういやり取りを幾度か行った後、クジョウが静かに告げる。
それは、一行に衝撃――冷静を取り戻すのには十分過ぎる内容だった。
「誘われた身で肩書を偽るのも無作法か。――わたしは、UWOのGMだ」
男の発言に沈黙する。
「げーむますたー?」
「平たく言えば、“管理者”だ」
「!」
エルニドの説明にもげ太は目を丸くした。
「凄い人なんですね!」
「あ、あぁ……」
もげ太は、きらっきらに目を輝かせてクジョウとの距離を詰めた。
GMの肩書に憧れるプレイヤーは多いが、少年の場合は単純に“凄い人”という尊敬の念だ。
それが伝わるのか、珍しく男がうろたえていた。
「ゲームマスター……か」
エルニドが言葉を反芻する。
ゲームマスター――つまりは、当該ゲームにおける管理権限を有するということだ。
とはいえ、ひと口にGMと言ってもその権限は様々で、正規雇用か非正規雇用か――プレイヤーを直接罰することもできれば単に相談役といったサポートのみのケースもある。
どちらにせよ、このように軽々しく口外できるものではない。
「お、おぬしがGMじゃと……?」
「やっぱUWOにも居やがんのかよ……」
「ほええ……初めて見ました」
どうやらキリュウも知らなかったようで、驚きを隠せないで居た。
UWO歴の長い彼らだが、実際に会うのはこれが初めてだ。
“ゲームマスターはいない”――そう囁かれるほどに、この世界においてGMと邂逅したプレイヤーは居なかった。
「GMとは言ったが……このアバターについては、一般プレイヤーと何ら変わりはない」
「そうなんですか? えっと……それなのにゲームマスターだ、って教えてくれたんですよね?」
もげ太は首を捻った。
言わなければ分からないことなのにだ。
「それをわざわざ告げたのだ。理由は既に察しがついているのではないか? 特に後ろの彼らであればな」
「………………」
もげ太が後ろを振り返ると、皆が苦い顔で男と少年を見やっていた。
想像がついているということだろう。
「……見返りが必要というわけか?」
「しかも、GMの名乗りを上げたくれーだ。システムに関する内容だわな」
「先の腕試しと関連がありそうじゃの」
「実力が必要、ということかしらね」
「あまりいい予感がしないのです……」
嘆息する彼らを見、少年も明るい話ではないことは分かったようだった。
「そう勘繰らなくてもいい。デバッグ――のようなものだ」
「デバッグ?」
デバッグ――いわゆるバグ取りだ。
プログラム上の欠陥を修正する意味合いを持つ。
「サービス開始から二年半も経ってんのに、今さらデバッグが必要なのか?」
「プログラムは日進月歩。常に欠かすことはできない。今回は……ゲーム内に支障を来している。実力者の協力が欲しかったところだ」
「なるほどね……」
そういった事情なら、男が正体を明かした理由にも納得ができる。
一般プレイヤーの協力を得るならば、実力者であるに越したことはない。
その点では、彼ら十二天はうってつけとも言えた。
「そのバグってーのは?」
ネームレスの問いにクジョウが頷く。
説明を承諾したのだ。
「この世界の至るところに小さな綻びを来しつつある。そのひとつが、黒化体――キミたちが“シテン”と呼称している存在だ」
「シテンじゃと……?」
噂話ではあれば、少年を除くここに居る面々ならば耳にしたことがある。
とりわけ、楓柳においては“シテン”の情報収集に注力していたのだ。
「アバターの一部、あるいは全体が黒化し、通常の攻撃を一切受け付けなくなる状態に変化する。不正なのかウィルスに依るものなのかは調査中だ」
「なるほど……それでさっきのダミーに繋がるわけか」
先のトレーニングダミーに施してあった特殊防御がそうなのだろう。
「その対策の一環として、ごく一握りのプレイヤーに対し制約の解除――キミたちが≪アンリミテッド≫と名付けた能力を付与している」
「アンリミテッドじゃと――!?」
アンリミテッド――すなわち、アンリミテッドスキルは、メルニカの街でキリュウが使用した能力だ。
これがシテンを打破するための特別な力だというのか。
「相手は、システムの垣根を越えている。よって、同様にシステムの制限を突破しない限りダメージを与えることは難しい」
「な、なんと……我は選ばれたプレイヤーじゃったのか……」
少女は震える両手を見ながら言った。
「これは……もはや何と言ったものやら……。すまんのう、焔のに影の…………くふふ」
「なんで最後ほくそ笑んでんだよ――!?」
微妙に勝ち誇った様子の少女に、ネームレスが〈びしっ!〉と平手を寸止めした。
「キミたちのゲームプレイに支障を与えるつもりはない。もし、行先に黒化体――“シテン”を見かけたら、あるいは情報を入手したらこちらへ報告。あるいはデバッグを実行して欲しい」
「あい、分かった。全てこの我に任せておくのじゃ!」
「テメェが仕切るんじゃねーよ! マスターはもげっちだろ!!」
「そ、そうであった! もげ太よ、まっことすまぬ……」
しょんぼり肩を落として少女が謝罪を述べる。
もげ太は、両手を振って少女に顔を上げさせた。
「い、いえ! 全然気にしないでください! 僕も、何が何だかよく分かってなくて……!」
それは、少年の本心だった。
「かたじけない……うむ。我は、もげ太の命に従うのじゃ!」
「つか、テメェ本当にガキなのか……?」
「ガキでないと常々言うておるじゃろう!!」
あまりに違和感のある言葉遣いにネームレスがそう指摘すると、キリュウは腕を振って怒りを現した。
仕草はどう見ても子どものそれなのが不思議だ。
「わたしの第七感がビンビンに反応しているのだ。天使が幼女なのは間違いあるまい」
「天使でも幼女でもないのじゃ!」
「……何故かすげぇ説得力だな、オイ」
「そこ納得するでない!」
そんなやり取りを華麗に流しつつ、男は尋ねる。
「では、ギルドの件だが――どうする?」
◇
「そうか……」
クジョウを五人目のエバーフレンズのメンバーに迎え入れるかという案件については、保留という結論に至った。
彼が一般プレイヤーであればまだしも、GMと知ったことで安易に誘うことができなくなったのだ。
気落ちしているようにも見えるのは気のせいだろうか。
「しかし、そうなるとここでメンバー補強は適いそうにない。どうするんだ?」
「むぅ……これは我の失策じゃったのう」
キリュウは息を吐き、皆に向き直って頭を下げる。
「皆の者。手間と足労をかけたのみですまぬ」
謝罪を述べるが、そのまま面を上げる様子がない。
申し訳なさに、皆の顔が正視できないのか。
「あっ、謝る必要はないですよ! キリュウさんが居なければ、こうして僕たちとクジョウさんが出会うこともなかったんですから!」
そんな少女を見、慌てて隣へ移動したもげ太が両手を振った。
キリュウの目線がわずかに上を向く。
「……ふむ。良いことを言うな、もげ太とやらよ。褒美にこの衣装を贈ろうではないか」
「あ、ありがとうございます……?」
もげ太の言葉を聞いたクジョウが、感心したように言った。
余計なひと言さえなければ、絶妙なタイミングでの後押しと言えよう。
もげ太は、どうみても女の子用の服を両手に持ちつつ、
「ほら、クジョウさんもこう言ってるんです。キリュウさんも気にしないでください!」
同意されたことを無邪気に喜んでいた。
そんな笑顔を間近で見せられたキリュウとて、いつまでも塞ぎ込んでは居られず、
「……ふ。我がもげ太に慰められるとはのう」
やや自嘲を含んではいたものの、顔には笑みが浮かんでいた。
「もげっちの言う通りだぜ。あんま気にするこたねぇ」
「そうだな」
「ですですー」
もげ太以外のメンバーとて、キリュウを責める者はひとりもいない。
スズランも皆のやり取りに微笑を向けていた。
「……というか影天さん、キリちゃんには意外と優しいんですね? 実は下心あったり?」
「あるかぁ!!」
「あ。ムキになるところが返って怪しいですねー?」
「………………」
「す、スズランよ、無言で睨むでない!」
「ちっ……。それより、用事はなくなったんだ。さっさと街に戻ろうぜ。他のメンバーを探さなきゃいけねーわけだろ?」
「あぁ。だが、この面子に打ち解けられ、かつ根無し草の者となると…………誰かのつてでもないと難しいんじゃないか?」
「焔天の言う通りね。生憎、わたしもキリュウ様も……これ以外の心当たりはないわ」
そういう意味では、やや以上に特殊な人物ではあるものの、クジョウ――かつての“形天”という人選は打って付けであったとも言えるのか。
もし、この輪に加わったとして、この男が臆したり萎縮することもなければ増長するといった懸念もないだろう。
むしろ少々? 変わったくらいの方が、互いに気兼ねがなくて良いのかもしれない。
ふむ、と呟きながらエルニドが口を開く。
「まぁ、知らなかったことだ。完全なイレギュラーをこれ以上気にしても仕方がない」
「だな。んで、もげっちは結局どうすんだ?」
ネームレスが尋ねるのは、クジョウへの協力の件だ。
先走ってキリュウが返答していたが、そちらについても保留としてある。
「その……僕としては、ギルド云々を抜きにしてもクジョウさんが困っているならお力になりたい。そう思ってます」
少年が告げたのは、承諾の意だ。
「……ふ」
その返答に、クジョウがこの場で初めて普通に笑った。
「純粋そうに見えて、なかなかに食えない少年だな」
「へ?」
短いやり取りの中で、今までとは違う何かを見出したのかもしれない。
「さて、わたしの目が節穴なのか、それとも慧眼であったのか――見定めさせて貰うとしようか」
「は、はい……?」
クジョウは、もげ太の目をじっくりと覗き込みながら告げた。
「気にするな。こちらも相応の協力は約束しよう。天使と同志もいることだしな」
「誰が天使か!」
「誰が同志だ――!?」
「ありがとうございます!」
反論する二人を他所に、もげ太が礼を述べた。
「こちらこそ、よろしく頼む」
そう言ってクジョウが差し出した手を、もげ太が両手で握り返した。
「代わり――というわけではないが、別の者を紹介しよう。もちろん、GMではない」
クジョウが指を鳴らすと、部屋にひとりの女性が入ってきた。
「ただし、キミたちが彼女を迎え入れるか、それとも彼女がキミたちを受け入れるかは当人次第だ」
そう言い残し、男は退室していった。
残るのは、もげ太たちと入れ替わりで現れた銀髪の女性だ。
「皆様方。お初にお目にかかります」
女性の背中から見え隠れする大きな装機銃。
それは、つい先ほど話題に出たばかりのものだ。
「おい、まさか……?」
「名はラミナ――と申します。以後、お見知り置きを」
それは、十二天がひとり“装天”の名前だった。




