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向日葵の監獄  作者: さとうさぎ
プロローグ
15/32

第15話 初日の終わりに


 部屋の明かりを点ける。

 目に入るのは、見慣れない家具たち。

 ……やはり自分の部屋と呼ぶのはまだ違和感があるものの、正真正銘ここがオレの部屋なのだ。


「……つかれた」


 今日は色々なことがありすぎて、少し……いや、かなり疲れた。


 そんなことを思いながら、ベッドにダイブする。

 あー、柔らかい。

 このまま寝落ちしてしまいそうだ。




 オレは、ついさっき風呂から上がり、ようやく部屋に戻ってきたところである。


 一緒に入ったのは、ソラと善希だ。

 風呂は、三人で入るには十分すぎるぐらい広かった。

 風呂椅子とシャワーは二つしかなかったので、オレはソラと仲良く二人で一つの風呂椅子とシャワーを使った。

 今日は風呂場の案内も兼ねて善希が案内してくれたが、次回以降は男同士でも少し時間をずらして入ることになりそうだな。


 ソラは、「秋二と一緒にお風呂なんて、久しぶりだねー」などと言いながら、終始オレにくっついていた。

 なんであんなに上機嫌だったのかはよくわからない。


 そういえば、久しぶりにソラに背中を洗ってもらったが、あれはなかなか気持ちよかった。

 また機会があればやってもらいたいものだ。


 善希は、風呂に入る前は「……ホントに一緒に入っていいのか?」と何度もソラに確認し、鼻息を荒立てていた。

 そして、風呂の中では悟りを開いたような表情を浮かべていた。

 合掌。


「……あ、そうだ」


 沈みかけていた思考が、不意に鮮明になる。

 オレはベッドから立ち上がり、キャリーバッグの中を漁り始めた。

 しばらくゴソゴソして――


「あったあった」


 探していたものを見つけた。




 写真立て。


 そこに収められた写真には、四人の人間が写っている。

 オレと、ソラと、兄貴と――千春姉ぇ。


 その写真に目を落としながら、オレは今日一日を振り返る。




 ……今日は、今までのオレの人生の中でも一番密度が高い日だったと断言できる。




 超能力と魔術。そして化物。


 空想の産物だと考えていたものが、まさか実在するなんて思いもよらなかった。

 しかも、魔術はダメらしいが、超能力はオレにも使えるときた。

 これで興奮するなというほうが無理がある。


 化物は……正直気持ち悪かった。

 できるだけ、あんなのの相手はしたくないが、自衛ぐらいはできるようになっておくべきだろう。

 今までアレと出会わなかったのは、単なるオレの幸運のおかげに過ぎないのだから。




 それと、今日出会った人たち。


 ゆめは親切だし、かわいい。

 苗字のことがあったし、まだちょっとオレとソラに対して壁を作ってる感じはするけど、これから打ち解けていけたらいいな、と思う。


 ソラは……いてくれて助かった。

 オレはどれだけあいつに助けられてるんだろう。

 もう、アイツがいない生活なんて考えられねぇよなぁ……。


 如月先生と葉月先生については、まだよくわからない。

 でも、転入のときに話を聞いていた限りでは、悪い人たちではないと思う。


 善希はちょっと変なところもあるけど、気さくで、転入してきたオレたちのことを気にかけてくれる、いい奴だ。


 睦月は……正直、ちょっと怖かった。

 あの化物を殺すのに、まったく躊躇がなかったからだ。

 睦月にとっては、ゴキブリを殺すのと大差ないのかもしれないが……。

 でも善希と仲好さそうだったから、やっぱり悪い子ではないんだろう。


 ユークは……まだあんまりよくわからない。

 ホントに同じ人間なのか? っていうぐらい完成された顔立ちだったけど、それは外見だけの話だ。

 喋り方も特徴的だし、中身は割と普通の寡黙な子なのかもしれない。

 あと触手が苦手っぽかったから、ユークの前ではあんまりオレの超能力は使わないほうがいいな。


「……うん」


 これから、同じ寮で暮らす仲間たちだ。

 少しずつ、お互いのことを知っていこう。

 そのための時間は、十分にあるのだから。



「明日が楽しみなのって、すごく久しぶりかもしれない」


 ……いや。違うな。

 きっと、昨日までのオレも、同じような感情を胸に抱いていたに違いない。




 新しい環境で、新しい友達たちと始める、新しい生活。




 それは、この前までのオレが喉から手が出るほど欲していたものだっただろうから。


「……おやすみ、千春姉ぇ」


 写真を机の引き出しにしまってから、ベッドに入った。


「………………」


 すぐに眠気が襲ってくる。

 オレはそのまま、意識を手放した。




 こうして、オレの転入先での初日は幕を閉じた。


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