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藍猫古書堂  作者: 神寺 柚子陽
帝都・東京
20/26

タイムスリップ

遅れました。ごめんなさい。

続、難産。

語彙が、語彙が足りない……。だれか、文才わけておくれ。

では、どうぞ。

「ふぉっふぉっふぉ、それは災難でしたな。少女殿」


 柔らかく目を細めて好々爺の風情で笑う、豊かな白ひげを蓄えて渋めの竹模様の羽織袴を着た老人。

 足が悪いのか、どっしりと椅子に座って杖を持つ姿はゆがみない安心感すら与えてくれる。されど鋭い眼光と隙のない所作が歴戦練磨の気迫を伝える油断ならない雰囲気の老人だ。

 鈴子たちが今居るここ、『考雲堂』骨董店は、このヒゲでナイスシルバーな有斎爺さんが経営する古物商である。


 果敢と名乗る男装の軍服女性と、白シャツに安っぽい地味な着物と袴を合わせて着用し、腰に刀を差した色黒の少年、三佐。

 彼ら二人に半ばしょっ引かれるかたちで鈴子はここに連れて来られた。

 そして先程自己紹介をし終えて状況説明も終わり、冒頭の有斎爺さんの台詞に戻るのである。


「鈴子よ。八日町鈴子。まったく、この人たちったら物騒で仕方ないわ。危うく殺されかけたじゃない。なんで刀なんか持ってるわけ?法律で禁止されているでしょ?」

「おや? そうなのですかな?………果敢」

「そのような記録は御座いません」

「え、ウソ。でも、だって………」

じっと三佐と名乗ったツンツン頭の色黒少年の腰の物を見る。刀だ。紛うことなき刀だ。日本刀だ。しかも切れ味抜群で、鈴子の命も危うくバッサリいかれそうになった刀だ。


「おれはこれでも警察だからいいの! 果敢姉ちゃんは政府の御役人さまな。おっかねえんだぞ~?」


 ぽかっと軽い音がした。

 拳固で果敢に殴られた三佐は、頭を押さえて抗議した。


「いってーなっ、なにしやがんでいっ!」

「アンタが余計な口すべらせるのが悪いんじゃないの。なに、あんた、女性のあたしが政府官僚やってて文句ある?」


 前半は三佐に対して、後半の官僚云々は鈴子に対しての発言である。鈴子は慌てて首を横に振り、文句がないことを全力で示す。


「い、いいえっ!! とんでもないっ。政府官僚がお仕事なんてすごいです。尊敬できることだと思います。女性の身で政治家なんてすごいです。あたしには真似できないから」


「フンっ、バカなの死ぬの? あんたなんかが真似できたらあたしの苦労が浮かばれないわよ。ていうか、真似なんてしないでちょうだいっ。虫唾が走るわ。三佐、ついでだからやっぱり斬ってしまいましょう。こんな不穏分子、さっさと隠滅しちゃいましょう」

「え、待ってくださいっ。あたしまだ死にたくありませんっっ」

「マテ。待て待て待て。今のご時世、人ひとり消すのがどんだけ面倒なことなのか判って言ってっか? 戦時中と違うんだぞ? 戸籍とかいうもんだってちゃんとあるんだぞ? 第一おれ、無駄な殺しはやりたくねーよ。こんな嬢ちゃんでもなんか利用価値があるかもしれねーから。な? 堪えてくれよ果敢姉ちゃん。な、な?」


 三佐クン、マジで恩人。でもあたしの命が吹くと消えるロウソクの火みたいに風前の灯なことには変わりないわけね。そして利用価値とか消すとか平気で言っちゃうんだ。こわっ!!


「ふぉっふぉっふぉ。三佐は相変わらず、果敢に顎で使われておりますのう。鈴子さん、諦めも時には肝心ですぞ? ふぉっふぉっふぉ」

「諦めって、まだ死ぬ予定は有りませんケレド!?」

「ふぉっふぉっふぉ、元気は若さの秘訣。良きかな、良きかな。ふぉっふぉっふぉ」

「意味わかんないしっ」

「ふぉっふぉっふぉ。意味などございません。気分です。ふぉっふぉっふぉ」

「わあ、テキトー………」


 鈴子はがっくりと崩折れた。

 視線を感じて果敢の方を見ると、絶対零度の冷たい視線で睨まれていた。

 背筋が凍り付き、固まって視線が離せず、鈴子は動けなくなってしまう。


「わらいごとじゃねーぜ、有斎爺ちゃん」


 不穏分子は抹消すべきと今も冷たく見据える果敢の視線に、声も出せず怯えている鈴子を庇おうと、彼女らの間に立った三佐は、ため息混じりに言う。


「こいつ、妖魔が見えるってーから連れて来たけど、どうするよ? 果敢は即座に斬れって云うし………ジジイの意見が聞きてえンだ」


 まるで三時のおやつでも相談するみたいな気軽さで、鈴子の命をどうするかの相談が進む。


(これは夢。これは夢、これは夢。こんな現実は異常だわ。こんなの現代日本で許されるはずがないっ!!)


 地味に三竦みの構図が出来上がっている緊張状態の店内で、有斎は場違いなほど朗らかに笑って意見を述べる。

 

「果敢は相変わらず血の気が多いですのぅ。ですが、その必要はないと断じます」


 ――ピタリ。

 瞬間、鈴子を刺していた視線が逸れて冷汗が止まった。

 冷たい視線はそのまま有斎を問いただそうと口を開く。


「理由を所望します。有斎翁」


「ほう、理由ですかな?」


「果敢。この娘、武道の経験はおろか、命の危険に際して刃向う気概すらない」


「その証拠に三佐が刀を構えた時点で睨みつけるなり、身構えて反撃しようとするなり、普通ならなにかをするでございましょう」


「されどこの娘は、ただ怯えて周囲に助けを求めようと視線を彷徨わせる始末と聞く。しかも誰も助けは来なかった。お分かりですかな?」


「この娘は隠叉が見えるだけの見鬼。見えるだけの珍妙な服装の娘ですじゃ」


 孫娘の反応を楽しむ爺の如く有斎は愉しそうに、朗らかにまた笑う。


 爺の答えに三佐と鈴子はほっとひとつ、胸をなでおろし、果敢は興味を無くしたように鈴子を一瞥して彼女の腕を掴む。

 鈴子は「わっ」と驚きの声をあげた。

 気にせず果敢はサラッと、


「つまり、斬る価値もないわけね。わかったわ、その辺に捨ててくる」

「こらこら待ちなさい。斬る価値はなくとも取り込む価値はあると判じます。長に連絡を。あたらしい物語が手に入りましたとでもお伝えください」


 有斎は椅子に座ったまま腰を折る。

 三佐が了解した、と言ってにかっと笑い、果敢は面白くなさそうに鈴子の手を離してその辺にあった木彫りの招き猫をいじくる。


 どうやら当面の命の危機は去ったらしい。

 鈴子は思い切って話の通じそうな有斎と三佐に尋ねる。


「あの……ここは、どこなんでしょうか?」

「どこって、さっきも言ったじゃん。有斎爺の『考雲堂』だよ」

「あ、……いえ、そうではなくて、ここって日本、ですよね?」


 ――ピクリ。

 怪訝な雰囲気が三人の間に漂い、奇妙な緊張状態が発生する。


「………どういう意味ですかな?」

「………嬢ちゃん、ここは帝都・東京。大日本帝国の御膝下(おひざもと)、帝都・東京だぜ? 格好や言葉遣いからして、この辺のモンじゃねえだろとは思ってたが、アンタまさか、キオクソウシツとかいう病気か?」

「フンっ、だったらこんな厄介者、なおさら長に会わせる前に捨てた方が」

「これ、果敢」


 有斎が鋭く名前を呼んで窘め、首を横に振る。

 果敢はふてくされたようにそっぽを向いて頬を膨らませ、何処かから出してきた肘掛椅子に座って尊大に足を組んだ。


「帝都……? 東京……?」


「すみませんが、今の年号って『平成』、です……よね?」


 きょとんとして三佐が答える。


「ヘイセイ……? なんだそれ。なにかの冗談か?」

「え? 冗談でもなんでもありません。今の年号って『平成』X年………ですよね?」

「…………………幕末過ぎて、維新から十年ほどたった明治の世、だったハズだぜ? おれたちはあんまり年号とか、気にしてねえから正確に何年だったかはわからねえがな。だよな、果敢姉ちゃん」

「ええ、少なくとも、『ヘイセイ』などという時代が年号に記録されたなど、私の記録にも朝廷の記録にも記載されて御座いません。そう記憶しております」


 ティーカップにお茶を入れて、自分だけ優雅に少し遅い午後のティータイムを楽しみながら、果敢は少し拗ねた風な声音で事務的に返答した。

 じと~っとヤブにらみの如き三佐の視線を受けて、仕方なく果敢は三佐と有斎、ついでに鈴子にもお茶を給仕する。

 有斎がカップを渡されて礼を云ったら照れ隠しのように顔をそむけたのに対し、三佐は礼を云っただけでどつかれ(叩かれ)、鈴子がありがとう、とお礼を言うと鼻で笑われた。

 この差はなんだろうか。自分はなにか彼女にしただろうか。

 カップに口をつけ、飲んでみると中身は普通の砂糖入り紅茶だった。というか、普通というより美味しい。混乱した頭を落ち着かせるにはちょうどいい、少しほっとする味だった。


「ヘイセイ、という時代が、ない……?」

「ええ、ないわよそんな時代。政府の記録にもないっていってるでしょっ」

「ここは明治………?」

「はい。小生の記憶では、王政復古の大号令を経て、明治維新が成りましてからおよそ十年後の、文明開化名高い明治の世でございます」

「かえれ………ない………?」

「みたいだな」


 お茶を飲みながら当然の如く返される言葉を受けて、鈴子は崩れ落ちた。


 ―――タイムスリップ? マジで? 本当に? 嘘じゃなくて?


 お茶を飲み終えた有斎が立派な白い顎ヒゲを扱きながら考えるように口を開く。


「………やはり、長に連絡した方が良さそうですね。こういうのはあの方に押し付け……あの方を信じて頼むに限ります」


 今、この爺さん、押し付けるって言った!? ぜったい面倒だと思ってる。めんどくさいから関わりたくないとかおもわれてるんだ。うわ~ん。


「気のせいでございます。長に押し付けるなどと、そのような考え、いやはや恐れ多い」

「今、もしかして心読みました!?」

「はて? そのくらい、老人の嗜みのうちだと思いましたが……違いましたかな?」

「違うと思います」

「ジジイが戦場慣れし過ぎてるせいだと思うぜ? それ」

「社交界と交渉の場ですね。わかります。あたしも有斎翁の域まで早く達したいものです」

 

 三者三様の応えを返す鈴子、三佐、果敢。


「ふぉっふぉっふぉ。まあ、よいではありませんか。心を読むことなど、表情筋や目の動き、体の筋肉の動き、ひとつひとつを観察していれば可能な、単なる技術なのですから。あたれば八卦。当たらぬも八卦。あたれば儲け物のジジイのヒマツブシですじゃ。ふぉっふぉっふぉ」


 暇潰しで心読むなんて、実は悪趣味なおじいさんだこと。それとも、戦場や駆け引きの場で身に着いた癖なのかしら?


「それでは、鈴子嬢の件は三日の間、小生預かりとさせていただきます。その間にいろいろと調べさせていただきます。よろしいですかな? お三方」


「ええ、構わないわ。三佐も異論ないそうよ」

「勝手に決めるな。ま、そーなんだけどよ。おれは実戦向きだし、果敢姉ちゃんも妖魔相手や大捕り物ならともかく、ちまちました情報集めは苦手だからな。ジジイに任せる」

「ふぉっふぉっふぉ。言質はとりましたぞ?」


 これで小生の株がまた上がっても文句を仰いますな? と有斎の銀灰色の眼光が果敢と三佐の公務員組二人に向けて、彼らの反応を見るべく愉快そうに語っていた。


 相変わらず油断ならない老人だ、と果敢と三佐は思った。


「好きにしやがれ。本人が承諾したら、だけどな。その場合は、おれが警察にしょっ引いて牢にいれさせてもらうか、ジジイに任せるか、長か本家に引き渡すかの四択だろ? おれとしては八日町の名を持つこの嬢ちゃんを署で逮捕する、なんて、やりたくないんだが………あんた、どうする?」


 問いかけられた鈴子はわけがわからなくて首を傾げる。

 すると予想外に誠実で真剣な目が鈴子を射すくめて淡々と言葉を募った。


「ジジイは三日もすればあんたのこと、産れから経歴、住所、どっから来たのかまで、嘘偽りなく調べきれるって言ってる」


「一番穏便なのは、ジジイかおれたちの長のとこに一度行くこと。そしたら戸籍がなくとも作ってやれっから」


「最悪はおれが警察にしょっぴいていくこと」


「江戸時代の気風がまだ残ってて、拷問とか普通にあっから、身分証明とか保証人とか、ちゃんとしたもんないとかなり苦しいぞ?」


「サツはおれたち“風由”の管轄じゃなくて、政府の直下管轄組織だから、おれたちのもとを離れたが最後、助けてもやれなくなる」


「その点、三日ここに居れば安全だ。三日居れば情報が集まり、その間は一応の安全も約束される」


「どうする? 選択権はおまえにやるぜ?」


 皆さま、よく聞きました?

 優しく誠実にあたしの今後の選択肢を三佐クンは教えてくれました。

 ですが、………選択権が有るようでありません。その実、強制一択です。


「……………三日間、お世話になります。有斎さん」

「ふぉっふぉっふぉ。空き部屋はありますからな。ゆっくりしてきなさい。帰るところがあるならば別ですがのう。ふぉっふぉっふぉ」


「あ、あの……」

「なに?」


 ジロリ。果敢が斜め上から鈴子を睥睨する。


「え、いえ……あ、あの……“風由”って、なんですか?」

「ん? あ、ああ。それは……」


 いいごもる三佐。

 その横から、果敢が紅茶を飲みつつ、さっと云う。


玩具(オモチャ)会社です」

「玩具会社……?」

「あれ、そうだっけ?」


 首を傾げる鈴子と三佐。

 自分はともかく、三佐まで首を傾げたことに、鈴子は不思議に思った。

 有斎が陽気に笑って、「表向きは」と付け加える。


「表向き……? ということは、裏があるってことよね?」


 果敢が言葉を続ける。


「そうですね。そういうことなのでしょう」

「果敢姉ちゃん」

 

 泰然とした雰囲気を醸し出してはぐらかす果敢に、三佐はちゃんと教えてやれ、と目で文句を言う。

 果敢は煩わしそうにまぶたを閉じた。

 骨董品の洒落たティーカップを、これまた骨董品のイギリス王朝の個室にでもありそうな洒落た売り物の木の机に置いた。

 仕事に徹する事務的な冷たい視線を鈴子に向け、果敢はこう口を開く。


「『風由』の創業は江戸時代末期。幕末の動乱の最中、我らが長が拾い集められた孤児や、無職人、仲間のために創られました」

「……孤児?」

「おう。俺みたいな元、貧民街の盗人(スリ師)とかな」

「え……!? 三佐クン、元泥棒だったの!?」


 こともなげに告げた三佐に、鈴子は思いっきり驚いた。


 刀を差して、憲兵(警察)なんてしている彼の現状からは、後ろくらい様子なんて――そりゃまあ、簡単に人一人消すような算段をする人たちの一員だが――見えない。


「ま、人の過去にはいろいろあるもんさ。果敢姉ちゃんだって、遊郭に売られそうになってたところを、売人蹴飛ばして、長に助けて貰ったのが出会いらしいしな」

「ええ……!? ゆ、遊郭って、男の人が女を買うっていう、あ、アレのこと!?」


 鈴子は顔を真っ赤に染める。どーやら最低限のそーいう知識はあるらしい。彼女は高校生。コイバナなど友達とする年頃なのだろう。知っていても問題あるまい。

 果敢は、勝手に人の過去をばらしてくれた三佐に絶対零度の冷たい視線を向け、頬を赤く染め上げる鈴子を見て、少し不機嫌になった。


「……昔のことです。人の過去を掘り返すな、といいたいところですが、例えとしては丁度いいので、このまま話を続けましょう。有斎翁、あなたはなぜ、風由に入りましたか?」


 有斎翁は、ひとつ瞬きをして陽気に笑い、こう告げる。


「ふぉっふぉっふぉ、小生ですかな? 小生はですのう、釣りをしていました」

「は?」


 声が三つ重なった。


「釣りをしていたのございます。誰もいなくなった港町の廃村の灯台の下。あれは肌寒い冬のことでございました。釣りをしていたら、一人の若者がまいりましてな? ――それがキッカケでございます」

「ええ~!?」

「もう少し詳しく教えてください有斎翁っ」

「そこで止められたら気になるじゃねぇかっ」

「ふぉっふぉっふぉ。もう少し詳しくですかな? 小生は釣りをしていたら、長に“相談役”の友人になってくれ、と言われただけですじゃ。それ以上でもそれ以下でもござらぬ」


 有無を言わせぬ、それ以上の追及を避けるような感じだった。

 果敢と三佐は肌があわ立ち、思わず武器に手をかけかける。

 三左は刀を、果敢は拳銃に。

 有斎は、相好を崩して、雰囲気を元の好々爺に戻した。


「若いモンの成長を見るのは楽しいものですのう」


 有斎はそう言って、優しい眼差しを果敢と三佐に向ける。

 二人は苦虫を噛み潰した表情で、己の武器から手を放した。

 鈴子はきょとん、と何が起こったのかわからず、視線をさまよわせる。


「ええと………風由っていうのは、結局、“長”って呼ばれる人が、孤児や仲間を集めて作った玩具会社で、いいん、ですよね? 裏は聞いちゃいけないのかな~なんて、あは、あはははは」


 三佐は長い息を吐いて、“別に構わないぜ? 俺たちも裏はよくわかってないし”と云った。


「なんだっけ、果敢姉ちゃん? 傭兵組織? 株式会社?」


「それも間違いではないけれど………妖魔退治屋、万屋、玩具会社、印刷会社、諜報組織、政治の裏側で暗躍する裏の総元締め? でも、北海道と九州に四国などは傘下においてないし、長の我がままで組織されただけの趣味の産物? ………よくわからないわ。助けて有斎翁」


「“風由”とは、風のように自由気ままに生き、長の為、仲間の為、自分のために存在する……………なんでしょうな? 組合のようなもの、でしょうか? 改めて訊かれますと断言できませぬな。それが風由らしさともいえるのでしょうが。ふぉっふぉっふぉ。今日のところは化け物退治も請け負います“諜報傭兵組織”という事にしておきましょうかのう。ふぉっふぉっふぉ」


 なんだか、すごい組織ということはわかった。

 あと、ごちゃごちゃと興味の赴くままにいろいろ手を出しているらしい。

 とりあえず、万屋? 諜報傭兵組織? そういう認識を、しておこう。


「それより果敢、三佐。仕事を抜け出してきたのでございましょう」


「早くお戻りなさい。表の仕事に穴をあけてはなりません。妖魔退治はあくまで裏の、風由の仕事なのですから、怪しまれないためにも表の業務に励みなさい」


「今日も午前中、志木兄弟の団子屋で売らなくてもいい油を売っていたという情報が小生の耳に入っておりますゆえ」


「これ以上無駄な油を売るならば、長に追加で連絡致しますが、如何か?」


 皺の入った初老の顔の上に乗る鋭く光る眼光を目にして、公務員組二人は震えあがる。


「行く。行く行く、すぐ仕事に戻るから!長に連絡するのだけは後生だからやめてくれっ。カッコわるい上にぜったい話を聞いて爆笑した後、面白がった長が後日サボりについてくるんだっ。そんで纏めて桜花のヤロウにシバかれる未来が見えるからっ」


 頭を抱えて敬礼し、慌てて有斎を止める三佐。いやに具体的な未来予想図である。


「行くわよ三佐。今日は徹夜で働くわ。あんた付き合うのよ? 拒否権はないわ。というわけで有斎翁、あたしのサボりは長に報告しないでね。報告するなら三佐だけを」

「ハァッ!? 果敢姉ェ、おれだって仕事あるんだよ! 苦手な報告書の山を片付けて、また普通に団子食いに行くんだ。果敢姉ちゃんだけ桜花に絞られろ! おれは知らねえから」

「いやよ! あのドS小僧の猫かぶりにだけは絞られたくないわ。長に失望されるよりはマシだけどアイツやること、なすこと、長の見てないところだとかなりえげつないのよ!? 知ってるでしょう!? それとあんたに拒否権はないっていったでしょ」


彼らの話を聞く限り、長という人物よりも、桜花という名前の人物の方がどうやら恐れられているらしい。


「ほら、行くわよ三佐」

「いってっ、腕引っ張るな! もげる、もげるからっ。もげるから引き摺るなーーっ!!」


 二人は足早に去って行った。


「ふぉっふぉっふぉ、今日はもう遅いですからな。部屋に案内しましょう。相談がございますならば、明日、店番の合間にでも伺えますかな?」

「お、おねがいします……」


 あたし、明治の世で、不審人物として三日間、取扱い&保護を受けることになったようです。大丈夫かな、あたし、ここで生きていけるか心配しかないわ。


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