伍.【風由】筆頭“藍紫の子”
「探したよ。やっと見つけた。よければ貴方の話を聞かせてくれないか? 現、四十九院家神戸別邸“化け物封じの武家屋敷”の管理人。傭兵諜報集団【風由の者】筆頭総大将。表裏一体の四十九院家、裏の次期当主“藍紫の子”四十九院 遊楽さん」
かつり、腐りかけた木の床をスニーカーで踏みしめて。ゆっくりと藍色がかった艶やかな黒髪の少女が振り返る。
まだ幼くはあるが将来はさぞ美しくなるだろうと思われる美少女だ。儚げな雰囲気と浮世離れした雰囲気を併せ持つ童顔の和風美人といったところか。
腰まで伸びた綺麗な長い黒髪。色白の抜けるように白い肌。優美に整った和風の顔立ち。そっと伏せられたタレ目な二つの紫水晶の如き双眼。化粧気などなくとも、うっすらと桃色に色づく桜唇。すらりとした一見華奢な肢体は実用的に鍛え上げられ、しなやかな猫を思わせる。―――胴長短足の純日本人体型である柚之木にとって悔しいことに、―――胴に対して足は長く美脚だった。服装は藍色の猫型フード付き白のパーカーに黒の短パンというラフな格好だが、よく見れば、ポケットが少し膨らんでいた。柚之木は少し警戒を強める。
妖しく目を細めて皮肉げな笑みを浮かべた少女は得体のしれない軽やかな調子で嘯く。
「おやおや、誰かと勘違いしていませんかお嬢さん。僕はそんなたいそうな人物ではありませんよ。この屋敷の庭に眠るある方の仏壇に花を手向けに来ただけの、通りすがりのちゃちで阿呆で愚かな、ただの小学六年生です。ふふふ、害も罪も“まだ”なにもない幼気な少女ですよ~」
「モノホンは自分で自分を幼気などとは言わんだろ。無邪気に笑ってきょとんとするだけだ」
どこまでも面倒くさそうに気だるくぞんざいな口調で切って捨て、柚之木は呆れたように腕を組んで少女を見やる。
「そうでしたね。もっと精進しなければ不気味がられてしまいますね」
「安心しろ。もうすでに不気味で私のなかでは危険人物であると同時に修正効かん」
真面目くさった口調で本音をいってやると遊楽は腹を抱えて噴き出した。
「あっはっはっはっはっはっはっは! なにそれ酷いな~本当に。僕の名前はユカリ。君の名前は?」
飄々(ひょうひょう)と油断なく目を光らせながら嘯いて、にまっと悪戯っぽく笑う少女。
柚之木は表情を変えず、声色のみ驚きの色をにじませて腕を組み直す。
「ほう? あくまで知らばくれるか。私は作家見習いの大学生、柚之木 真衣。貴方の話が聞きたいんだ。逃げるなよ? 四十九院 紫楽。ユカリはまた別の輪廻においての偽名だろう。輪廻転生を果たしたことはある筋からの情報で知っているんだ。サァ、私の趣味(生き甲斐)に付き合ってもらおうか。変異種の隠叉、【災厄の猫】の天津空鵺の契約者。今生名、四十九院遊楽さん」
遊楽はにんまりと、まるで悪戯好きな猫のように幼くも儚げな美貌を無邪気に歪めた。
短くてごめんなさい。
キリがいいので、区切りました。