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僕、もげ太[ラフ画有り]

2016/08/30

本文修正しました

 


 [ログインしました]


 [ようこそ、もげ太さん]


 ――――――――――――――――――――


 いよいよ本日……

 僕もThe Unlimited World On-Lineに

 参戦します!


 ――――――――――――――――――――


 [送信しました]


 [返信があります]


 ――――――――――――――――――――


 おー。

 とうとうですか、もげ太さん!


(コメントは非公開に設定されています)

 ――――――――――――――――――――


 はい、お待たせしました!


 ――――――――――――――――――――


 [送信しました]


 [返信があります]


 ――――――――――――――――――――


 待ってました!ww

 で、待ち合わせ場所はどこ?w

 って言っても分からないかwww


(コメントは非公開に設定されています)

 ――――――――――――――――――――


 そうですね~(苦笑)

 とりあえず、

 キャラネームはこのままでいきますね!


 ――――――――――――――――――――


 [送信しました]


 [返信があります]


 ――――――――――――――――――――


 大丈夫なのか?

 あまり無理はするなよ


 ――――――――――――――――――――


 大変だったよ~……

 遅くなったけど、これで一緒に遊べるね!


 ――――――――――――――――――――


 [送信しました]


 [返信があります]


 ――――――――――――――――――――


 首を長くして待ってましたよ。

 分からないことは何でも聞いてください、

 マスター。


(コメントは非公開に設定されています)

 ――――――――――――――――――――


 ありがとうございます!

 では、早速キャラクター作ってきますね!


 ――――――――――――――――――――


 [送信しました]






 ……………………………………………………





≪――ようこそ


 The Unlimited World On-Lineへ――≫





 ……………………………………………………






≪ようやくお目覚めになりましたね。貴方の名前は何というのでしょう?≫



 どこからともなく聞こえてくる妙齢な女性の口調。システムによるガイドアナウンスだ。

【女神アレイシア】と名乗る声の持ち主に、少年は名前を告げる。


「もげ太です」


 “です”まで名前にカウントされてしまったらお笑い種だが、そうはならなかった。というのも、“もげ太”は先に済ませておいたキャラクタークリエイトで入力した名前だ。



≪もげ太……というのですね。素敵な名前です。きっと、もげ太がこの世界を救ってくれるのでしょう≫



 言葉のイントネーションを認識したように、流暢な発音で少年の名前を告げる女神アレイシア。本心は定かではないが、この女神には素敵な名前と判断されたようだ。長年愛用しているハンドルネームは愛着もあり、少年にとっても喜ばしいことだった。



≪さぁ、お行きなさい“もげ太”。そして、この世界【アーティグリフ】と、そこに住まうユーム(人の民)をどうか救ってください……≫



 周囲をぼんやりと包み込んでいた光が次第にその光量を増していき、眩しさに目を開けていられずに閉ざすと、次の瞬間には少年が立っていた世界が一変していた。




 ◇




「うわぁ!」


 少年は、あまりの感嘆に言葉を失った。


「これが…………UWOかぁ!」


 初めて見る電子情報のみで構築された世界。その光景に、心は大きな感激で満たされていた。


「あはっ!」


 少年は、両腕を大きく広げた。


 白い雲が流れる青空、そよ風に揺れる草花、空を泳ぐ鳥たちのさえずり。鼻腔をくすぐるのはしっとりとした新緑の芽吹き、大地を踏みしめる足はその凹凸や柔らかさまでをも伝え、肌を照らす陽光は確かな温かさを感じさせる。視界を埋める複雑なテクスチャの数々は、そのどれもが作り物とは思えないくらい精細な世界を作り上げていた。草むらをのぞき込むと、小さな虫たちが自分たちの世界を築いている。遠くにはそんな草を()む二頭の四足動物。きっとつがいなのだろう。


「それで、これが僕の分身(アバター)……」


 少年は、自分の姿を上から下まで眺めるようにゆっくり見下ろした。


 見た目は、十代の前半。大きく丸い瞳。顔立ちは、幼さを残したままだ。やや栗色がかった茶髪は耳の半分を隠す程度の長さで切り揃えられ、頭頂部には小さなちょんまげがあった。先刻、少年がメイキングしたキャラクターそのものだ。

 服装は、枯茶(からちゃ)の上着に白のズボン。インドで見かけるクルタのような服は、縫い目まで再現されている。他には簡素な皮の靴を履いている。それ以外は何も身に着けていなかった。


 小指から順に折ると、アバターはその思考を誤差なくトレースする。何度か握って開いてを繰り返してみるが、少年に違和感を覚えさせない。アバターは、本物の身体のように自由に動いてくれた。思考がぴょんと跳躍すると、茶髪の少年もぴょんと小さくジャンプをした。


「本当に飛んでるみたい!」


 足に伝わる着地の衝撃を膝が吸収する。これならば慣れなど必要ない。普段、身体を動かす通りに行動すればいいのだ。

 そのまま幾度となく小さな跳躍を繰り返す。

 と、そんな折。


『おい』


 ふと掛けられた太い男の声。声音には痺れを切らしたかのような小さな刺が含まれている。


「えっ?」


 少年が小首を傾げると、アバターも忠実にその動作を再現した。そして、声の主を探すため首を回す。


『おい、お前。聞こえているなら返事をしろ』


「へ?」


 後ろだ。

 再度聞こえた声に振り返ると、(いかめ)しい顔をした屈強な男が立っていた。その頭上には男のネームだろう、【ベンデル】という名前が表示されている。少年は知らないが、縁付きの白のネームカラーはNPCを示すものだ。


「あ……ご、ごめんなさい! はい、聞こえてます!」


 どうやらはしゃいでいる間に何度か声を掛けられていたようだ。頭を下げ、気付かなかったことを謝罪しつつ、おそるおそる目線を上げた。

 そんな少年の顔を男が覗き込む。


『ふむ、見慣れない顔だな? 旅の者か?』


「え……旅ですか?」


『違うのか?』


「わ、分かりません!」


『そうか……まぁいい。その様子じゃ、この辺りは初めてか?』


「えっと、初めて来ました!」


 この質問は、訪れたプレイヤーに簡単な説明――つまり、チュートリアルが必要かどうかを確認するための会話だ。

 少年の返答に、NPCの男が頷く。

 解説を希望したとNPCに判断されたようだ。


『そうか、それなら仕方ない。よし、ちょっと着いて来い』


 屈強そうな男が手招きをしながら背中を向けた。どこかに移動をするのだろう、少年が後を着いて来るのを待っているようだ。


『そんなよちよち歩きで表に出たらすぐに死ぬぞ。この辺りには人を襲う魔物も出るんだ』


「そ、そうなんですか……?」


 いきなりの物騒な発言に、少年は身を震わせた。実際には、人を襲う魔物――つまりアクティブモンスターは周辺に出没せず、単なる男の脅し文句に過ぎない。


『俺は忙しい。だが、少しくらいなら戦い方を教えてやる』


「は、はい! ありがとうございます! 頑張ります!」


 そして、ベンデルは少し歩いた先で立ち止まり、わずかに振り返りながらこう付け加えた。


『……別にお前のためじゃない。死んだら俺の寝覚めが悪くなるだけだ。勘違いするなよ?』


 何故か、少しだけ頬を染める男。

 だが、残念ながら幼気(いたいけ)な少年にその意図は伝わらなかったようだ。それでも男はどこか満足そうに足取りを軽くしていた。


『さぁ、もっと腰を入れろ! そんな動きでは、俺を満足させることはできんぞ!!』


「はっ、はい! こうですか!?」


『いいぞ! もっと、もっとだ! もっと強く!! ――オゥイエ!!』


 そうして。

 ベンデルの不思議な修行クエストは、しばらくの間不慣れな少年を苦戦させることとなる。




 ――――――。


 ――――。


 ――。




 やがて、チュートリアルは無事終了した。

 プレイヤーが基本動作と戦闘知識を学ぶのに平均一時間。

 しかし、少年はそこに一日を費やして、輝かしきVRMMOデビューをひっそりと終えたのだった。それでも二人の顔には何かやり遂げた充足感が浮かんでいた。




 ◇




≪QUEST COMPLETE!≫


 [もげ太は50EXPと【初心者の剣】を獲得した]

 [もげ太のレベルが1から2に上がった!]




挿絵(By みてみん)



2015/02/07

挿絵追加しました(アバターの方のイメージです)。

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