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戦うもげ太くん!

2016/09/15

本文修正しました

 



 リウマ大陸中央にある山岳地帯から南に流れる大河――ニーメル。

 大陸南側を縦断する大河から西側をライア地方と呼ぶ。

 そのニーメル河から西、鼻の先の距離にあるのが楓柳の本山でもあるキヨウの町。

 西南端の半島にあるネネムや大陸西岸にあるメルニカの街と同じく、キヨウもまたライア地方に属している。


 そして、ニーメル河を挟んで東側南部をレント地方。

 レント地方もやや小ぶりながら南側に半島を持ち、そこから沖合いに浮かぶ双子島、ライア地方の南半島を合わせ、ロワン内海を形成している。

 レントの南半島の付け根付近にあるセカンドシティのひとつセレン。直線距離にすれば、ネネムやメルニカからキヨウに行くよりも近い。

 ネックがあるとすればニーメル河を越えるための渡し舟が必要なくらいで、仮に迂回するとなるとリウマ大陸中央にそびえるディフル山を迂回しなければならない為、選択の余地はない。


 そうして、一行は東の船着場から海岸線沿いに伸びる街道を東進しつつ、目ぼしいMOBを見つけてはレベリングに貢献をしていた。




 ◇




『ガオンッ――!』


 四足走行の猛獣が大きく跳躍し、鋭い爪と牙をギラつかせて獲物に飛び掛かる!


「――もげ太、来るぞ!!」

「うんっ!」


 エルニドの合図で、回避行動を取る騎士見習いの少年。

 攻撃の予測地点を示すフィールドマーカーが表示されてから判定の発生まで短いのが、AIモンスターの物理攻撃スキルの特徴だ。

 わずかでも回避が遅れると間に合わず、しかし、迅速に対応すればかわせるだけに当たった時のダメージは大きい。

 エルニドの指示の受けるから回避動作を取っていたもげ太は、難なく豹型MOB――シャールの攻撃を避け、


「はぁっ!」


 硬直を見逃さず、最大攻撃を叩き込む。

 もげ太の≪ダブルスラッシュ≫が、敵の体力の二割を奪った。


『グルル…………ガァッ!』


 硬直の解けたシャールが背を向けたまま尾を振り、もげ太を横薙ぎする!

 平均サイズを大きく上回る固体は、独自の知能を発達させるというが、このシャールも例外に漏れないようだ。


「もげ太さんっ――!」


 リリルが声を張り上げる。

 メンバー構成から、今回は育成効率も踏まえての格上のMOBだ。

 当たれば大きく体力を削られてしまうことは必死で、一撃が致命傷ともなり兼ねない。

 そんな攻撃が、今まさに少年に迫り来る――直後、


「やっ!」


 ガキィン、と金属に硬いものが衝突する鈍音が響き渡る。

 PTの表示ログは――



 [もげ太の≪ヘヴィシールド≫! シャールの攻撃のブロックに成功!]



 なんと、もげ太が盾スキルを使用してシャールの攻撃を防いだのだ。

≪ヘヴィシールド≫は、制止状態でないと発動できない代わりに盾の性能以上の防御効果を発揮するスキルだ。


「なっ……!」


 その攻防に絶句するエルニド。


 VRは、操作キャラクターの視界そのものがプレイヤーの認識できる視覚領域となっている。

 もげ太の位置からは、敵の≪テイルフレイル≫は完全に死角だったはずだ。

 熟練のプレイヤーならまだしも、経験の浅い少年がどうやって感知したのか。


 ガードの成功によって敵ともげ太の硬直が入れ替わる。

 すかさず身体を敵の側面に滑りこませ、そのまま左上に盾を振り抜いた――!



 [もげ太のシールドバッシュ! シャールが昏迷した!]



 通知ログを目に、さらに一同は驚きに目を見開く。

 そのまま少年は反対側の剣を肩上に振り上げ、


「いやぁっ!」


 シャールの脳天に叩き込まれた≪スラッシュ≫は、基本スキルながら「お見事」と拍手(かしわで)を打つほどに華麗に決まった。




 ◇




「驚きましたねー」


 道中の出来事を思い返し、リリルは片手を胸に当てる。

 そこにはローブの上からでも見て取れるほどの膨らみがあった。

 背丈は150半ばと少女タイプのアバターではあるが、実年齢は定かではない。


「あはは……まぐれですよ」


 褒められるのがくすぐったいのか、もげ太は笑いながらも気恥ずかしさを浮かべていた。


 あの後、順調にダメージを重ねていったもげ太は、ほぼ完璧な形でシャールを撃破していた。

 仲間からの厚いバフが掛けられていたとはいえ、全てのプレイヤーにあれが出来るかといえばそうでもない。


「いえいえ、完璧でしたよ? ね、エルニドさん!」

「あぁ、驚いたよ。……いつの間にそんな練習をしたんだ?」


 旧知を除けば、これまで二つ名でしか呼び合うことはなかった仲間たちの関係だが、どこで深めたのか自然と名前が口に出ているようだ。

 呼ばれた大太刀使いも特に気にした様子はない。

 問われた少年は、照れながら答えた。


「僕も、見えないところで結構練習してるんだよー? ねっ、リリルさん」

「はいー。それでも、これほど上達しているとは…………もげ太さん、恐ろしい子!」


 練習してどうにかなる類のものかはさておき……エルニドは会話を聞き、ふと察したことがある。

 エルニドは、学生ながら現在は運動部に所属していないため帰宅が特に遅いということはない。

 しかし、通学距離の関係から早いかを問われると「否」――と答えるだろう。


 どうやら、もげ太は目に見えないところでも鍛錬を欠かしていないようだ。

 目に見える証拠としてレベルは着々と上昇を続けており、先のシャールを倒したところでめでたく[21]となっている。

 これで慣れ親しんだ……というよりもある種トレードマークだろうか。

 初心者マークを卒業したことを考えると、不思議と感慨深いものがあった。


「光天。それって俺らの知らないとこで、もげっちの練習に付き合ってる――ってことか?」


 問うネームレス。

 その発言から、彼ももげ太に関して知らない行動帯があるようだ。

 エルニドと同じく“高校生”という話を本人の口から聞いているので、やはり平日のインに関しても同程度だという。


「まぁ、光のは日々終日インしておるからの。時間を持て余しておるのじゃろ」

「その言葉、そっくりお返ししますよー? キ・リ・ちゃん」


 もうひとりの和装の少女――リリルよりほんのわずか背丈が高いキリュウの呟きを聞くと、彼女は即座に言い返した。


「…………言われてみりゃ、どっちの不在も見たことねーな」


 彼の発言に、頷くメンバーも多い。

 二人とはまだ付き合いの短いネームレスだが、これまでイン中に両者のダイブアウトを見たことがなかった。

 彼のイン時間は平日は早くて夕方以降だが、週末であれば終日だ。

 さすがはレベルランカー――の一言で片付けていいものやら。


「そうね。わたしも基本は夜だけど……講義がない日は、日中に居ることもあるわ」


 三人の女性メンバーが居る中で唯一多量のフェロモンを周囲に撒き散らしている女性、スズランが言った。


「誰も聞いてねーし」


 ネームレスがそっぽを向く。


「…………ツン?」

「誰がだよ!」

「あ、デレた」

「意味分かんねーし!」

「……えっと、最寄のINNはどこかしら?」

「そっちの意味まで分かりたくねぇ!」


 元々、面識がある素振りを見せる彼らだが、ここ最近では特に親しさ――いや、扱いに長けたというべきか?

 不思議な睦まじさを感じる場面もたびたび目にした。


「――ま。もげ太は成長し、取り巻く面子の仲も深まる。悪いことじゃないさ」

「ちっ。達観してんなぁ、ハゲの若年寄(わかどしより)は」

「誰が禿げの若年寄か――!?」

「若年寄か…………くくく。言い得て妙じゃのう」

「いや待て。………………なんだこの内に湧き上がる感情は」

「え。とうとうロリ道に目覚めた感じです?」

「どちらかと言えば……ショタじゃないかしら?」

「お、お前ら……」


 笑ったり怒ったり笑ったり。

 でも、最終的には怒る回数が目立つ気もする。




 ◇




 そんな調子で、一行が辿り着いたのはレント地方の街――セレン。

 内海に面した港町で、目に入る街並のほとんどが古い石造りなことから、どこかノスタルジーを感じさせた。


「それでは、今日の冒険はこの辺りーですかね?」


 リリルがお決まりの台詞を口にして、ぱんと両手を叩く。

 皆がもげ太に合わせた団体行動を心掛けている為、キリの良いところで自由行動を取るようにしている。

 つまり、解散宣言と考えて支障はなく、ここからは残りたい人だけ残ればいいということだ。


「それじゃあ、わたしもこの辺りで」

「お疲れ様です、スズランさん!」

「んじゃ、俺も……じゃあな、もげっち!」

「お疲れ様です、なな――ネームレスさん!」


 簡単な挨拶を交わし、ログアウトをしていく仲間たち。

 透過していくアバターを見送る。


「わたしは、ちょっとギルドの方に顔を出してきますー。ごめんなさいです、もげ太さん」

「いえいえ。いつもありがとうございます、りるさん!」

「ではではー」


 のしのしと手を振り、【転移石】でテレポートを行うリリル。

 高価なアイテムだが、彼女のギルドは別大陸にあり、また彼女自身がサブマスターの地位にあることから双方と立てるとなると欠かすことはできない。


「ふぅむ……残ったのは、我ともげ太と焔のの三人か」


 キリュウが呟く。


「あぁ、そうだな」

「ですね!」


 彼女は、エルニドのことを“焔の”と呼び、相手がネームレスであれば“影の”と呼ぶ。

 しかし、もげ太やスズランのことはストレートに“名前”で呼ぶのに対し、友人であるはずのリリルのことを何故“光の”と呼ぶのだろうか?


「なぁ。戦天……」


 いい機会なので、前々から疑問に思っていたそれをエルニドが問うた。


「ふむ? 言われてみれば確かに。じゃが、深い意味などない。おそらくは互いの立場や年齢の関係じゃの」

「年齢?」

「うむ。光のも焔のも影のも我より年上じゃろう? さすがに名を呼び捨てにするには気が引ける、さりとて“さん付け”も性に合わぬからの」

「なるほど……。白花は――」

「スズランは、ギルドメンバーじゃからの。無論、ベリガとて呼び捨てておった」

「そういうことか。ならば、もげ太は?」

「む?」


 キリュウが首を傾げながら器用に横を向く。


「はえ?」


 きょとん、と目をぱちくりさせるもげ太と目が合う。

 そのまましばらく見つめ合い、やがて少女がこくりと頷いた。


「他に呼びようがない」

「…………分かる」


 そもそも二つ名や通り名を持っていないもげ太を名前以外で呼ぶとなると、影天のようにニックネームを付けるしかない。

 しかし、より付き合いの長い光天や白花にすら行っていないことをする道理もないのだろう。


 ……やもすると、もげ太のことを年下だと思っているのかもしれないが。


「ま、互いに異論がないなら、それで構わないんじゃないか」


 エルニドがもげ太の年齢を知っていたところで、少女の実年齢を知ることはない。

 災いやらの元は(つぐ)むべきだ。

 しかし、もげ太は少女のことを何と呼んでいただろうか?

 キリュウさん? キリュウ? ……どれもしっくり来ない気がする。


 まぁ、それはさておき。


「あぁ、それで次の目的地なんだが――」


 エルニドは話題を切り替えた。

 戦天曰く、


『五人目を探すならちょうどいい暇人がおる。あやつなら我らが十二天でも気に掛けることはない』


 という下りでレントにやってきたのだが、どうにも良い予感がしない。

 戦天の知人というだけで常軌的なプレイヤーでない確率の方が高い――のはまだ良しとしよう。

 しかし、そのクラスのプレイヤーで暇人とは一体どういうことなのか。

 勧誘するとなると、ソロプレイヤーであることが前提条件になるのだが。


「セレンにいる……わけじゃないよな?」

「さすがにの。ただ、緒たる所以で、この近くにおるというだけじゃ」

「その心は?」

「キヨウ――というよりライア地方への出禁を命じた。ベリガ以上に面倒な性格をしておるゆえの」

「い、いきなり物騒な話になったな……」


 出禁――有り体に言えば、出入り禁止。

 ある意味では、ライア地方の元締めとも言える楓柳の元マスターだ。

 そのくらいの発言権があっても不思議ではないが、間違って解釈しようにも穏便には遠い。


「それで、キヨウから最寄の町セレンの近くにいつの間にやら居を構えていた――というわけじゃ」

「故意に戦天の近くに陣取ろうとしているように感じるのは気のせいか?」

「さての。鬱陶しいゆえ、あまり歯牙にかけとらなんだ」

「………………」


 ――いいのか、それで。


 などとエルニドが思うのも当然か。

 この少女は、そんな得体の知れない人物をもげ太のギルドに引き込もうとしているようだ。


 彼が全力で止めるべきかどうかを考えていると、


「その人……キリさんのことが好きなのかな?」


 わずかに顔を横に傾け、目線を空に向けた少年が、ストレートに言い放った。

 少年の少女に対する呼び名が判明したのはいいが、肝心の当人は一体どう返すのか。


「フォローやら悪戯文なら度々届いたが……さて、どうじゃろのう」

「悪戯分? ゲーム内メッセージでか?」

「色々じゃ。しばらく未読にしておいたらめっきり届かなくなったが……」


 エルニドは聞いて後悔した。

 割と危険な臭いしかしない。


「それはなんて書いてあったんだ?」

「あー……確か、『貴女という桜の蕾が開く前の永遠を、結晶にして残すことはできないだろうか』――とか、そんな類であったか」

「おい。それは……」


 その場で半歩後ずさりをする。

 彼の顔は完全に引き攣っていた。


「……いい加減言わせて貰うが、本当にそんな奴をもげ太のギルドに引き入れるつもりなのか?」


 正気か? と言わんばかりの顔つきでエルニドはキリュウに言い寄った。


「む? 何か問題でもあるのか?」

「あり過ぎだろう」

「どの辺りがじゃ?」

「どの辺り…………という、むしろ問題以外ない気がするのだが」


 どうもこの少女には天然じみたところがあるのか。

 相手の人物像を掴み切れていないようにも思える。


「ま、腕だけは確かな男じゃからの。我々の仲間に加わるなら、同じ蚊帳に居る者の方がよかろうて」

「ほう?」


 戦天にアピールをするほどの人物であれば、備える実力もそれなり以上ということか。

 なまじ名の通ったプレイヤーが集まっているだけに、その方が有り難い点もあるし、考え方によっては趣向全開の方が変に裏があるよりマシだともいえる。

 こういったところが、エルニドが実力主義――――とまではいかずとも重きを置く一面の表れか。


「それはさておき、じゃ」


 手を叩いたのは、この話はここまでという仕草だろう。

 向き直った少女は、真っ直ぐにエルニドの目を見据えた。


「光のやスズランは長い付き合いじゃ。もげ太はさておき――――影のも先日確認したばかりだしの」

「……何の話だ?」


 話の意図が見えず、エルニドは首を傾げる。

 それを受け、少女はにやりと笑った。


「なに。かつて“火神”を名乗ったおぬしの実力を、じゃ」

「………………」


 なるほど、修羅姫の異名は飾りではないらしい。

 可愛らしい容姿をしていても、キリュウの本質はやはりバトルマニアなのだ。


 ――とはいえ、


「…………おっと急用を思い出した。もげ太、また明日な」

「え? あ、うん」


 エルニドがそれに付き合う必要はない。

 片手を上げ颯爽消えて行く大太刀使いを、少年と少女はぽかんと見送った。


「…………なぬ? これはもしや、逃げられたのかの?」


 気が付いたのは、しばらく立ち尽くした後のことだ。

 それから残った二人がどう過ごしたのかは、当人のみが知る話である。




VRの視界の関係で、キャラクターの身長は現実世界のプレイヤーと同期しています。

各キャラクターの設定ですが、


もげ太………149cm

エルニド……183cm

ネームレス…178cm

リリル………154cm

キリュウ……156cm

スズラン……167cm

ゲンマ………175cm


となっています(暫定)

成長期のキャラは、今後伸びる可能性もありますね。

年齢の方はまだ秘密です。

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