託したもの
2016/08/30
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「あーあ……我ながら惚れ惚れする威力だぁな」
ゲンマは、粉々に吹き飛んだアジトの残骸を片付けながら愚痴を零した。
倉庫に保管してあった花火や火薬にも引火したのか、建物どころか地形までもが原型を留めていない。
「巻き添え食っちまったヤツらも、ペナルティタイムでしばらく戻って来れねぇしよぉ……」
「だとしても手伝わねーぞ。そりゃ俺の加入前の悶着だしな」
ネームレスは、折れた柱を椅子代わりに足を組んで傍観していた。
加入後の悶着でも手伝うかどうかは謎だが。
「分かってんよ。俺様が言いてぇのぁ……なんだ? せっかくお前さんが加わってくれたってのに、紹介も歓迎も何もできなくて悪ぃなぁと」
「あぁ、そういうことか。くだらねぇこといちいち気にすんな」
気を遣われているのか本心の台詞なのかは分からない。
「……一応、お前さんは恩人なんだ。お前さんがいなけりゃあ……俺ぁ部下巻き添えにしてただ無駄死にする羽目になってたぁはずだ」
「だろうな」
実際に、ネームレスもその現場に居たから分かることだ。
正直なところ、彼とて能力無しで巻き込まれたら即死している――そんな威力だった。
そう考えると、深雪とやらの防御能力は相当な域にあると判断していい。
本人があれだけ得意げだったのも頷ける話だ。
「身から出た錆だろ。大ギルドと敵対なんざするから、そんな目に遭うんだ」
「は?」
ネームレスの問いに、ゲンマが頓狂な声を上げた。
「敵対ってぇ……なんで俺様が楓柳と敵対しなきゃなんねぇんだ?」
「は? 違うのか?」
今度はネームレスが驚きの声を上げる。
もう一度確認すると、ゲンマははっきりと首を横に振った。
「オウよ。つか、楓柳の半分は俺様が世話したようなギルドだぞぉ? お嬢にしろ……まー、手の掛かる妹みてぇなもんだ」
その妹とやらが彼を親のように、またそれ以上に慕っているのはここだけの話。
ともあれ、
「おいおい……こりゃどういうこった?」
ネームレスは、腕を組んで首を捻った。
双方に何か食い違いやすれ違いでもあるのだろうか。
「いやまぁ、キヨウに賊がいるってぇ話は俺も聞いてたんだがよ」
「張本人だろうが」
「オウ、まさか神無風のことだとは思わなかったぜぇ?」
「楓柳のお膝元でこんなに爆弾溜め込んでたら、そりゃ反抗勢力扱いされても仕方ねーとは思うがな」
指摘され、ゲンマが顎に指を掛けて考え込んだ。
「…………あー。そーゆーことか?」
「本気でそれかよ――!?」
心当たりでもあるのか、ゲンマが得心した様子を見せる。
「諸事情で、ご禁制の品も結構仕入れちまってるしなぁ……。管理局に目ぇ着けられても無理ねぇか」
「だが、それにしても楓柳から見れば――花月だろ?」
「名前は伏せてたしなぁ。ま、検疫の担当が雪組ってぇこともあンのかもしれねぇがよ」
キヨウの治安に関わる内容は、全て雪組――深雪が取り仕切っている。
裏で暗躍している可能性も否めないが、それはともかくとして。
「とっくに蒸発かました人間がこんな近場に居たらおかしいだろ? いくら目的のためたぁいえなぁ」
「…………テメェの事情まで知るか」
つい先ほど神無風に所属したばかりで、かつ楓柳とも何の接点もない影天にとっては話の合わせようがなかった。
「まぁ、そりゃいい。それより、もげっちはどこだ?」
「あん? もげ太なら…………戦いが本格化する前に家を出てったぜぇ?」
「…………骨折り損かよ」
とは言ったものの、もし、ゲンマがもげ太を戦場に残したまま戦っていれば、彼に対し容赦はしなかっただろう。
彼の判断は賢明だ。
「なら、この場所に用はねぇな」
「つれねーなぁ、オイ」
元々、ネームレスはもげ太を助けるために桜花城から神無風の隠れ家まで赴いたのだ。
そこにはとある女の拘束など並々ならぬ苦労もあったのだが。
そうして、隠れてアジト内に潜入するももげ太の気配は一向に感じられないまま神無風と雪組の戦いが激化。
その後も静観を続けていたが、ゲンマは劣勢。話を聞く相手に死なれては困る――と救出に踏み切ったわけだ。
「で。もげっちはどっちに行ったんだ?」
「おう、それなら裏口……」
ゲンマが裏口の方角を指差そうとするのだが、そこには既に建物は存在していない。
むしろ、数十メートル規模の範囲に渡って吹き飛んでいた。
「……どっちだ、こりゃ?」
「テメェのアジトだろ!」
ゲンマは頬を指で弄りながら辺りを見回し、方角の目星を付けることにした。
やがて、遠景に都のシンボルとも呼ぶべきを桜花城を捉え、ある約束を思い出す。
「あ――そうだ。もげ太にゃ大事な“使い”を頼んであんだわ」
「おい、まさか妙なことに巻き込んでねぇだろうな?」
ネームレスがギロリとゲンマを睨み付ける。
「お、脅かすんじゃねー。な、なぁに、重要だが大した用事じゃあねぇ」
「重要なのに大したことねぇってどういうこった――!?」
法被の襟首を両手で掴み、無理矢理に引き寄せる。
「い、いや、だからな? ようやっと目的のブツが完成したもんで、ヤツらにぶっ壊される前に城まで届けてもらったのよ」
「城? それに、目的のブツだと?」
キヨウで城と言えば、楓柳の拠点である桜花城以外にはない。
しかし、そこは……
「てっ、テメェらの神無風にとって敵陣真っ只中じゃねぇか、ああっ――!?」
「お、オウよ! ……つか他人事みてーに言ってるが、お前さんも今やその神無風だぜぇ?」
「あぁ、クソがっ!」
ネームレスは、ゲンマを突き飛ばす勢いで城の方を振り返った。
あの場所には、焔天や光天がいるとはいえ、頼りはその二人だけ。
先に楓柳の人間に見つかる可能性の方が遥かに高い。
「すぐに向かうぞ! テメェもついて来い!」
「お、オウ………………なぁ、神無風のマスターは俺だよなぁ?」
「マスターならメンバーの世話焼くのも仕事だろうが!」
「…………オウ。正論過ぎて何も言えねぇぜ」
こうして、ちぐはぐなコンビは、キヨウの中心――桜花城へと駆け出した。
◇
[一件のメッセージが届いています]
――――――――――――――――――――
from:ネームレス
もげっち大丈夫か!?
ブツって一体何だ!?
――――――――――――――――――――
[未読メッセージはありません]
◇
キヨウの天守閣。
もげ太は、届いたメッセージを確認するとすぐに無事を伝える返信をした。
「む? 誰からじゃ?」
声とともに首筋に当たる吐息。
少年は少女に答えた。
「ななさん……いえ、ネームレスさんです」
「ほう。そういえば皆、光のの友人じゃったの」
もげ太が答えると、キリュウはもげ太の頭を撫でながら頷いた。
その言葉に、リリルが訂正を入れる。
「いえいえ。わたしたちがもげ太さんの友人なんですよー?」
「ほう?」
キリュウが目を丸くすると、リリルがエルニドに目配せをした。
その意図を組んで頷く。
「その通りだ。妙な面子に思うかもしれないがな」
「ふむ……いや、分からいでもない。おぬしらの奇妙な組み合わせ――“接点”なき方が不自然じゃ」
肩越しにこちらを覗き見る純真な瞳を見つめ返す。
「……くく、これは。我が思うより大物だったようじゃの」
そして、心底愉快そうに笑った。
◇
[一件のメッセージが届いています]
――――――――――――――――――――
from:もげ太
はい、大丈夫ですよ!
皆さんとても良くしてくれます!
――――――――――――――――――――
[未読メッセージはありません]
◇
ネームレスは、すぐ返ってきたメッセージに目を通し、ひとまず安堵の息を吐いた。
皆、という単語が誰を指すのか気になったが。
「で、どうだって?」
「とりあえず問題ないようだ」
その言葉を聞いて、ゲンマも安心したようだ。
彼なりにもげ太を心配しているのだろう。
「となると、そう急ぐ必要もねーのか……」
こういう時、もげ太のフレンドスキルはこの上ない効力を発揮する。
もちろん、UWOにそのような能力はないが。
「むしろ、花月を城に連れてって余計なゴタゴタを起こす方が悪手になるか」
「……いや、お前さんもメンバーっつか、俺様より赤ネのがよっぽどもげ太に危ねーからな?」
「うぐっ」
ネームレスにとっては、一番痛いところを突き刺された。
赤ネが傍に居るメリットよりデメリットの方が大きいだろう。
いつかは清算しなければならない時が来るのかもしれないが、今はまだそれだけの時間はない。
「俺様は、お前さんがお嬢や楓柳と揉める方によっぽど懸念あるぜぇ?」
「そりゃ……向こうがもげっちに手を出さねー限り無用の心配だ」
ネームレスにとって戦天は初対面だ。
だが、ゲンマはそれすらも一切知らない。
影天の名が楓柳に敵対視されることを危惧しているのだろう。
「お前さんがそー思っててもお嬢がどう思うかだなぁ」
「戦天とは今日一度顔を合わせたが何もねーよ」
「は? 顔を合わせただぁ……?」
「あぁ。城でな」
「そ、そぉか……」
ゲンマは空返事をした。
十二天同士の対談――。
聞き方によってはそれだけでもビッグニュースだ。
加えてそれが赤ネの影天となればさらなる騒ぎに繋がるだろう。
……その場には他にも二天が同席していたのだが。
「ま、戦天はともかく、あの女が何かしてきやがったら別だがな」
あの女とは戦天のことではない。
ゲンマはそれがすぐに誰か察したようだ。
「あれで結構一途なヤツなんだがなぁ」
「それが面倒くせぇんだよ」
「あー…………なる」
ゲンマからすれば、ネームレスよりよほど付き合いも関係も深い仲だ。
この男からすれば迷惑でも、彼にとっては成功を祈りたいのが心情。
「不束なヤツだが……頼む。お前さんが幸せにしてやってくれ」
「どこの親父だよ、テメェは!」
両家顔合わせのような会話に、ネームレスはすかさずツッコミを入れた。
UWOにも婚姻システムはあるが、余計なトラブルを生み出し兼ねない。
「――んなくだらねぇ話より、そのブツとやらの話を聞かせろ」
何やら算段を始めたゲンマを足蹴にし、ネームレスは脱線しかけた話のレールを敷き直す。
「次第によっちゃ、すぐにもげっち追い駆けねーと……」
「まー、せっかくの見物なら俺様も特等席のがいいわなぁ」
「は? 特等席?」
問い返すも、返事はない。
ゲンマは噛み合っていない会話を特に気にせず、城の方に向かって歩き出した。
「オイ、お前さんは行かねぇのか? 肴に間に合わなくなるぜぇ? かかか」
彼は、宝物を自慢げに見せびらかす子どものような表情で言った。
その笑顔は過去――いや、童心を思い出しているのか。
「間に合わねぇ……って、もげっち本当に平気なんだろうな――!?」
一体何を頼んだのか。
不吉な言葉は、何かしらのタイムリミットに思えてならない。
「そぉ心配すんなって。所詮はゲーム内のアイテムよ。手順さえ踏めばあとは自動でやってくれるぜぇ?」
「手順……? おい、そんな面倒なもんを初心者に任せたのか? 一体、もげっちに何を渡したのかさっさと話しやがれ!」
「あんま口で語るような代物でもねぇんだがなぁ。価値が薄れちまう」
影天は後ろを追うように通りを駆ける。
「価値だって……?」
「オウよ。アレの価値は目で見て初めて伝わるもンだぁな。アレが好きで、なおかつ心の綺麗なヤツが上げてこそ初めて完成すんだぜぇ?」
隣に並んだことを確認すると、ゲンマはようやく話す気になったのか重い口を開いた。
「いいか、俺がアイツを見込んで託したモンってのはなぁ――」




