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向日葵の監獄  作者: さとうさぎ
プロローグ
16/32

第16話 黄金の少女


「シュージ! こっちこっちー!」


「はいはい、すぐ行くよアミちゃん!」


 ブンブンとオレに手を振りながら、春の陽気の下を、漆黒のドレスに身を包んだ少女――アミちゃんが駆ける。

 少女に追いすがるように、金色に輝く髪が揺れていた。

 その顔に浮かんでいるのは、太陽のような笑顔だ。


「ったく、元気過ぎるだろ」


 一方オレはというと、僅かに口元を緩ませながらも、少しぐったりしていた。

 先ほどから、アミちゃんと一緒に連続かつノンストップでアトラクションに乗っているからだ。

 ちなみに、ついさっきアミちゃんがメリーゴーランドに飽きたところである。


「メリーゴーランド五回連続は、なかなか精神にクるものがあったぜ……」


 ずっとアミちゃんと一緒にメリーゴーランドに乗っていたオレの精神値は、かなり削られていた。

 幸いなことに、係員さんには微笑ましいものを見る目で見られていたが。


 いったい、どういう関係だと思われていたのだろうか。

 オレの姿が日本の一般的な黒髪黒目の高校生であるのに対し、アミちゃんは金髪碧眼。

 どこからどう見ても外国人である。

 間違っても、オレと兄妹には見えないだろう。

 実際、兄妹でもなんでもないが。


「……ふぅ」


 手の甲で、額の汗を拭う。


「暑いな」


 今日は日差しが強い。

 いわゆる真夏日というやつだ。

 こんな日にこうも動き回っていると、バテてしまうのは無理もないと思う。

 正直疲れた。




 でも、あの少女に連れまわされるのは嫌ではない。




 アミちゃんを見ていると、自然と顔がほころぶ。

 庇護欲を掻き立てられるというか、なんかそんな感じだ。


「シュージ! 次はこれがいい!」


「ん? どれどれ」


 きゃっきゃと騒ぐアミちゃんの背中に追いつき、彼女が指差したほうを見る。

 その小さな指の先にあるのは、観覧車だった。


「観覧車か。懐かしいなぁ」


 昔、ソラの家族と一緒に遊園地に遊びに行って、そのとき乗ったきりじゃないだろうか。

 少なくとも、最近観覧車に乗った記憶はない。


 しかし、アミちゃんは元気だな。

 小学生の体力恐るべしと言うべきか。

 いや、オレだってまだまだ若いけどね?


「何を一人でお父さんみたいなことを考えてるんだオレは……」


「シュージ? どうしたの?」


 アミちゃんが首を傾げると、ピンク色のリボンで結ばれた金色のツインテールがぴょこりと跳ねる。


「アミちゃんは元気だなーと思って」


 こんな日差しの中で、ここまで動き回れる体力があるのは素直に感心する。

 オレなんて、もうヘロヘロだ。


「観覧車乗るのはいいけど、その前にジュースでも飲もうぜ。さすがにこの陽射しはきつい」


「ジュース買ってくれるの!?」


 オレが休憩を提案すると、アミちゃんは目をキラキラさせて乗ってきた。


「お、おう。もちろんアミちゃんの分も買ってあげるよ。近くに自販機あるかな……」


「ありがとうシュージ!」


「おふっ!?」


 何の構えもとっていなかったオレの腹部に、アミちゃんのタックルが炸裂する。

 喉から変な音が漏らしつつも、それを何とか受け止めた。

 そのままアミちゃんを抱きしめる。


「そんなにジュース好きなのか?」


「だって、おじちゃん、たまにしかジュース買ってくれないんだもん」


 そう言って、オレの腕の中でアミちゃんが口を尖らせた。


 おじちゃん、というのは、アミちゃんの保護者さんだろうか。

 だとしたらまぁ、妥当な判断だと思う。

 小さい頃から贅沢させても、ろくなことにならないだろう。


「……んー」


 自販機は無いかと、辺りを見回す。

 さっきまで乗っていたメリーゴーランド周辺に自販機は無かったので、望み薄だと思っていたのだが。


「お、あるじゃん」


 視界の端。

 オレたちのいるところの目と鼻の先に、自販機があった。


「ホントだ!」


「あ、おい!」


 自販機を見つけるや否や、アミちゃんは駆け出した。

 あわてて呼び止めようとしたが、もう遅い。


「まったく。そんなに急がなくてもジュースは逃げねぇよ」


 そんなオレの声は、アミちゃんには届かなかったらしい。

 アミちゃんは自販機の前で「うーん……」と可愛らしく唸っていた。


 しばらくして、飲みたいジュースが決まったのだろう。


「アミ、これがいい!」


 アミちゃんがオレのほうを振り向きながら、自販機の中にあるジュースを指差す。

 オレは、そんなアミちゃんの様子を、ほっこりしながら見つめていた。






 さて。






 何故オレがパツキンの幼――じゃなかった、少女と一緒に遊園地にいるのか。


 それを説明するには、時間を少しさかのぼらなければならない――




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