第5話 超能力
一瞬、何を言われたのかわからなかった。
「――超能力?」
やっと声に出すことができたのは、そんな一言だ。
「そう、超能力だ。私がキミにそのことを教えたときは、キミにその自覚は無かったようだが」
「……超能力って、あの超能力ですか?」
「? どの超能力のことを言っているのかわからんが、超能力は超能力だろう?」
葉月先生が、不思議そうな顔でそう返答した直後。
「うぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおっ!!」
オレのテンションが天元突破した。
「……秋二、テンション上がりすぎ」
「だって、超能力だぞ超能力!! 中二の夏に誰もが憧れる超能力だぞ!? ソラ、お前何でそんなにテンション低いんだよ!?」
「最初に、ぼくと一緒に葉月先生の話を聞いたときと、秋二の反応が同じだからだよ……」
ソラが、ジト目でオレを見ていた。
どうでもいい。
努力が報われた。
あの夏の、魔術詠唱の練習は無駄ではなかったのだ。
「……話を続けても構わんか?」
「あっ、すいません」
葉月先生が、生暖かい目でオレを見ていた。
一瞬で目が覚めた。
「すーっ、はぁーっ」
深呼吸をひとつ。
ついでに伸びをした。
「……お騒がせしました。もう大丈夫です」
冷静に考えれば、魔術詠唱の練習は超能力とは何の関係も無いだろう。
無駄に黒歴史を思い出しただけだった。
「話を戻すが……超能力を持つことで、間違いなくその人間の人生は狂わされる。それが、良い方向か悪い方向かは場合によるがな」
「と、いうと?」
「過ぎた力は自らの身を滅ぼしかねん。実際に、我々が捕捉できていなかった超能力者による刑事事件が起こったこともある。そういったものを事前に防ぐことも、我々の仕事なのだ」
「なるほど」
納得できる説明だった。
確かに、超能力という特別な力を持つことで増長する輩もいるだろう。
至極まともなことを言っているように思える。
少なくとも、オレには。
「それに、同じ超能力を持った仲間たちと生活を共にし、互いに切磋琢磨する。――その経験は、ここ、高峰高校でしかできないことだ」
「…………なるほど」
オレは視線を隣のソラへと向けた。
ソラは、微笑を浮かべながらオレのことを見つめている。
「……ソラからは、何か言うことはないか?」
「別にないよ。そもそも、最初に高峰高校に転入することを決めたのは秋二だしね」
「そうなのか?」
「うん」
そうか。
オレが決めたのか。
これだけ詳細な説明を聞いても、何も思い出せないが。
そのときのオレは、一体どんな思いで高峰高校への転入を決めたのだろう。
超能力による自らの増長を危惧したのか。
超能力という大きな力を持つことを恐れたのか。
それとも、単純にあの高校の居心地が悪かったのか。
……どうでもいいことだな。
問題なのは、今このときのオレが何を思い、どう決断するかだ。
一瞬とはいえ、ソラを、自分の決断の逃げ場所にしたことが恥ずかしかった。
これは、自分で決めなければならない問題なのだ。
他の誰でもない、オレが。
「それで、どうする? 今ならまだ、仲原君の転入を無かったことにもできるが」
「……そうですね」
葉月先生の話を聞いて、オレは納得した。
ソラも納得している。
なら、高峰高校への転入を拒む理由はない。
「それじゃあ、僕も高峰高校に転入します」
「そうか。わかった」
葉月先生は、それ以上何も言わなかった。
「――ああ、言い忘れていたが、超能力を持っていることは高峰高校の寮生になることの条件でもある。仲原にも、寮で生活してもらうことになるだろう」
「わかりました」
寮で生活することになることは、半ば予想していたことだったので問題はない。
それにしても、あの寮には超能力を持った学生しかいないのか。
……あれ?
「ということは、緋鳥も超能力者なんですか?」
「そういえば、仲原を案内したのは緋鳥だったか。お前の想像通り、彼女もお前たちと同じ、超能力者だ」
そうだったのか。
知り合いが同じ仲間だと思うと、少し嬉しいな。
「ふわぁー……」
ソラは欠伸を噛み殺している。
如月先生は舟を漕いでいた。
……寝不足気味っぽいとは思っていたが、普通、ここで寝るか……?
オレの中で、如月先生のイメージが『残念な大人』になりつつある。
転入の一件が解決したことで、場に弛緩した空気が漂っていた。
「さて」
しかし、その空気は、再び口を開いた葉月先生によって破壊される。
「これまでに言ったことをふまえて……お前の、最初の疑問に答えるとしようか」




