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腕試し

2016/09/15

新話挿入しました

 



 “実力を見せて欲しい”――。


 そんな男の言葉に従って場所を移した。

 方向的には通路の壁の奥だろう。

 その一室から多くの扉が枝分かれをしており、別室にてクジョウとエリザは準備に取り掛かっているようだ。

 部屋の中央で、エルニドが疑問を浮かべる。


「妙な部屋だが……ここでどうすれば良いんだろうな」

「アイツと戦って勝てばいいんじゃねーの?」


 ネームレスがアイツと呼ぶのは白衣の男――クジョウのことだ。

 遭遇時の絶大なインパクトですっかり失念していたが、彼らにとっても非常に有名なネームである。

 ――無論、変人としてではない。


「そんな単純な話じゃないだろう、人数が違う。それにしても……まさか、引退したと言われていた“形天”がこんなところに居たとは」


 “形天”――。

 最初期のひとりで、ナンバリングは聖天に次ぐ二位。

 つまり、二人目の十二天として――かつての七天に選ばれたプレイヤーだ。

 古い二つ名は“人形師”、クラスはドールマスター。

 戦闘職でありながら生産職としての能力を有する稀少なクラスで、作り出した人形を従えて戦闘を優位に進める。

 ただし、育成に際し二足の草鞋(わらじ)を履くことになるため、単純な個の戦闘能力が低いという短所もあった。


「形天が抜けて、今は“装天”てのが穴埋めしてんだっけか?」

「ですですー。なんでもフリーの凄腕装機銃使いらしいですよー?」

「装機銃? って、絡繰り仕掛けか。また珍しいもん使ってやがんな……」


 リリルがもたらした情報に、ネームレスは顔をしかめた。

 人間種族(ユーム)の世界≪アーティグリフ≫とは全く異なる文化を持つ別種族が生活する大陸で作られている。

 機械による制御や変形により射程や用途に富むが、反面操作性が悪く非常に扱いが難しい武器だ。


「≪ルーングリフ≫の武器だったかしら?」

「じゃったかの。となれば、装天とやらは獣人か亜人種族なのかのう」

「他と隔絶してるのは≪アーディグリフ≫だけだ。それ以外であれば、どこの出身だろうと不思議はない」


 スズランとキリュウの会話にエルニドが横やりを入れた。

 そんなやり取りに首を傾げる少年。


「種族? 出身?」

「あー。もげっちはまだ知らないんだっけか……」


 これまでの少年の旅の軌跡は、リウマ大陸のライア地方だ。

 最近になってようやく隣のレント地方に足を踏み入れたばかり。

 まだ大陸間移動すら経験したことのない身の上で、世界間移動の話を聞いたところで理解できるはずもない。


「世の中には、俺たち以上に色々な人が居るってことさ」

「そうなんだ!」

「というより、もげ太さん。もう異種族の人とは遭遇してますよー?」

「えっ?」


 言われ、もげ太は記憶を巡らせるか、そのような人物が果たしてこれまでに居ただろうか。

 考えてみるが思い当たりそうにない。


「うーん……誰だろう?」

「花月のゲンマさんですよー」

「ええっ――!?」


 こればかりは、なんでも“そうなんだ!”で受け入れてしまう少年も驚いたようだ。

 彼の特徴のある髪型――リーゼントのような頭髪は、(たてがみ)の一部。

 見た目ではほとんど人間と見分けがつかないが、月に所以を持つその出自は“人狼”だ。


「あとは、三下……じゃなくて二下の野郎もそうだわな」

「二下?」

「えーと、あれ? 名前なんていうんだったっけ……」

「たぶんだけど、ベリガ――深雪のことじゃないかしら?」

「あぁ、それだそれ!」


 スズランの助け舟に乗り、ネームレスは大きく手を打った。


「……って、もげっちは会ってないんだっけ?」

「えーと……はい。分かりません!」


 もげ太は、目を><にして返事をした。

 余談ではあるが、ベリガの出身は《セイングリフ》、精霊種族が住まう地――いわゆるエルフだ。


 そんな感じで、わいのわいのと別の話題で盛り上がる一行を前に、大きなビジュアライザが立ち上がる。

 映し出されているのは、白衣の男――クジョウ。


『盛り上がっているところを申し訳ないが、こちらの撮影……とは全く無縁の準備も整った。そろそろ進めても構わないか?』


 スピーカー越しに何やら不謹慎な単語を含めた低い音声が聞こえてくる。

 とある少女はやや顔を引き攣らせながらも皆は顔を合わせ、互いの意思を確認した。


「あぁ、いつでも構わないぜ」


 モニタに向かって告げるネームレスの言葉に全員が頷いた。


『――よろしい、ならば戦争だ』




 ◇




 不吉な音色で告げられた言葉の後、男の指示によってそれぞれが別の扉を潜ることとなった。


「エルニドぉ……」

「もげ太……」


 見つめ合う二人。

 そっと手を握り合い、別れを惜しむ。


「つか今生の別れじゃあるまいし、ちと大げさ過ぎんだろ?」

「もぉーげぇー太ぁーさあぁぁーんっ!!」

「って、テメェもかよぉ――!?」


 ひしぃ! と抱き合うもげ太とリリルを何とか引き離し、ネームレスはメンバーをそれぞれ別の扉へと誘導した。


「……わたしには何もないのかしら?」

「テキトーに頑張れ」

「頑張るわ!」


 大半は渋々、一部はウキウキといった様子で扉を潜っていく。


「また後でな」

「ではの」

「のし」


 そうして中央ルームに残ったのは、もげ太とネームレスのみ。


「……ほれ。もげっちもそんな不安そーな顔してねーで行ってこい」

「うぅ」

「エバフレのマスターで、俺たちのリーダーなんだろ? シャキッとしろ、シャキッと」

「う、うん……」


 ネームレスは、少年の小さな両肩を軽く叩いた。


「もげっちなら大丈夫だ。俺が言うのもなんだが……結構特別(・・)だと思うぜ?」

「特別?」


 掛けられた言葉に首を傾げる。


「おう! なんつーかな……シックスセンスってヤツ? 他にないもの持ってるっつか……そんな感じだ」

「よく分からないけど……えへへ。ありがとう、ななさん!」


 少年は鼻の下を人差し指で擦り、満面の笑みを浮かべて扉の中へと入って行った。


「さぁてと――それじゃま、いっちょやってやるかな」


 指の骨をポキポキと鳴らして扉へと向かう。

 そんな背に掛けられるスピーカー越しの低い音声。


『皆が居なくなった後、独り言で自身を鼓舞するとは……なんという厨二だ』

「ち、違ぇっつの!!」


 痛い指摘を受けて赤面するネームレス。

 ここが男の監視下にあることをすっかり失念していた。


『ソれより、どの口が“つか今生の別れじゃあるまいし、ちと大げさ過ぎんだろ?”――ナんて言エたんダロナー』

「うわあぁぁぁぁぁぁーー!!!!」


 完璧な声帯模写で再生される自分の声に、先ほどのやり取りが脳裏にフラッシュバックをする。

 直後、ネームのように赤くなった影天が、残った扉の中に突貫していったそうな。




 ◇




「では、始めようか」


 声は外部拡声器を通じて届いていることだろう。

 一行が個別に入室したことを確認し、クジョウは別室からモニタリングを行った。

 映し出されているのは、もげ太、エルニド、ネームレス、リリル、キリュウ、スズランの六人だ。

 下部には、HPやMPバー、付与ステータスの状態なども表示されている。


『ラじゃ――Sダミー投入』


 男が頷いたことを確認し、エリザはコンソールのボタンを押し込んだ。

 各部屋にトレーニングダミーが出現する。

 もちろん、初級者である少年に十二天と呼ばれる彼らと同じTMOBを宛がうわけにはいかない。

 各々のレベルの同等のTダミーが用意されている。

 通常は戦闘練習に使用される機能だ――が、Sダミーと呼ばれるそれは、男の手によって特殊な細工が施されている。


『確認。全員、戦闘開始したヨウだゼ?』

「ほう。かなり個性的な面子が揃っているはずだが、思っていたよりも協力的のようだ」


 戦闘の様子をモニタリング――つまりデータ化されていることは、彼らとて気付いているはずだろう。

 それでもなお、こうまで従順に従ってくれるとは、男にとっても良い意味で想定外だった。


『ウテもアノ光天が大人しく従ってルのが不気味に思うナー』


 エリザがリリルの名前を挙げる。

 あの中で、もっとも警戒心が強いのは間違いなく彼女だろう。

 偶像として多くの支持を得る光天だが、内面はその外面とは対極にある――それが男の見解だった。


「鍵はやはり――あの少年だろう。どういった接点があるのかまでは推測しかねるが……ふ。ここにきて四天の揃い踏みなど、あまりに都合が良過ぎてる展開に我が目を疑ったほどだ」


 クジョウは、モニタに映される戦闘の様子――特に一点を注視する。


『オイおい。今回くらイ趣味全開は自重しとケ』

「分かっているさ。後でじっくりねっとりと鑑賞しよう」


 視線の先には、振袖をなびかせて戦う和服の少女。

 エリザは、一枠だけ“●REC”という赤文字が二つも点灯しているのを見逃さなかった。


『……モはや何モ言うマイ。キリウが本命中の本命ナノはダシナー』


 エリザの発言に、男は笑みを以って返した。

 本命――言い得て妙な単語に。


「まさに。本命の少女こそが本命とは……なんと数奇な運命よ――マイ・デスティニー!!」

『落ち着ケ』


 〈ずびし!〉と、エリザは腕に仕込まれた短剣を男の頭に向けて射出した。

 戦闘が開始され、拡声器がオフになっていたことが幸いか。

 聞こえていれば、本命とやらの戦闘に影響を与えていたに違いない。


「……どうやら少し血が上っていたようだ。物理的に血圧を下げてくれて感謝しよう」


 クジョウは側頭部に短剣を半ばまで潜り込ませたままエリザに振り返った。

 仮想世界でなければ大惨事――というか仮想世界でも即死判定を受けて不思議はない致命傷なのだが。


『ナンて言ってル間に、キリウがクリアしたミたいダゾ?』

「おぉ、エンジェェェェェェルゥ!」


 モニタにはこちらに向かってVサインを示す少女が映っている。

 それに対しクジョウはというと、SSボタンを連打していた。

 ダミーのライフゲージは見事に0%だ。


『コれ、ラミがヤったのと同数値ダっけカ?』

「いや、彼女とは天使とではレベル差がある。こちらの方が若干設定は高い」

『ラミは確か……有効打を与えラレずにタイムオーバーだっタナー』

「それは仕方ない、彼女は未完成なのだ。アレを打破するには、システムを越える干渉力が必要なのだ――彼らの言う“無制限(アンリミテッド)”のようにな」


 Sダミーに実装された特殊防御能力――。

 それは、システム制限内における攻撃を全て無効化(レジスト)するというものだ。

 通常攻撃やスキルでは一切効果を与えられず、拡張(エクステンド)されたスキルで初めて実体を捉えることが可能。

 ダメージを与えられるのは、その上――限定(リミテッド)を越えてからだ。


『デも、リミテッドまではシステムの想定内だっタよナー? なんでアレが通るんダ?』

「想定内というより物理強制力でシステム監視下に置いているに過ぎない。わずかに零れた部分が礎に届いているのだ」

『ジャアやっぱクリアにはアンリミテッドが必要ナノカ』

「無論だ。その識別を行うためのモニタリングだからな。天使が“解放者”であることは、既に知り得ていたこと。願わくば――」

『キリウ以外の解放者。見つかルといいナー。…………オ?』


 そうこう言っている内にモニタのひとつが点灯し、ミッションクリアを現した。


『他ニモ誰か上がってキタみたいダゾ?』

「ふはは……そうか! さすがは十二天、枷を破る者が他にも居たか! さぁ、誰だ。誰が上がってきた――!?」


 クジョウは珍しく少女以外の存在に興奮し、モニタを鷲掴みにする勢いで走り寄った。

 焔天か、影天か、それともやはり光天か――?

 そして、男が目にした姿とは――


「……む?」


 どアップで映るのは、栗色の謎の房。

 動物の尻尾のようなそれが、ぴょこぴょこと左右に揺れている。

 向こう側からカメラを覗き込んでいるのだろうか。


「エリー。これは誰のルームだ?」

『アァ。聞いて驚ケ』


 ゆっくりとエリザの首が男の方へと向く。

 わずかにうなだれたような姿勢は、まるでどこぞの洋館のホラー人形のようだ。

 その口が小さく動き、言葉を紡ぐ。


『ナンとアノちび助ダ』




2016/09/15

挿入話です。

次話投稿で挿入すると更新と勘違いされてしまいそうだったので、一話ずつ繰り下げることにしました。

あとがきおよびタイトル部分はいずれ消去します。

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