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隠れ呑み屋にて

2016/09/02

本文修正しました


 



 城下の外れにある飲み屋の一角――。


 寂れた外観とは裏腹に、内装はしっかりと整えられている。

 常連の御用達なのだろう――ただし、突き詰めた結果なのかメニューらしきものは置いてなかった。

 そんな店内の座敷テーブルを囲むのは五人――それとは別の一人が慣れた手つきで注文を取っている。

 他には店主が厨房にいるのみで、それ以外の客の姿はない。

 今日一晩の貸し切りだ。

 所狭しと並べられた食べ物を前に、各々がグラスを掲げて乾杯する。


「んくっ、んくっ――――っぷはぁ!」

「いよっ、良い飲みっぷり!」


 ジョッキを一息に飲み干したキリュウを、エルニドが両手メガホンで労った。

 ちなみに中身はビールではなくオレンジジュースだ。


「おら、食いモンもあるぜ? 好きなの食いな」


 言って、ネームレスは少女の前に鶏肉やら豚肉やら牛肉やらを皿に山積みにしていった。

 計算された絶妙な重なり方は、まさに肉の山脈。


「い、いや、好きなのというより……肉ばかりではないか? もそっと彩りを気にしたらどうなのじゃ?」

「あ? 肉の何が悪ぃ?」

「悪いとまで言うておらぬが……」

「はい! ではでは、わたしが彩りいきますよー♪」


 困惑する少女を他所に、リリルはその上からさらに枝豆、豆腐、塩キャベツ、キムチ、ねぎ焼、焼おにぎりを乗せていく。


「お、おぬしのこれは確信犯じゃろう――!? つまみばかりではないか!!」

「それが分かるキリちゃんも中々ですよー? ささ、たんと召し上がれ!」

「我にこれをどうしろというのじゃ――!?」


 楽し気な笑い声が店内に響く。

 貸し切りにしているため、他の客の迷惑になることはない。

 面子が面子なので、その方が気兼ねなくくつろげるのだ。


「キリュウ様。飲み物のお代わりを持って参りました」

「む? すまぬの。おぬしも動いてばかりおらんで好きに飲んで食うのじゃ」

「お心遣いありがとうございます。それでは失礼して――」


 スズランが空いた席――キリュウが手を叩く座布団に腰を降ろす。

 通路側、キリュウの隣だ。

 反対側にはリリル、対面はもげ太を中心にエルニドとネームレスが座っている。

 これは、少女の歓迎会――


「ほれ。もげ太も好きなだけ食べるのじゃぞ」

「はい! ありがとうございます!」


 ――というのは表向きの話。

 少年には内緒の、保護者各位によるキリュウへのお詫び会だった。


「くくく――たまには良きかな」




 ◇



 それからしばしの時間が流れ、キヨウの夜も更ける頃。

 盛られた料理のほとんどは平らげられ、残っているのはささやかなつまみとグラスだけ。

 宴も(たけなわ)――店内席は自由の、皆は歓談(?)真っ最中だった。


「――んで? 結局、楓柳はどうなったんだ?」


 アルコールの入ったグラスを傾け、ネームレスはキリュウに問い掛けた。

 中身は口当たりの爽やかな果実酒のリキュールだ。


「ん? ……あぁ。後はゲンマに任せてきたのじゃ。ぐびっ」


 目に力はなく、半ば出来上がった様子の着物姿の少女が返す。

 少女が飲んでいるのは、何故かの梅酒。

 興味本位で手を出したのだが、日頃の弱さ――というより飲みなれていないのだろう(VRで)、モロにそれが露見する形となった。

 酔って体温が上がっているのか胸元を肌蹴ており、対面のネームレスとしては少々目のやり場に困っていた。

 そんな光景を前に、スズランは不服を隠すためグラス――芋焼酎を煽る。


「(ぼそっ)わたしなんて……脱いだって相手すらしてくれないのに……ううっ」

「その内いいこともあるさ」


 そんな泣き上戸というよりもsage調子の彼女をエルニドが優しく宥める。

 彼が手にするのはお猪口(ちょこ)――日本酒の熱燗だ。

 そう強い酒ではないのだが、己でセーブをしているのだろう。ちびちびと舐めるように進めている。

 いざとなれば自身がブレーキとなる覚悟だった。


 ネームレスは、そんな背後のやり取りを全く気にせず――もしかしたら気付いていながら無視しているのかもしれないが――再びキリュウに問う。


「あー、花月のおっさんか。経歴考えりゃ問題ねぇ――つか、一番無難な采配か」

「じゃの。スズランまで我について来てしもたしのう。ま、ゲンマの奴めは、勝手に行方を眩ませた上に家まで吹き飛ばしてくれた罰じゃ」


 親しみのある名前で少し酔いが醒めたのか、キリュウは饒舌に語る。


 ――結論から述べると、GVGで敗れた楓柳は、神無風の麾下に置かれることとなった。


 その上で、楓柳の長である戦天を筆頭に、雪月花の幹部のひとりである白花までもが脱退。

 加えて同位の深雪もが行方を晦まし、残る月天はそもそもキヨウに戻ってくる気配がない。

 突如としてギルドのトップ四人が離脱した影響がメンバーに与えた動揺は計り知れず、そして、その穴を埋めるのは成り行き上神無風以外にはない。。

 それが大きな波紋と波乱を呼び、自分こそがマスターに相応しいと名乗りを上げる幹部もいれば、ギルドを離れようとするメンバーも多く居たという。

 しかし、蓋を開けてみれば神無風の長は、楓柳の元・最高幹部――花月。

 彼を代理マスターに据えることによって一応の体裁は整い、事態は丸く収まったのだ。


「えっと……それでゲンマさんは大丈夫なんですか?」


 もげ太がミルク入りのカップを両手に抱えながら言う。

 付き合いは短くとも、彼にとってゲンマはギルドマスターであり友人。

 どこまで理解しているのかはともかく、出世というにはやや複雑な状況に心配をするのも当然か。

 楓柳から恨みを買って当然の立ち位置だ。


「大丈夫も何もゲンマは楓柳の創設者のひとりじゃ。神無風の者とて大半が当時の取り巻き――つまるところ、初代月組の面々じゃの。何も問題はない」


 キリュウは、もげ太の口の周りについたミルクの白髭を拭きながら答えた。


「そ、そうなんですか?」


 もげ太が目をぱちくりとさせて聞き直す。


「もげ太さん、お菓子に夢中で聞いてなかったんですねー」


 リリルが、アバターとは不釣合いに大きいグラスの梅酒をぐびぐびと減らしながら言った。

 っかぁ、という吐息が貫禄を上乗せしている。

 ちなみに経緯については想像にお任せするが、キリュウが飲んでいる梅酒はこれと同じだ。


「おい。せめて演技でももっと可愛らしく飲んだ方がいいんじゃねーか? いくら最年ちょ――」


 〈――ジャキン!〉


「命が…………惜しくないんですねー?」


 消えた――と思った光天の姿は、一瞬にして影天の喉元に杖の鋭利な逆端を突きつけていた。


「ば、ばば……バカな。魔職が俺の速さを上回っただと……?」


 頸動脈の辺りに走る鈍痛に、ネームレスは戦慄した。


「うふふ……女の子は、怒らせると怖いんですよー?」


 どうも年齢関係の話は、彼女には禁句(タブー)のようだ。

 間近に浮かぶ光天の凄絶な笑み――それは、とある件で少年に感じた恐怖にも匹敵し兼ねない。

 ただし、無関係のものには伝わっていないのだろう。


「貫禄なら……焔のも大したものではないかの?」


 後ろを振り返りながらキリュウが言った。


「……俺か?」


 ジョッキを片手に、話を振られたエルニドが顔を上げた。

 貸し切りということで、彼は座敷の別テーブルでひとりちびちびと飲んでいる。


「貫禄? ……そうか?」


 座布団であぐらを掻く巨漢は威厳たっぷり。

 亭主関白という単語がしっくりくる居姿だった。


「うむ。お主がもげ太と並んでおると親子に見えるの」

「うはははっ! テメェがオヤジて!! じゃあ、オフクロは光てn――うごぶるぉっ!!」


 突如、ネームレスが腹部を抱えて悶絶した。


「てへっ♪ 肘が滑っちゃいましたー」

「ひゅっ……ひ、肘は……滑るもんじゃねぇぞ……」

「え? 滑りますよー?」

「残○拳レベルで身体ごといきゃあな――!?」


 和気藹々の二人。

 その後ろで静かに沈む男がひとり。


「……む? どうしたのじゃ、焔の?」

「いや……そんなに老けて見えるか、俺?」

「ふむ。おぬしの比較対象となると――」


 必然的に同性となれば、他に居るのはもげ太とネームレス。

 前者は元より、ネームレスの外観は若いというよりV系と言った方がしっくりくる。


「じゃの?」

「相手が悪い。これでもまだ高校生なんだがな」

「ほー。おぬし高校生じゃったのか。てっきり父上ほどの歳かと思うておったの」

「――ぐふっ!」


 エルニドは口から赤い日本酒を吐き出した。

 心無い少女のひと言にエルニドはさらなる心の傷を負った。

 もうエルニドの心のHPは0だ。


「全く……お酒くらい静かに飲ませなさいよ」


 椅子を回し、くるりとこちらを向く。

 目の前で組む足が着物の裾から伸びて艶かしく映る。


「あ。あっちが本物のお母さんですよー」

「ちょっと、誰がお母さんよ――!?」


 ひとりで飲んでいたらしいスズランが杯を突きつけつつ、リリルに詰め寄った。


 ――あぁ、なるほど。


 と、妙に納得をしてしまう男性陣。


「あなたたちも揃って頷いてるんじゃないわよ! これでも、花の女子大生(・・・・)なんだか――――あっ……」

「あっ…………」


 からかい過ぎたのか、それとも仮想世界とはいえお酒の力もあるのか。

 突然の吐露に場が静まり返ってしまう。


「あ、あの……ここだけの話よ……? できれば忘れて……ね? た、たぶんみんなより年上なんだろうなぁとは内心思ってたんだけど……ううっ……」


 スズランが、瞳を潤ませながら懇願する。

 毒花――なんて二つ名を持つ彼女が可愛く思えてしまうのは気のせいだろうか。


「……ま、まさかこの流れでスズちゃんにまでディスられるなんて……」


 直視したくない現実を見せられたのか、それとも安牌とでも思っていたのだろうか。

 想定外の方向から飛んできたボディブローは破壊力抜群だった。

 リリルはもげ太を抱きかかえるようにズルズルと崩れ落ちていった。


「えーと……ナイススタブ?」


 一体どう励ませばいいものかと、ネームレスはポンと肩を叩きつつ親指を立てて言った。

 ……某女子大生はといえば、存外に喜んでいたそうな。




 ◇




 そんなこんなで微妙に気まずい空気となってしまったお詫び会。

 どうせなら気まずいついでに本題に、贖罪をしてしまおう――と男は口を開いた。


「その……すまなかったな。二人とも」


 エルニドが告げた相手は、キリュウとスズランだ。

 二人は何がすまないのかと顔を見合わせたため、エルニドはその先を口にした。


「俺がもっと早くに気が付いていれば……止められたろう。そうすれば、二人がペナルティを受けることもなかったのだが……」


 彼のいうペナルティとは、ゲームにおける[デスペナルティ]――死亡時に課せられる罰則のことだ。

 酒の席でする話でもないが、酒の席だからこそ話し易いという思いもある。

 エルニドは杯を置き両手をテーブルに立て、二人に深く陳謝した。

 それで話を内容を察した二人が小さく嘆息する。


「別におぬしだけのせいではないし、もちろん、もげ太のせいとも思うておらぬ。あまり気にするでない」

「キリュウ様の言う通りよ」

「……そう言って貰えると助かる」


 こういう礼節を弁えるのが、彼がモラリストと呼ばれる一端にもなっている。

 もげ太の父――というポジョショニングも、保護者的な観念でいえば間違いでもない。


「そうは言ってもなぁ……落としたのがもげっちじゃ、かなり大きかったんじゃねぇのか?」


 同様に気まずそうに告げたネームレス。

 彼は、その場を遠巻きに眺めていただけで直接の被害はない。

 そのことがエルニド以上に気まずさを感じさせるのだろう。


「それは――」

「ま、かなりの量ではあったかの?」


 口籠るスズランを押し、キリュウが肯定した。

 通常、デスペナルティ――デスペナが課す罰則は、経験値の減少だ。

 これによってレベルダウンすることはないが、次のレベルまでの累積経験値がなくともマイナス方向で減少される。

 従って、レベルアップ直後だろうがレベルアップ直前だろうが同レベルであれば数字に違いはない。

 問題は、キルした相手のレベルだ。

 プレイヤー、モンスターを問わず、キルした相手のレベルが自分より高ければ高いほど減少率は小さく、逆に低いほど大きくなる。


「そ、想像するだけでガタブルですよねー……」


 UWOにおいて、戦天と最もレベルが近い光天は、我が身に当てはめて想像したのか青ざめた顔をしていた。

 吹っ飛ぶ経験値は、それだけのプレイ時間をつぎ込んだ数字になるのだろう。

 何せ、今回の件の最大値はもげ太とキリュウだ。

 そのレベル差は、軽く見積もっても200後半はあった。

 あまりのオーバーレベルキル過ぎて、情報が漏れればUWO開始以来のビッグスコアになり兼ねない。


「ま、我にも“ゲンマ”の名につい気を取られ、逃げも防ぎもしなんだ不覚もあるゆえの」


 キリュウはそう言うが、それで防げる威力であれば、彼らとて生存していたはずだ。

 少女が気を遣っている様子がありありと感じられた。


「しかし――」

「しかしもかかしもない」


 いつもの扇子の代わりに、キリュウは小瓶の口をエルニドの鼻先へ突き付けた。

 エルニドの鼻腔を梅とアルコールの香りがくすぐる。


「……はぁ。あまり口にしたくはないのじゃがな」


 それは彼らを責め立てる言葉なのか。

 全て受け止める覚悟で皆が構えると、


「我と同格のおぬしらであれば……分かるはずじゃの?」

「もちろんだ」

「あぁ……」

「はい……」


 一週間か二週間か、はたまた一か月分以上の稼ぎを無駄にしてしまったのか。

 その心痛は同じ十二天である彼らにとっても計り知れない心痛だ。

 そんな三天の暗い表情を前に、少女は首を捻り「はて?」と考え込む。

 そして、やがて解に至ったのか、


「や、そうではないのじゃ! 誤解じゃ誤解!」

「はぁ?」


 一体何が言いたいのかと両手を振る少女を注視した。


「……こほん。何と言うかの。我は、随分とすっきりしたのじゃ」

「すっきり?」

「うむ」


 少女は、笑顔で告げた。


「これまでは……頂点をひた走るものとして予断を許されなんだ」

「あ――」


 その言葉で、三人は少女の真意を察した。


 戦天の境遇――トップランカーゆえの苦難を。


「じゃが、もげ太が追い詰められておった我の心を軽くしてくれたのじゃ。……くく、あれだけ見事に吹き飛ばされればのう」


 少女は晴れやかな顔で笑っていた。

 寝息を立てるもげ太の横髪を撫でながら。


「……そっか。少しは解放されたってことか」

「ま、そんなところじゃの」


 例えば、なまじ上位にランクインしてしまうと常にランクインを目指すようになったり、一度図鑑をコンプリートしてしまうとアップデートの度に追加アイテムの収集を強要された気分になる。

 ――それに近い経験したプレイヤーもいるのではなかろうか。

 彼ら十二天も、全プレイヤーの目標であると同時に常に下の者から追われる立場にあるのだ。

 慢心、油断をすればいつ足元を掬われるか分からない。

 その点でいえば、少なくとも最高位に居る戦天は安全圏だ。


「ほれ。瓶が空になってしもうたぞ? お代わりじゃ」

「へーへー」


 珍しくネームレスが席を立ち、カウンターに飲み物を取りに行った。

 もしかしたら、少女はこうして皆で騒ぐ時間も惜しんでレベリングに打ち込んでいたのかもしれない。


「白花は……いいのか?」


 エルニドは、もうひとりの楓柳メンバーにもそう尋ねた。


「あら? キリュウ様が気にしないって言ってるのに、わたしは気にすると思うの?」

「それは……」


 本心から申し訳ないと思う反面、もげ太に関わることで遺恨を残したくない――という気持ちもあるのだろうか。

 突いて出た言葉に、エルニドは続ける言葉を探せずにいた。

 そんな場面に戻ってきたネームレスが、小瓶とともに助け船を出す。


「こういうのって、テメェみてぇな準廃の方が反って気にすんじゃねーか?」

「……さりげなく失礼な台詞よね。それ」


 さすがに“渡りに船”とは言い難い台詞に、エルニドは手を横に強く振った。

 スズランの顔色が一瞬暗くなったのは、全く思い当たらない点がないわけでもないのだろう。


「正直に言うと……次のレベルは結構遠のいたわよ。でも、わたしよりキリュウ様の方がもっと大きな被害を受けているんですもの。わたしだけ気にしてたって仕方ないわよ。それに……わたしたちだけの話じゃないしね?」

「そうか……」


 おそらくは、それがスズランの本音ではあるのだろう。

 不要なペナルティを受けて喜ぶ人間の方が希少なのだ。


「でも、勘違いはしないで。今、こうしてキリュウ様が笑っていられるのも彼のおかげなのよ。それが経験値と引き替えに得られるなら……ふふっ、安いものよ」


 スズランが、ネームレスのグラスに自らのグラスを軽く当てる。

 風鈴のような音色が響き、心地良さそうに彼女は目を閉じた。


「そもそも、あなたは上辺だけ取り繕っても内心で気にする質なんでしょう? なら、こうやって本心を晒しちゃった方が安心できるんじゃないかな――ってね」

「ぬ……そう言われると否定できない」

「ちっ。分かったよーな口を利きやがって……」


 顎に手を当てて考えるエルニドに、ネームレスは相手に聞こえないくらいの声で「だから、年上は嫌なんだよ……」と呟いた。


「ふふっ。照れない照れない」

「あぁ、クソっ! 昔に俺に“関わるとロクなことねーぞ!”って言い聞かせてやりてぇぜ!!」

「あら。意外にファンシーなところもあるのね?」


 彼女は彼女で、ネームレスにとっては貴重な理解者(?)なのだろう。

 二人が話に花を咲かせている隣、エルニドとキリュウの席にリリルが加わる。

 というか、矢が放たれた。


「そういえば――ペナルティの話ならば、光のとて我とそう変わらぬのではないないか?」

「へ?」

「――っ!?」


 ここで、エルニドが何かに気付いたようにリリルに向き直った。


「……あ」


 リリルも気が付いたようだ。

 無言で頷きあって確認を取った。


 ――ここで変に誤魔化す方が、後々遺恨を残すであろうと。


「俺と光天……あと一応は、影天もそうなのだが」

「む? 唐突になんじゃなんじゃ?」

「怒らないで冷静に聞いて欲しいんだが……その……」

「よく分からぬが、言いたいことがあるならはっきりと言うのじゃ」

「あ、あぁ……」


 そこでエルニドは、大きな深呼吸をした。

 そして思い切って告げる。


「もげ太とパーティーを組んでいたから――俺たちにペナルティはほとんどないんだ」

「は?」

「え?」


 聞いた二人、キリュウとスズランの時間がわずかに停止する。


「で……ですですー?」


 あはは、と珍しく冷や汗を流しながら引き攣った笑いを浮かべるリリル。

 外からではPTの判別がつかない上に到着時から完全別行動だったもげ太。

 端からキリュウたちの頭に“もげ太PT”なんて想定はなかったのだろう。


「すーすー……むにゃむにゃ……」


 そんな状況でも安らかな吐息を立てる少年。

 自爆ということでPTの恩恵が適用外である彼も、初心者マークという点で放免だ。

 もっとも、彼の場合失ったところで微々たる経験値ではあるのだが。


「「………………」」


 呆然と口を開けるキリュウとスズラン。

 つまり、あの場で被害を受けたのは、実質彼女らを含めた楓柳メンバーのみ(・・・・・・・・)なのだ。


「なっ…………」

「なんじゃとおおぉぉぉぉぉぉ――!?」


 スズランとキリュウが合わせて大きく絶句した。

 冷静に考えれば、リリルが「友人を連れてくる」と約束した時点で、その枠内であるもげ太もPTメンバーに含まれる点は考慮して然るべきだった。

 むしろ、光天・焔天・影天という三者がPT組んでいて、初心者である少年を除外するわけがない。


「こ、これは……」

「やられましたね……」

「あは、あはは……」

「はは、はは……」


 渇いた笑いを浮かべながら、エルニドは思った。

 謝罪より前にこの話をするべきだったと。

 先に「気にしない」と先方に言わせてしまった時点で、もはや彼女らは前言を撤回しない限りこちらを咎めることはできない。


「その……保護者として監督不行き届きは認める。懲罰の件とは別に、この埋め合わせは必ず行うと約束しよう」


 エルニドは、再度テーブルに両手を着いた。


「いえ、別にそこまでは――」

「――相、分かった」

「求め……えっ――!?」


 スズランの言葉を遮って承諾したキリュウに、彼女が驚きを露にする。


「焔の――その言葉に二言はないの?」

「あぁ。焔天(・・)の名に誓って」


 己の誇りを掛けた以上、その口約に嘘偽りはないだろう。

「そうじゃの……今宵は」とキリュウは三度頷いて、こう続けた。


「では、我。戦天は、焔天の腹踊り(・・・)を所望する!」


 パン、とキリュウが帯から扇子を抜いて顔を仰ぐ。

 エルニドは、言葉の意味が理解できずに、


「…………は?」

「聞こえなかったのか? 腹踊りじゃ、は・ら・お・ど・り」


 聞き返したのだが、聞き間違いではないようだ。

 エルニドの目は、これ以上ないほどにつぶらな黒点となった。


「十二天の名に誓って何でもするのじゃろう? やはり、宴の席に腹芸は付き物じゃ。さ、早う芸を見せい」


 覚悟を問うているのか、それとも単にからかっているだけなのか――それは本人にしか分かるまい。


「……………………あぁ、そうだな」


 エルニドは、引き攣る表情を引き締めて己を戒めた。


「う、うく……ぷぷ……」


 共犯であるはずの少女は、笑いを堪えるのに必死だった。


「どうせならしかと活目しろ――これが(おとこ)の生き様だ――!」


 漢は覚悟を決めると、潔く獅子のブレストバックルを取り外した!



 ――無邪気な高音の拍手がひとつ、黒い歴史に染み入る夜だった。




 ◇




 [タイトル:超ゲキレア写真げっとですー]


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 魔法少女ぴかちう:

 っ《画像1》


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 スパナックル:

 っうぇww


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 壁ドン:

 焔……腹!?


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 笑いの伝承師:

 腹天wwww


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話の大部分を書き直しているので、その部分に関しては後々推敲が必要になりそうです……。

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