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向日葵の監獄  作者: さとうさぎ
プロローグ
2/32

第2話 ふぁーすと こんたくと


 少女は不思議そうに、こちらを眺めている。

 身長は160cmぐらい。

 腰のあたりまで伸びた黒髪に、薄茶色の瞳。

 制服を着ているので、オレと同じ高校生だろうか。

 可愛い女の子だった。


 あと、胸がけっこうデカい。

 それは今はどうでもいい。


「――ぁ」


 その少女の姿を見て、オレは小さく息を漏らした。




 どうしよう。ズボン穿いてない。




 危惧していた事態が現実のものになってしまった。

 彼女には、今のオレがどういう存在に見えているのだろうか。

 ……うん。

 どう考えても変質者以外の何者でもない。


 どうする?


 オレは必死に頭を回転させる。

 ここは、正直に全て話したほうが――


「どうしたの?」


 不思議そうな表情を浮かべたまま、彼女はオレにそう問いかけた。

 その瞳には、未知の存在に対する興味のような感情が浮かんでいるように見える。


 そんな彼女の態度に、オレは戸惑いを隠せない。


「……この格好、変だと思わないのか?」


 思わず、そんな言葉を口にしていた。

 彼女は僅かに目を見開く。


「え? もちろん変よ?」


「ですよね!」


 そこについての見解は一致しているらしい。


「でも、何か事情があるのかもしれないし」


 理解のある女の子に会えてよかった。

 そう思わずにはいられなかった。

 世の中も捨てたものではないな。


「……キミ、葉月はづき先生から何か聞いてないの?」


「葉月先生?」


 オレは首を捻った。

 葉月。

 どこかで聞いたことがある名前だ。

 が、思い出せない。

 ……クソ、この思い出しそうで思い出せない感覚がもどかしい。


「あれ、葉月先生のことも知らないの? 困ったわね……」


 言いながら、少女は自分の口に右手を当てている。

 考えているときのポーズのようだが、大して困っているようには見えない。


 葉月〝先生〟というぐらいだから、やはりここは学校なのだろう。

 そう考えると、多くの疑問が浮かび上がってくる。


「教えてほしいことが色々あるんだけど、いくつか質問してもいいかな?」


「いいわよ」


 いいらしい。

 さて。

 何を尋ねるべきだろうか。


 とりあえず日付と現在地。

 そして、何やらオレの事情を知っていそうな葉月先生とかいう人物のこと。

 ズボンを調達できる場所があれば、それも教えてもらいたいな。

 今のオレはパンツしか穿いてないにもかかわらず、違和感がほとんどない。

 非常に危険な状態だ。


「今日は何月何日?」


「今日は四月二十五日よ。……というか、そんな基本的な情報も知らないの?」


「うん!」


 自慢じゃないが、ほとんど何もわからない。

 ここはどこ? わたしはだれ? を本当にやることになりそうだ。

 いや、前者はともかく後者はやらないか。

 ……あ、そうだ。


「そういえば自己紹介がまだだったな」


「そういえばそうね」


「オレは仲原秋二。昨日あたりの記憶が無い、ごく普通の高校二年生だ。よろしく」


「それ全然普通じゃないから病院に行ったほうがいいと思うけれど……私は緋鳥ひとり ゆめよ。よろしく、仲原くん」


「……ヒトリ? どんな漢字書くんだそれ?」


は、いとへんにあらず、とりは普通の鳥。あと『ひとり』は劇団ひ○りと同じ発音よ」


「お、おう」


 なんか、すげー変わった名字だった。

 覚えやすくていいけど。


「それじゃあ、緋鳥。手とり足とり色々教えてくれ」






 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






「……なるほど」


 緋鳥から教えてもらった情報を整理すると。


 今日は四月二十五日。

 これは、オレの覚えている日付と大体一致するので問題ない。


 そして、ここは高峰たかみね高校という私立高校の敷地の中。

 それも寮生以外は立ち入り禁止の区画だという。

 やはり、オレが寝ていた部屋があった建物は寮だったのだ。


 高峰高校、という名前は聞いたことがあるような気がする。

 なんでそんな場所にオレがいるのかはわからない。

 たまに転校生がやってくることはあるらしいが。

 緋鳥は、葉月先生に聞いたらわかるかもしれない、と言っていた。


 また、葉月先生というのは、オレが寝ていた寮の責任者らしい。

 先生と呼んでいるものの、授業はほとんどしないのだそうだ。

 この辺も、詳しいことは後で本人から直接聞いてくれと言われた。


 ズボンは無かった。

 「スカートでよければ貸してあげるわよ?」と緋鳥に提案されたが、丁重にお断りした。

 変質者から変態にランクアップするのは避けたい。

 あとでもう一度、あの部屋に本当にズボンが無いかどうか探してみよう。


 ちなみに緋鳥も高二で、この寮に住んでいるらしい。


 何にせよ、ここは危険な場所ではない。

 逃げる必要はなくなった。


 ……客観的に見れば、オレはこの学校に転入してきた可能性が高い。

 問題は、オレに一切その記憶が無いことだが……、


「こればっかりは、その葉月先生に聞いてみるのが一番だろうな」


「そうね」


 そう答えながら、緋鳥は時計台を見上げた。


「……まだ時間に余裕もあるし、職員室まで案内してあげるわ」


「いやー、かたじけない」


 本当にありがたい。

 緋鳥には世話になりっぱなしだな。

 今度何かお返ししよう。そうしよう。


「あ、そうだ」


 緋鳥が、視線をオレの下半身に向けた。

 やん。

 そんなに見つめられたら恥ずかしいわ。



「職員室に行く前に、ズボンぐらいは穿いておかないとね」



 あっ、はい。



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