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向日葵の監獄  作者: さとうさぎ
プロローグ
6/32

第6話 見てからのお楽しみ

「最初の疑問って――あ」


 そうだ。

 オレは最初、葉月先生が言った『記憶を弄る』というフレーズに強烈な違和感を覚えたのだ。

 つまり、


「……超能力を使えば、記憶を弄ることも可能だと?」


 そんなオレの問いに、葉月先生は頷く。


「程度にもよるが、それほど難しいことではない。人間の脳というのは騙されやすいものでな。そういった部分に働きかける超能力は五万とある」


 そんなものなのか。

 他人の記憶を弄るなんて、相当危ない能力だと思うのだが……。


 そんな思いが顔に出ていたのか、葉月先生が言葉を続ける。


「お前たちの超能力も、それなりに危ないものだ。悪用しようと思えば、いくらでも悪用できるだろう。特に、小野原の超能力は」


 ソラの超能力について言及した葉月先生の言葉を聞いて、はっとした。


 そうか。

 そうだよな。

 あんまり深く考えてなかったけど、ソラにも、超能力の適正があるんだよな。

 超能力の適正がある、という理由で、この学校への転入を勧められたのだから。

 ……で。


「ソラの超能力って、何なんですか?」


「『複写ふくしゃ――複写トレース』と言ってな。一度見た他の超能力を、コピーすることができる能力だ」


 え?


「それって、かなり強いですよね?」


「さすがにオリジナルと比べると性能は落ちるが、強力な超能力であることに間違いはないな」


 やっぱりか。

 話を聞いただけで、ものすごく応用ができそうな能力だもんなぁ。

 ……なんか、便利屋みたいな扱いになりそうだな、ソラ。


「……葉月先生は、人目見ただけでその人がどんな超能力を持っているのか分かるんですか?」


 そんな質問をしたのはソラだ。


「一度でも見たことがあればな。初見の超能力は分からん」


 ああ、初見ではわからないのか。

 しかし今の言い方からすると、ソラと同じ超能力を持った人間に、少なくとも一度は会ったことがあるということか。


「――む。そろそろ時間だな」


 時計を見ると、そろそろ八時に差し掛かろうとしているところだった。


「お前たちも、今日から授業が始まるのだろう? あまりのんびりもしていられないと思うが」


「あ……本当ですね」


 ソラがそう答えたということは、オレも今日から授業が始まるのだろう。

 急いだ方がいいな。


「では最後に、他に私に聞いておきたいことはあるか?」


「あ、それじゃあ最後にひとつだけお聞きしたいんですが」


 しかし、今のうちに聞けることは聞いておきたい。

 オレは、一番聞きたかったことを尋ねてみることにした。


「――オレの超能力は、いったい何なんですか?」


 その質問を耳にした葉月先生は、妖しく微笑んだ。


 なぜだろうか。

 鳥肌が立った。


「仲原の超能力は――見てからのお楽しみだ」


 ……え?


「何ですかそれ」


「そんなに焦らずとも、すぐにわかる。今日の放課後、寮の前に集合するように。そこで初めての超能力講座を行う」


 葉月先生は、オレたちに向かって一方的にそう告げる。


「不満そうな顔だな。仲原」


「……そりゃあそうでしょう。何で僕の超能力は教えてくれないんですか?」


「そのほうが面白そうだからに決まっているだろう」


 ……え?

 そんな理由?


「――どうしても使いたくなったら、身体の奥深く。そこでうねっているモノを、外に向けて解放するだけでいい」


「身体の奥深くでうねっているもの……?」


 そう言われても、あまりピンとこないのだが。


「もっとも仲原の場合、人前で使うのは、あまりオススメできんがな」


「なにそれこわい」


 オレの言葉を耳にした葉月先生は、ふっ、と笑い、


「安心しろ。仲原の超能力は、小野原のよりはありふれた能力だ」


「それ、喜べばいいのか悲しめばいいのかわかんないんですけど!」


 葉月先生は最後のオレの言葉を無視し、如月先生のほうへ視線を向けた。


「――如月! 起きろ! いつまで寝ているつもりだ!」


「いだっ!」


 如月が飛び上がる。

 ……ん?

 今、何か如月先生が痛がるような要素があったか?


「何するんですか葉月さん!」


「いつまでも寝ているほうが悪い。――仲原と小野原のこと、頼んだぞ」


「……はいはい、任されましたよ」


 そこで如月先生は、何かに気付いたように、


「ってか、また呼び出しですか? 霜月しもづきさんも、自分で動けばいいのに……」


「言って聞くような奴じゃないさ」


 そう苦笑しつつ、葉月先生が立ち上がった。


「あ」


 そのお腹は、目に見えるほど大きく膨らんでいる。

 妊娠しているのか。

 ずっと椅子に座っていたから気付かなかった。

 

「それじゃあ、仲原くん、小野原くん。行こうか」


「あ、はい」


 そうだ。

 今日から授業が始まるのなら、オレたちは急がなければならない。


「それでは、失礼しました」


「うむ」


 オレは、如月先生とソラと共に、校長室を後にした。

 なんとなく、後ろを振り向く。


「……あれ?」


「ん? どうしたの、秋二?」


「……いや、なんでもない」


 気のせいだろうか。


 オレたちが扉から出たあと。

 校長室の扉が閉まる直前に。



 葉月先生の姿が、校長室から消えたような気がした。


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