それとなく、死ぬ
受験生舐めたらあかんぜよ。
ティムたちと私の腕をしばらく見ていると、気付く事があった。
1つ、腕の刺青の淡い光は、『破壊』の力が貯まるにつれ、強く光るようになる。
1つ、偶像からの『破壊』される力の強さによって此方に貯まる力(腕の光の強くなり方)が違う。
1つ、物が壊れる所を見るよりも、人が死に、感覚共有したときの方が、力が貯まる。
1つ、ティム達が偶像に与えた攻撃は、貯まらない。言い方を変えると、偶像による攻撃でしか、『破壊』の力は貯まらない。
こんなところだろう。
相変わらず、人が死ぬところを見ると全身に痛みが走るが、しょうがないだろう。そういう仕様だし。我慢我慢。
それだけ分かると、私は立ち上がった。両腕を透き通る空に掲げて、背中を伸ばす。割と『破壊』の力も貯まった。次は、実践訓練だな。
* * *
私はティム達の近くまで寄った。始めの頃よりも数は減っていた。既に腐臭が漂い始めている。偶像が踏んだ跡には地割れのような皹が赤き液を飲み込んでいく。
実に、血生臭い。
「…おう、ホノカか。どうだ?」
ティムが私に気付き、振り返った。どうだ、というのは不思議な力の事を言っているのだろう。
「うん。多少は分かってきた…気がする…」
私は曖昧に答えた。試してみなきゃ分からんがな。
「こっちは苦労しててな…蜥蜴型なんだが、ちょっと亜種っぽくてな…挙動がちょっと違うんだよなぁ。」
ティムは頭を掻く。
遠目に見ているときにも感じた。闘いづらそうだな、と。
「取りあえず、私も攻撃してみていいかね?」
私は視線をティムから偶像へと移す。
「おお、構わんが…撃てるのか?」
「うん。多分ね。」
1歩、偶像に近付き、小さく、小さく、息を吐く。しっかりと見据えた。
狙うは、
頭部射撃。
大きく振りかぶって、勢いよく腕を振り回した。
一瞬の光が駆け抜ける。
目は直ぐに自然の光を取り込み、世界が映し出される。
そこでは、
異質な『もの』が空を舞っていた。
四角くて、丸くて、モヤモヤで…何て言えばいいか分かんないや。
それは(明らかに落ちるだろ…って位)ゆっくりと偶像の頭をめがけて進んで行く。
偶像はその間も頭を動かすが、それにあわせて空を舞う『魔法』のようなものは追尾する。
そして、『それ』は偶像の頭にぶつかり、
爆ぜる。
装甲は吹き飛び、偶像の頭も大きく揺らぐ。その部位は、少し淡い光を発していた。
腕の光も弱まったが、まだまだ撃てそうだ。どうも、力を全消費というわけでは無いらしい。
偶像が少し体勢を崩したのをティムは見逃さず、仰け反った反動で前屈みになった頭に飛び乗る。
私の『破壊』の力のせいで装甲が剥げてしまっているので、今にも消えそうな淡い光を発する場所に、剣を突き立て、偶像に掴まる。
轟音が高らかに響き渡る。
偶像は頭を激しく振り回す。
剣は深く柄の近くまで刺さっている。
ティムは剣を引き抜き、再び力強く突き刺す。
しかし、今度は深くは刺さらず、血もほとんど出ていない。
弱点が消えた?
いや、違うかな。
ティムが突き刺したところは、私がさっき『破壊』したところだ。そして、蒼白く光っていたところだ。
もしかして…
「ティムー。」
私は全く緊張感のない声で、偶像に乗っているティムに声を掛ける。
「ん?どしたー?」
「ちょっと首本刺してもらっていいかなー。」
「構わんよー。」
何故だろう。この戦場とは思えない緩さ。
もはや日常会話の領域だな、こりゃ。
ティムは器用に偶像の上を移動し、飛び込みながら剣に全体重を掛ける。
残念ながら、剣はほとんど刺さらない。
さて、と…
「ティムー。」
「今度はなんだー。」
「死なないでねー。」
「…はい?」
ごめんね、ティム。
私は大きく腕を振る。
首本を、
『破壊』。
「ちょ、待…」
ティムは急いで剣を引っ張って…
『破壊』の力が爆ぜて、ティムが見えなくなった。
「…おーい、ティムー。生きてるー?」
「危なぁ!!」
粉々になった装甲が煙をあげている。その中からティムが顔を出した。
「一言言ってよ!!当たったらどうすんのさ!?」
「ごめんごめん。で、そこ、もう一回刺してくれない?」
「うう…(全く反省してないな…)まあ、いいけどさ…」
渋々ティムは同じところに剣を刺す。
深く刺さる。
んー…やっぱりか…
『破壊』したところは、一時的に刺さりやすくなるんだ。弱点のように。
肉質硬化ならぬ、肉質軟化ってところかな?
…あ、てことは、弱点って言うのは、肉質が柔らかくて、剣が深く刺さる所の事なのかな?それこそ、偶像の致命傷になりうるし。
かといって、使いまくるってことも出来ないだろうなぁ。貯蓄の事もあるし、何より、装甲が粉々になっちゃうから、ティムが闘いづらくなるしね。
「ふーん…」
ティムも関心したように、声を洩らしながら剣を引き抜く。
そのまま、尾を抜けるように後方へと走っていく。その際、剣を小刻みに刺している。弱点を探してるんだな。うん。
異変は、ティムが偶像の、人間で言うところの脊椎の辺まで来た所で起きた。
先程まで全身運動でティムを体から落とそうとしていた偶像は、突として抵抗を止め、地面を食べ始めたのだ。
なに、してるんだろ…?
一応、注意したほうがいいかな?
そう思った矢先…
悪寒が走った。
なにかが…
やばい。
「ティム!!避けてっ!!」
私が叫ぶのとほぼ同時に、偶像は攻撃を仕掛けてきた。
脊椎の辺りから、固められた岩の様なものを噴射した。
直ぐに分かった。
あれは、水分を限界まで抜いた土なのだと。
先に食べていた、土を噴射したのだと。
そして、あの辺りにはティムがいたはずだ。
「ティ…」
いや、人の心配などしていられる状況ではない。
噴射した岩(土だが、以後は岩と呼ぶ)は、高所で折り返し、地球に引かれるように落下してくる。
その運動エネルギーは、計り知れない。
「皆!!早く散開してっ!!」
私はただ呆然と偶像を見ている、ティムの連れていた部隊に向かって叫んだ。
各々バラバラに動き出す。
しかし、どれだけ全力で離れたとしても、偶像から見たら、ほんのちょっとの移動にしか見えないのだろう。
岩は偶像を中心に波状に広がっていく。
次々潰されていく人々。
同時に、痛みを共有する私。
一度に相当数の兵士が死に、全てを共有する。
それは、最早死んだ方が楽な様な痛み。
刺青は、信じられない程の輝きを放っている。
私を影が覆った。
岩が飛んでくる。
『破壊』するか…?
いや、駄目だ。そんなことしたら、今度は石が散弾の如く襲い掛かってくる。死に方が、ぺっちゃんこから木っ端微塵に変わるだけだ。
私は後ろへ大きく飛び退く。
しかし、岩は想像以上に大きく、岩の着弾の衝撃波で体は高く飛ばされて…
落ちる途中で意識を失った。
破壊の力
「破壊の衝動」 特殊…肉質軟化
高性能追尾弾、高威力、低速。
特殊技能
破壊力の保管
感覚共有