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崩月と深雪

2016/08/29

本文修正しました

 



 キヨウの都――西。

 神無風と雪組が繰り広げる激戦は、終局に差し掛かっていた。


 戦況は、深雪率いる雪組の優勢だ。


 総数20人強の神無風が、優に100人を越える雪組を相手取ったのだ。善戦と言って然るべきだろう。

 だが、個々の練度で雪組が劣っているというわけではない。

 むしろ、組としては楓柳でもっとも高い練度を誇っているのだ。

 それでも神無風が奮闘し続けられたのは、一重(ひとえ)にゲンマ謹製の花火(爆弾)に()るものだった。

 使用者の能力やレベル、そして相手の防御力を無視し、常に四桁クラスの固定ダメージを与える攻撃手段は、雪組をもってしても脅威に他ならない。

 デメリットとしては、消耗品であるため使う度に個数を減らしていくこと、そしてアイテムであるためにPTといった味方の識別や使用者の識別を行わない。

 一歩間違えれば、自身も味方もろともふっ飛ばしてしまうのだ。

 そこには、疑いようもない神無風棟梁の能力を垣間見ることができる。


 ――結果、両陣営の被害者数は神無風の9人に対し、雪組は既に40人を上回っていた。

 これだけを鑑みれば、神無風の優勢と断じても否はない。


 しかし――。


 戦いが長引けば長引くほど、徐々に天秤は雪組へと傾いていくのだ。

 その最大の理由は、やはり数にある。


 神無風の20人強という数字が当陣営のほぼ総数であるのに対し、雪組が動員した100人という数字は現場の招集によって集まった数でしかない。

 戦闘が始まって10分が経過すれば10人が加わり、30分が経過すれば30人が加算される。


 さらに強いていえば、雪組はあくまで“楓柳”の中の一派閥(・・・)に過ぎず、もし楓柳全体が本気で潰しに掛かれば“月組”や“花組”はもちろん、傘下のギルドまでもが戦線に加わることになる。

 神無風がいくら強力な攻撃手段を用いようが、それを用いる人間および弾薬に上限がある以上は、質量の前にいずれ押し負けてしまう。

 まさに絶望的な状況だ。


 ――が、それは戦いが始まる前から分かりきっていたことだった。

 神無風という弱小の無名のギルドが、四大ギルドの一角である楓柳に勝てる道理など端から(はな)から存在していないのだ。


 だと言うのに、


「テメェらぁ! 最後までケツに火入れて戦いやがれぇ――!!」


 神無風の指揮官、ゲンマが怒鳴り声を上げる。


「うわぁぁん! ちくしょお、こうなったらもうヤケだ――!!」

「だぁ、もうやってろうじゃねぇか! このクソがぁ!」


 時には弱音を吐き、大して士気の高そうでもないメンバーだが、敗走しようとする者はひとりもいない。

 指揮官のカリスマ性なのか、はたまた別の理由があるのか。


 雪組が攻勢に出ながらも、最後の一手を押し切れない要因がそこにあった。

 自軍の惰弱さに痺れを切らした深雪の長――ベリガが前へと歩む。


「――ええい、賊ごときにいつまで梃子摺(てこず)っているのだ! 貴様らそれでも名高き楓柳の雪組か!」


 怒り心頭、声を荒げて叱咤する。

 だが、陣営の士気は上がらない。

 本来なら難なく蹂躙できる兵力差があるのだ。

 中にはゲームという性質上、気持ち半分で参加したプレイヤーも混じっているのかもしれない。

 そんな中でも、戦いに尽力する兵もあった。


「闇雲に突撃をしては甚大な被害を被ります! 戦況はこちらの優勢、あえて篭城する敵に突貫をしなくとも、徐々に抑えていけば――」

「貴様、誰に口答えをしている! 四倍の戦力差を用いた雪組が賊に苦戦したとなれば、とんだ笑い(ぐさ)だ! そんなことも分からんのか――!?」

「は、はっ――!」


 ベリガが愚考を上申した班長格の兵を一喝した。

 怒鳴られた兵は、すごすごと後退する。


「被害を恐れるな、果敢に戦え! 全軍、突撃ぃ!」


 右手を開き、勢いよく前方に掲げる。


「「「はっ――!」」」


 号令に合わせ、一糸乱れず槍のような隊列を為して突撃をする雪組。

 味方を鼓舞するためか、参謀であるリデルもその先陣に加わっていた。

 全軍に加え、副官までも突撃させたのだ。

 戦況はやがて終息へ向かうことだろう。


「…………“崩月(ほうげつ)”め」


 先を睨んだベリガが呟く。

 自身の勘だが、まだこれだけでは足りない――。


「卑劣にも善戦をしたようだが……遊びの時間は終わりだ」


 そして、小さく何かを唱える。

 外套が空を切り裂くように、男を戦場へと飛翔させた。




 ◇




「ドンコ! そっちはどうなってやがる!?」

「被害数2――! 何とか抑えてますが、これ以上の損害は危険です!」


 ゲンマが、ギルド内の通信域を用いて周囲を固める部下に状況の確認を行う。


「オウジロ! そっちはぁ!?」

「被害数3――いや、4っ! このままやと突破されるで!!」

「ちぃっ! 根性出して凌ぎやがれ! タケっ、オウジロんとこにもっと箱ぉ回せ!!」

「あいよっ!」


 ゲンマは指示を飛ばしながらも、散乱した箱を中身を取り出しては手際よく調合し、どんどん花火を製作をしていく。

 気が付けば、彼の背後には炸薬がたっぷり詰まった宝玉が山積みになる勢いだった。


「オラ、積み上げてねぇでどんどん運びやがれ! 運んだらすぐ次の材料持ってこいぃ!」

「了解!!」


 指揮官と製作による補充をこなすゲンマだが、それも限界が近付いてきていた。


 ――疲労だ。


 いくら超のつくベテランクラフターであっても、この速度で弾薬を量産をしていては休む暇もない。

 さらには常に状況を見張り続け、メンバーに指示も飛ばさなくてはならないとなれば尚のことだ。

 子玉の配置を簡略化しているとはいえ、長期になるほど彼の精神は削られていく。


 それでも、ここまでひとつの製作ミスもない事実が、彼の持つ能力を大いに現していた。


 だが、


「――うあぁぁぁっ!!!!」


 突如上がる、友軍の悲鳴。

 ゲンマは即座に声の主を特定し、


「お、オウジロっ、どうした!? 返事をし――」

『――無駄だ』


 反って来た声が壁に反響する。

 その声を耳にし、神無風全員の背筋に悪寒が走った。

 一瞬にして、その場の人間の視線がひとりの男に注がれる。


「…………小僧ぉ」


 ゲンマは、男を睨み付けた。


「賊に小僧呼ばわりされる謂われないな」


 男は、背中の外套を片腕で振るうと、ジャラン――という金属音を持って光を反射する何かが高速で射出された。


「ぐあぁっ!」

「きゃあ!」


 直撃を受けた神無風メンバーの悲鳴が上がる。

 外套の先端に取り付けられたブレードが、周囲にいた人間の身体に突き刺ささり、貫いたのだ。

 当たりどころが悪かった者は一撃で絶命し、かろうじて即死を免れた者もHPを大幅に減少させていた。


「スウィフトブレード・ペンデュラム…………無駄に抵抗をするな。不愉快だ」


 外套の男――深雪のベリガが指を横に振ると呼応したブレードが一閃し、腹部を薙がれた男のHPバーが消失した。


「タケっ!! て、テンメぇ――」


 逆上したゲンマが、十指に掴んだ無数の“星”を勢い良く放った!

 連続する小さな爆発がベリガの身体を包み込む。

 さらに、ゲンマは二撃、三撃と続けざまに星攻撃を打ち込んだ!


「どうでぇ――効いたかぁ!?」


 星とは、花火の大玉の中に込められ、模様を形作る小さな火薬玉のことだ。

 威力は完成した花火には及ばないが、放った数は、この戦いで最も使用されている一尺玉以上――それを三つだ。

 ダメージで言えば、3000は越えるであろう。

 一般的なステータスであれば、レベル200前後のプレイヤーまで即死していてもおかしくないほどの威力がある。


 ――だが。


「……ふん。つまらぬ攻撃と侮ったか」


 白煙が晴れると、外套で全身を隠した男は一歩も動かずにその場に立って居た。


「ちぃっ!」


 ゲンマが、相手のHPバーを見て大きく舌打ちをする。

 彼だけではない、その光景を見た神無風メンバー全てが驚愕した。


「な――!」

「あ、あれだけの攻撃を受けて――!?」

「う嘘だろっ――!?」


 ベリガが受けたダメージはHPバーで3割。

 仮に3000のダメージを与えていたとすれば、総体力は10000に匹敵することになるが――。


「バカヤロウ、騒ぐんじゃねぇ! 防御されただけだ!」

「ぼ、防御だって――!?」


 ゲンマの言葉に一同は耳を疑った。


 固定ダメージは、軽減ができないからこそ固定ダメージなのだ。

 その特性ゆえに、彼らは、自軍を大きく上回る相手とこれまで渡り合ってこれたのだが……。

 これが事実ならば、今までの前提が覆ることになる。


「……ヤツの大元の二つ名は、新たな雪と書いて“新雪”。知ってるヤツもいるだろうが……その防壁を突破し、身体に傷を負わせられねぇ――つまり、いつまでも綺麗な身体んままだってことから付けられたぁ仇名だ」


 忌々しげにゲンマが男の由来を告げた。


「遠回しの自慢か? 今、あっさりと傷付けられたがな――“崩月”。この威力ならば、部下たちではどうにもならなかった事実も認めざるを得ないか」


 ベリガがゲンマの言葉を認めたことにより、神無風の中に渦巻いていた絶望に近い感情がわずかに払拭される。

 何らかの能力で軽減はされたものの、我らがリーダーはそんな相手の防御を貫いたのだと。


「わざわざ忌み名で呼ぶんじゃねぇや。散々目ぇかけてやったってのに勝手に賊扱いしやがってよぉ……小僧っ子が」

「ふ。かつて“月組の長”と呼ばれていた男が、自らの組を崩壊させたのだ。これを崩月(・・)と呼ばずして何と呼ぶ?」

「うっせぇ。テメェのヒネた性格に反した“親切”なんてイントネーションが混在して、“意味深の雪”――なんてわざわざ()げ替えられたションベン垂れが」

「――それは言うな!!」


 心当たりでもあるのか、白の鉄面皮が憤慨の赤に変わった。

 本人がどう思おうとも、大衆によって決められた二つ名とは易々変えることができないのだ。

 特に、掲示板など公式フォーラムによる影響は大きい。


「……相変わらず、虫唾の走る糞爺だな」

「けっ、ハナ垂れの小便小僧に言われたかぁねぇな」


 悪態を突きながら睨み合う二人。

 だが、そんな状態も長続きはしなかった。


 外周では、今も神無風と雪組のメンバーが戦闘を続けているのだ。


「……は。時間でも稼ぐ算段だったのかもしれないが、わたしが来た以上はこれで仕舞いだ」


 ベリガが冷淡に言い放つ。

 その言葉通り、この男がその気になればゲンマとて太刀打ちのできる相手ではないだろう。


「けっ――ま、そりゃそうだわな。年季ならともかく、戦闘経験の差はもう覆せなくなっちまったぁ」


 言うが、ゲンマの顔から笑みは消えなかった。

 深雪も、その不敵な様子に怪訝を感じる。


「……おい、テメェら」


 ゲンマは、顔から感情を消して静かに言った。

 彼が言葉を向けたのは、神無風のメンバーに対してのものか。


「悪いが、こいつにここまで踏み込まれちまったらゲームオーバーだ」


 とうとう観念したかのような崩月の台詞に、ベリガもわずかな笑みを零す。


「ほう? やっと諦めたか。その判断が随分と遅かったのではないか?」

「まぁな。いくら想定済み(・・・・)とは言え、俺も人の子なのよ」


 言って、ゲンマが咥えていた煙草を口から離し、ふぅーと煙を吐く。

 奇妙な空気に、深雪も警戒を深める――


 が。


「今さら警戒したとこで――もう遅ぇぜ?」


 ピン、とゲンマは手にしていたものを宙へと弾いた。

 赤い軌跡がクルクルと弧を描き、目標に向かって寸分違わず飛んでいく。


「あー……付き合わせて悪ぃな、テメェら」


 頭を掻きながらゲンマが仲間たちに謝罪を述べた。


「いえ、こうなったらトコトン付き合いますよ。嫌ですけど」

「そーそ。水臭いぜ、旦那。嫌だけど」

「しゃーないわ。嫌だが」


 抵抗を諦めて苦笑する神無風のメンバーたち。

 それを目にし、ベリガがようやく仕掛けられた罠に気が付く――!


「まさか――き、貴様ら――!?」

「かかかっ! 過信が過ぎたなぁ? 将がしゃしゃり出るからこうなるのよ!」


 ゲンマが空になった煙草の箱をクシャリと握り潰す。

 覚悟はできているのだろう。


「くっ――!」

「ま、仲良く痛み分け《・・・・》と行こうや」


 火の着いた煙草が、積み上げられた箱の上に着地する。

 何かは確認するまでもない。


 ――製玉前の火薬箱だ。


「お、おのれえぇぇぇぇーーーーっ!!!!!!」


 閃光と爆風が一帯を包み込む。

 深雪の言葉は、最後まで言い切るより早く衝撃波によって掻き消された。




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