たかが味噌汁、されど味噌汁
手際よく具材を切り分け、鍋に入れる。
本当なら出汁からこだわりたいが、面倒なのでだしの素のヘビーユーザになりつつあった。様子を見て、いい頃合いに味噌を溶かし入れる。かき混ぜて味見をして、思い切り顔をしかめた。可もなく不可もなく、普通の味噌汁である。
その他の料理も出来上がり食卓に並べるが、瀬尾の気持ちはいまいち盛り上がらない。腹は減っている。しかし食欲がどうにもわかない。食べなければ空腹は増す一方なので掻きこむが、味なんてしないも同然だ。これが数ヵ月前ならば、なんら問題なく普通に食していたろうと思うと複雑な心境になる。
緩慢に後片付けをしながらダイニングテーブルの向かい、空白のスペースに自然と目がいく。ため息一つついて、今夜も気合いもそっけもない料理をしてしまったことを恥じた。食事をとるのは一人でも、後で大事な恋人も食べると言うのに。その時間を一緒に過ごせないと言うだけでモチベーションが著しく下がってしまう。
彼は毎日手の込んだ料理を作る必要は無いと言った。習慣として欠かせないと言った味噌汁も、インスタントでないだけでありがたいと言ってくれた。どれだけ手間をかけたかではなく、瀬尾が手料理を振る舞ってくれることが嬉しいのだと笑った顔が浮かぶ。
数ヵ月前めでたく付き合うことになった恋人の藤田とは、先月から同居している。
仕事の忙しい彼は元より苦手なことも手伝って、家事全般がどうにも上手くいかなかった。それを補うのが同居の目的の一つだ。
もう一つは男同士と言う特殊な事情に起因する。
二人は一緒に出掛けると、どうしても意識しあってぎこちなき雰囲気になる。結果、互いの家で過ごす時間が多くなり、行き来の時間がもったいないと藤田が言い出したのだ。
この申し出に軽い気持ちで応じた瀬尾だったが、正直失敗したと思っている。一つ屋根の下に暮らしている方が、すれ違い生活の苦痛をより一層感じるのだ。
こちらの方が先に寝て、向こうが先に起きる。同じベッドで寝ていても、寝付きのいい瀬尾にはよくわからない。目覚めた時も藤田はすでに出掛けで、短い会話しか出来ない。休日が合う機会もわずかだ。こんなにそばにいて、なぜこうも触れあえないのか。そんなフラストレーションばかりたまっていく。
再び深いため息を漏らして、時計を見る。そろそろ十時、さっさと風呂に入って眠らなくてはならない。帰りを待っていたら午前様だ。
うしろ髪を引かれる思いで支度をし風呂場に向かう。つのる思いも一緒に洗い流すかのように、熱いシャワーを頭から浴びた。
風呂からあがって乱暴にタオルで頭を拭くと、きれいに整えられたベッドに飛び込んだ。微かに藤田の香りがする気がして、本の少し笑みがもれる。しかしそれもすぐに彼のいない証しに思えてきて、慌てて眠りに入った。
緩やかに沈んでいく意識の中で、遠くに待ち望んだ声が聞こえた気がした。