喧嘩するほど仲が良い?
2016/09/06
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もげ太がギルド管理局のNPCから簡単な説明を受けた後、一行はメルニカの案内人から紹介を受けたカフェ“潮風”へと場所を移すことにした。
管理局から比較的近い場所にあり、小さめな店舗ながらもオープンカフェ特有の解放感があった。
街路に揺れる観葉植物の葉音が心地よい。
――のだが。
「おい……見てみろよ、あっち」
「え……うわっ、あれって十二天? 嘘だろ? 何でこんなところに居るんだよ」
「しかも、ひぃふぅみぃの……四天――!?」
「あはは。そっくりさんだってそっくりさん。有名プレイヤー真似るのなんてよくある話じゃないか」
「でもよう……なぁ?」
そういったひそひそ話が、あちらこちらから耳に届く。
せっかくのオープンカフェも、この面子にとっては逆効果だったようだ。
通り行くプレイヤーの注目を無駄に浴びてしまった。
「ホワイトクリームソーダ五つくださいー」
そんな光景などに我関せず。
リリルは、テラスのカウンターでドリンクの注文を行った。
インベントリではなく手渡しされたドリンクをトレイに載せて運び席へと着く。
コスト対策なのだろう、セルフサービスカフェのようだ。
飲み物をそれぞれの椅子の前へと並べていく姿を見て、ネームレスはその数が足りていないことに気が付く。
「……ん? ひとつ足りねぇぞ? テメェの分はいいのか?」
「え? ちゃんとありますよ?」
目をぱちくりとさせるリリル。
彼女は椅子を引き、ちゃっかりと自席を確保した。
「いや、五つって数え間違って……」
言って、そこではたと直感が脳裏に囁いた。
――これは、故意だ。
「………………」
しかし、ここでそれを口にするのは憚られた。
まだ誰の分とは決まっていないこの場面でそれを言えば、自らその枠に挙手することになってしまう。
それでは、この女の思う壺だ――と。
ここは、無言でさっさと座ってしまうのが得策か。
「あ。ネームレスさんは椅子ひとつ持ってきてくださいねー?」
「――って、やっぱ俺かよ! ははは! まー、お見通しだったがなぁ――!?」
先手を打たれ、大股歩きでズンズンと遠ざかっていく影天の後姿を見送る一同。
遅れて戻ってきた彼の手には白いチェアーと、せめてもの抵抗か一回り立派なソフトドリンクが手に握られていたのが涙ぐましい。
「ほう……かの影天も随分と丸くなったものだ」
「そうかしら? 昔からあんな感じよ?」
「そうなのか。俺は、そう長い付き合いでもないからな」
椅子に深く腰掛けた巨漢の男が、胸筋を押し上げるように腕を組む。
エルニドにとって、数週間前に出会って以来の影天が自分の知る全てだ。
初対面でいきなり斬り掛かられた記憶の除けば、噂で耳にするほどのマイナスイメージはない。
「へぇ? でも、顔にはそんな風に書いてないわよ?」
「何が書いてあるんだ?」
「“ちゃんと理解してるさ”って」
今では、共に大事な友人を守る仲間――。
それは、少々言い過ぎかもしれないが、こと少年に関わる事象であれば誰よりも信頼できる存在と評して過言はない。
「はは。それは俺も初耳だな」
実際、指摘されるような表情を浮かべていた自覚はある。
エルニドは苦笑しつつ受け取ったドリンクにストライプ模様のストローをぶすりと突き挿し、ぢゅーぢゅーと勢い良く吸い上げた。
乗せられた固体のバニラアイスでさえもバキュームされる肺活量に、プラスチック製の容器がべこべこと凹んでいく。
「……さて。やがてもげ太も戻ってくるだろう」
ちなみにもげ太はというと、小さな街路樹の中に生息する謎の甲殻類が気になるのかその前から離れようとしない。
バニラアイスクリーム付きのドリンクに気が付けば飛んでやって来るに違いない。
「――だが、その前に確認しておいたいのだが」
「その前に?」
ドリンクを一気に飲み干してハンカチで口を拭う巨漢に一同の目が集まった。
ハンカチが熊柄なのは見て見ぬふり。
というのも、彼の表情があまり明るくはなかったせいだ。
「その……これから“エバーフレンズ”についての話し合いをするのだろう? このまま俺が残っていていいのか?」
〈――ぎろりっ〉
言い終えるや否や、白い少女から鋭い視線が浴びせられた。
そこはかとなく彼女も気にしていたのだろう、しかし、それでも居座るつもりだったのだろう。
そこまで見越した上でドリンクサービスを行ったのかもしれない。
が、それを影天ではなくエルニドに回した辺り采配を間違えているような。
「は? ……あぁ」
一同は、何のことか――と考えかけたが、すぐにその発言の意図に心当たった。
エバーフレンズの話し合いにおいて、他ギルドに所属するエルニド(&リリル)は部外者となってしまう。
この段階での内容など些細なものかもしれないが、同席を良しとするか悪しとするかは所属メンバーが判断することだ。
エルニドがもげ太の不在を見計らって尋ねたのは、他のメンバーの本音を聞くためか。
ギルドに加入予定であるネームレスがどう考えていようと、もげ太――マスターが許可してしまえば彼の性格上反論はしまい。
しかし、そんなエルニドの機微を一蹴するように、
「別にいいんじゃねぇの? ここでサイナラ――ってのも人情に欠けんだろ」
ネームレスから軽い返事が戻って来た。
「「「………………」」」
まさか、“千人斬り”の異名を持つPKerの口から『人情』などという言葉が出てくるとは。
そんな彼はというと、自ら用意したLサイズのフルーツソーダフロートを前に「ちっ。勢いで買っちまったが、コイツをどうしたもんやら……」と睨めっこをしている。
発言は、やはり他意のない本心なのだろう。
驚いたのは、当のエルニドだけではない。
リリルも、もちろんキリュウも目を丸くして驚いていた。
唯一微笑みを崩さなかったのはスズランだけだ。
「ね……ネームレスさん……」
そんな赤ネの人物に対し、最も顕著な反応を見せたのはフリルスカートの少女だった。
うるうると目に涙を滲ませがばっと立ち上がると、そのままカウンターへ駆け出していってしまった。
「どうぞ、ご笑納ください――!」
すぐに戻ってきたリリルの両手には銀色のトレイ。
その上には、まるで名峰――――山並みのパフェが乗せられていた。
「…………一体何のネームドモンスターだこりゃ?」
カフェ潮風限定メニュー、スペシャルパフェ『ロッキーマウンテンwithフルフルーツアソート』!
店主の遊び心で作ったとしか思えないそれは高さにしておよそ60センチ。
まさに人体の1/3スケールだ。
しかし、それを支えるための土台には確かな質量を感じさせる。
到底、自前のドリンクにすら苦戦をしている男に贈賄すべき代物ではない。
「これは、わたしの感謝と感動の気持ちです! ささ、遠慮はなさらないでください~」
「うっ……!」
ずいずいっと、特盛りスペシャルパフェを押し付けるリリル。
これが普段のような裏のある嫌がらせならネームレスも突っぱねれば済むのだが、純粋な善意という名のありがた迷惑ほど恐ろしいものはない。
「み、見てるだけで胃が荒れてきやがったぜ……」
滝のような汗を流しつつ、メガサイズのスプーン片手に喉を鳴らす。
もちろん、食欲をそそっているわけではない。
赤ネームではあるが、彼は他人の善意を無下にする性格ではなかった。
「クソがっ、南無三――!」
漢はスプーンを振りかざした。
ちなみに、ゲーム内とはいえ食事を行えば、脳の満腹中枢は容赦なく蓄積される。
功罪はともあれ、VRダイエットが圧倒的な支持を受ける理由のひとつだ。
銀の食器がクリームに突き刺さる――その直前。
「ただいま!」
やってきたのは、小さなアバターだ。
「みんな、待たせちゃってごめ…………」
見回した少年の視線が、テーブルの上にそびえる一点を捉え、離れなくなる。
エルニドがネームレスに目配せをした。
彼がもげ太を連れ戻してきたのだろう。
これ以上ない采配に感謝をし、尋ねる。
「もげっち……食べるか?」
「――!!」
その時のもげ太の喜びようは言葉で言い表せるものではない。
無言でこくこくこくこくと何度も頷き、小さな手には大きすぎるスプーンを受け取った。
そうして、メガサイズのパフェはあっという間に少年のお腹の中に収まってしまうのであった。
ついでにフロートも完食する。
「あー……俺が言うのもなんだが、身体、大丈夫なのか?」
「うむ。城でもこの程度はぺろりと食ろうておったぞ?」
ネームレス以外は桜花城で目の当たりにした光景だ。
彼は、聞かなければ良かった――と思うほど空恐ろしい話だった。
◇
間食を終え、もげ太が話し合いに加わると話はとんとん拍子に進んでいった。
「えっと、PTリストからこの[招待]を選べばいいんだよね?」
「あぁ、そうだ」
エルニドの手ほどきを受け、身内の招待を行っていく。
[ネームレスが≪エバーフレンズ≫に参加しました]
[キリュウが≪エバーフレンズ≫に参加しました]
[スズランが≪エバーフレンズ≫に参加しました]
こうして結成直後からメンバーが四人となったエバーフレンズ。
しかし、問題はこの先にあった。
「む。名簿の二番目が影のになっておるの」
「あ? んなもん招待順だろう」
「ぬぅ」
「ネームレスは、もげ太の開始初期から一緒に居るんだ。順当だとは思うが……」
「や。しかしじゃの……」
何やら釈然としない様子のキリュウ。
長いこと楓柳の頂点に居ただけに、誰かの下――特にギルドマスター以外の者の下に表示されるのが気になるのだろう。
「気になんなら別に代わってやってもいいが……」
「真か――!? ……あ、いや。それでは駄目じゃの」
「なんでだよ?」
「“代わってやってもいい”――など、まるでこの我が施しを受けたようではないか」
「気にし過ぎだろ。別にそんなつもりはねーっつの」
「むむむ……」
ネームレスの申し出は有り難いが、譲られるという形では少女の中で尾を引いてしまうのか。
そこにはトッププレイヤーとしての矜持もあるのかもしれない。
「ならば、いっそ勝負して決めたらどうだ?」
「それは、名案ですー♪」
この提案が、よもや災いを呼ぶことになろうとは、この時まだエルニドは想像していなかった。
◇
「十種神宝が一、《八握剣》――!」
小さな少女が右手に掲げる大きな扇。
それをクルリとひと回し、扇面を360度展開すると、上に向いた先端から金色の刃が現れた。
「おぬし相手に加減はせぬぞ――――ふるべ!」
その見た目は、円状の柄を持つ宝剣だ。
垂直に放たれた斬撃は、石畳を砕き、高空へと巻き上げながらターゲットへと破壊の力を叩きつける。
「――ハッ」
だが、相手は動じず、楽しげな笑みまでも浮かべていた。
男は抜き身となった二対の剣を構えると、黒い剣気を纏いながら発動すべきスキル名を唱える。
「上等だ、クソガキ――――天絃!」
伸ばされた両腕の剣は、後方から遠心力を以って上下、逆方向から交差するように繰り出される。
その動きを追従するように、黒いシルエットが巨大な牙を生み出した!
「噛み千切れ――咬噛双影牙!!」
牙は、周囲の地形を飲み込みながら金色の斬撃ごと咀嚼する!
互いの力が内部で弾け、轟音を上げながら爆砕した。
「やるではないか! 八握剣を打ち消すとは……さすが、影天の名は伊達ではないの!」
「ハハハ、テメェごと喰らうつもりで撃ったんだがなぁ、戦天! こうなったらここでどっちが上か白黒つけてやろうじゃねぇか!!」
“千人斬り”が戦場(街中)を作り出し、“修羅姫”が戦場(街中)に舞う。
「うわあぁぁぁ!!」
「なんだ、なんだぁ――!?」
「ちょ、こっち来んなぁぁーー!!」
リアル休日で賑わっていたセカンドシティ――メルニカは、一転して阿鼻叫喚の地獄絵図へと塗り替えられた。
「………………」
逃げ惑うプレイヤーを横目に、エルニドは冷たい汗が流れ落ちるのを感じていた。
発端は、自身の発言だ。しかし、
――よもや町中にて、十二天同士空前絶後の超バトルが発生するなどと誰が想像できたか。
てっきり、じゃんけんやミニゲーム程度で決着を付けると踏んでいたのだが、どう見ても対人だ。
しかも、人死にのない[決闘]システムや、先に一定ダメージを与えた側が勝利する[初撃決着]ですらない。
わざわざパーティを解除してまでの全力戦だ。
「これは見物ですよー。要チェックですー」
そんな二天の戦いを端末片手に観戦するリリル。
一体どこにネットで繋がっているのか。
彼女の同意は、ほぼほぼここまで確信的だったのだろう。
何せ、最後に焚き付けたのは彼女だ。
「十種神宝が二、沖津鏡――ふるべ!!」
「飲み干せ――影流羅!!」
二人が攻撃――特に大技を放つ度、被害を受けるのは周囲のプレイヤーだ。
「か、影がこっちの足元まで広がってきたぞ――!?」
「この光もなんか浴びたらヤバそうじゃねぇか――!?」
「お、おまえ、PKで俺TUEE自慢してただろ! アレ止めてこいよ!」
「バカ、無茶言うんじゃねぇよ! もし聞こえてたらどうすんだ!! あんなのファッションPKに決まってんだろ!」
もはや実力の伴わない者は、稀少バトルの観戦どころではない。
一部では知る必要のない独白もされつつ、まさに末世状態だ。
「げぇ――!?」
「あ、ヤベ――」
「ぶわぁぁぁぁーーー!!」
余波とはいえ巻き込まれたプレイヤーは、ただでは済まない。大半は即死だ。
不幸中の幸いは、ここがシステムタウン――ノーペナルティエリアということだろうか。町のオブジェクトの耐久値が異常に高く設定されているのも救いだ。
とはいえ、復活地点をメルニカに設定していなければ別の街に飛ばされるし、その距離に比例した蘇生までのクールタイムも存在する。
これは『死に戻り』というシステムを利用した移動法対策だ。
「十種神宝が三――!」
「天絃――!!」
戦いは流れた時間に比例してエスカレートしていく。
街中での戦闘行為に警備兵(NPC)も駆けつけるが、
「邪魔をするでない――!!」
「邪魔すんじゃねぇ――!!」
迷惑プレイヤーに対し脅威の実力を誇る警備兵らも、トップ層である二天を同時に太刀打ちができるものではなかった。
戦天はともかく、元々赤ネームである影天に今さらNPCキル程度のことなどオマケにもならないのだ。
この二人を止めらるなど、同等の実力者――つまり十二天やGMを除けば、あとは大ギルドといった圧倒的な物量をぶつけるしかない。
そんな貴重な人物のひとりは、噂のモラルをどこかに置き忘れて状況を静かに見守っていた。
「……止めなくていいの?」
「俺は、エバーフレンズに関しては部外者だからな」
「そ、そういう問題かしら」
淡々と告げる焔天――何処か拗ねているようにも見えるエルニドに、スズランは息を吐くしかなかった。
一応、エルニドも目に付く範囲で被害者を減らしてはいるようだが、橙色――柿ネーム以上は保護の適用外のようだ。
十二天屈指のモラリストの異名を持つ彼だが、それも時には妙な方向で発揮されるらしい。
いくら白花の二つ名を持つ彼女でも本気の十二天を、ましてや二天を止められる自信など微塵も無い。
例えそれが知人友人といえど、だ。
ちなみに、唯一この戦いを止められそうな人物――もげ太はと言えば――
◇
「えっ? 借りたお金を返さない人が居て困ってる……?」
『そうなんだよ。悪いがお前さん、代わりに取りに行っちゃあくれねぇか?』
「わ、分かりました!」
◇
メルニカのメインクエストおよびサブクエストの真っ最中だった。
むしろ、少年が始めるのを見計らってから二人の戦闘が始まったとも言える。
ちなみにこの後、もげ太は金貸しと借金苦との板挟みからドツボにハマってしまい、しばらくは戻って来なかった。
「――――ふるべ!!」
キリュウの蛇比礼によって顕現した三つ首の大蛇が炎を吐く。
ネームレスは影歩――影を用いて移動を行うスキルを用い炎を寸前でかわす。
攻撃の着弾点から炎が拡散し、近くを通りかかる黒衣のプレイヤーへと余波が飛んだ。
「………………」
もうダメかと思われた寸前、炎が掻き消される。
消えた炎との間、焔の名を冠する巨躯が立ちはだかっていた。
「……全く。易々とこのランクの炎術を行使されたら焔天の名が霞んでしまうな」
エルニドが【烙炎の大太刀】を以って蛇比礼の炎を相殺したのだ。
「………………」
そんな彼を、黒衣の人物は虚ろな瞳で見上げた。
いや、その視線は本当にエルニドを捉えていたのか。
感情を伴わない瞳は何を告げることもなく、そして何事もなかったようにそのまま去ってしまった。
「……何かひと言くらいあってもいいと思うけど」
見送ったスズランに、何か思うところがあったのだろう。
やや不服そうな顔をしていた。
「いや、身内の不祥事だ。咎はこちらにある」
「へぇ……身内ね」
「何か?」
「いえ、何でもないわ」
何が面白かったのか、愉快気にクスクスと笑う。
「聞くが……今の男、どこかおかしくなかったか?」
「そう? わたしは後姿しか見てなかったからよく分からないけど……」
「あぁ。グラフィックの一部がくすんでいるようにも見えたのだが――――気のせいか」
余計なことを考えていると、防御に入るのが遅れてしまう。
幸い、わざわざ他者を巻き込むような攻撃は繰り出してはいないようだが。
あらかたの避難は終わっているため、この先そう大きな被害は出ないだろう。
「一二三四五六七八九十っ――!!」
これまでとは異質な詠唱を行う少女の声に、エルニドとスズランが振り向いた。
彼女の周囲には、剣・玉・札という三種の神宝が合わせて十つが展開している。
「き、キリュウ様っ、それは――!?」
端整な顔立ちも何とやら。
スズランは目玉が零れ落ちそうなくらいに驚きに見開いた。
「ありゃりゃ。これはちょっとマズイですよー?」
胸の前で十字を切るリリル。
その安らかな祈りは、対峙する男へと捧げられている。
「くくく――――十種整うたぞ。これで終わりじゃ、影の!」
キリュウの詠唱に呼応するように、宙に展開した神宝が眩く輝き出した!
これまで使用した神宝の数は十――つまり、十種全てを使用したのだろう。
これが、切り札とやらの発動条件なのか。
「オイ……あのスキル光、尋常じゃねぇぞ……?」
目の前の光景の当事者として、嫌な予感を禁じ得ないネームレス。
今まさに発動せんとする何かに強烈な戦慄を感じているようだ。
「……あれは、キリュウ様の“アンリミテッドスキル”よ」
「あ、アンリミテッドだと――!?」
アンリミテッドスキル――通称ULS。
それまで最上級と言われていたリミテッドスキル(LS)より、さらに上位に位置すると囁かれている能力だ。
実際に習得が確認されているプレイヤーが存在しないため、都市伝説と言われている。
ごく数名の習得者やその周囲の人物を除けばの話だが。
「さすがは戦天だな」
「驚かないの?」
「彼女にすら扱えない能力なら、LSなどそれこそ噂にも上らないだろう」
「そ、そういう意味ではなくて……」
スズランがエルニドに言ったのは、それほどのスキルを町中で使用することに驚かないのか――という問いだった。
なまじその威力を知っているだけに、彼女の動揺は周り以上だった。
何せアンリミテッドスキルは、システムの影響を一切受けないのだ。
「周囲にプレイヤーも居なくなったことだし、US、ましてや真の戦天の実力などそうそう拝めるものじゃない。……特に止める理由も思い浮かばないが」
「あなた、名高いモラリストじゃなかったかしら……?」
「被害が出ないのであれば問題ない」
「ですねー。実は、わたしもキリちゃんのUS見るの初めてなんですよー」
「お、お前ら! 俺の心配はしねーのか――!?」
完全に隣の庭の花見客状態なノリの仲間たち。
立場が逆ならネームレスとて行動をしていた可能性もあるのだが。
「おいコラ、戦天! んなもん町中で……いや、中だろうと外だろうとホイホイぶっぱなしていい技じゃねぇだろうが――!?」
「くくく――笑止じゃ! 十二天同士の戦いに使わずいつ使うと言うのじゃ!」
「――!?」
言われ、一瞬でも「なるほど!」と得心しまったネームレスは、ダメ元の諫止機会を逃したことに舌打ちをした。
すぐさま対策を講じなければ数瞬後には惨事を迎えるであろう――しかし、何をどうすれば迎撃に繋がるのか解が出ない。
「クソッ――集まれ!!」
ネームレスが腕を振るうと、影流羅によって広範囲に渡っていた影が一点に集まった。
そうして確かな質量を得た影が、徐々に何かを形作っていく。
普段、影天が使用している天弦は、この影を細く無数の糸状に伸ばした能力なのだろう。
「というか、あれもリミテッドスキルじゃないのか?」
「そうね。確かアビリティ型だったと思うけど」
「そこ、さらっと人の能力暴露してんじゃねぇ!!」
「――はっ! 要チェックですー!」
キラーンと目を光らせ、さらさらと何かを書き留めるローブの少女。
最も露見してはいけない相手に露見してしまったような心境だった。
リミテッドスキルですら習得者は数える程度と言われているほどの能力なのだ。
「面白いぞ、影天!」
そんなやり取りが聞こえたのだろう、十種神宝に囲まれた“修羅姫”は笑いを浮かべた。
「十二天に名を連ねるからには何かしらの取り得を持っておると睨んでおったが――おぬしもリミテッド持ちじゃったとはのう!」
キリュウが両腕を構えると、輝きを放つ十の神宝がそれぞれ光のラインで接続される。
円状に並んだ神宝は、それ自体が大きなひとつの鏡を構成するような配置だった。
「では、どちらがギルドの二番目に相応しいかはっきりさせようではないか!」
「俺ぁどっちでもいいっつってんだろ――!?」
「くはは、問答無用じゃ――天璽瑞宝十種天神御祖大八握――!!!!」
アンリミテッドスキルの発動を告げる詞が唱えられた!
円を描く神宝の中心、十種において唯一つの武器である八握剣――を砲弾とし、収束した神器のエネルギーを持って射出した!
「ええいクソが、俺のはそういう用途じゃねぇんだよ!!」
叫び、ネームレスは双剣を地に突き立てる。
「陽杭の塔影っ――!!」
双剣リルグリッターとハイべノンを起点に、影によって生み出された巨大な斜塔がそびえ立つ!
それは生物のように蠢き、全てを飲み干さんとする――。
「む……」
「これは……」
「ちょーっとマズイですねー……」
彗星のような虹色の尾を引き、八握剣が破城槌のように突き刺さった!
しかし、拮抗はわずか、一点に威力を集中した神剣は、影の塔の先端から斜めに潜り込み、
〈――……!〉
大地への破突により発生した巨大な衝撃波は、メルニカの建築物ごと影天の身体を飲み込んだ。




