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壊し壊され殺り殺られ

学生、すなわちテスト。


投稿速度。


…察してください。ごめんなさい。

私はその日、そのままティムの家に泊まった。男女が同じ屋根の下で寝るのには抵抗があったが、ティムは仕事があるとかいってどこかに出掛けてしまったので、ぐっすり寝れた。環境が変わっても大丈夫な人なので。私は。




* * *




私の深い眠りを遮ったのは、小さな揺れだった。


(…地震?)


私は上半身を起こす。軽く伸びをしながら窓の外を見た。

まだ薄暗く、遠くまで見えない。灯りが殆ど付いていないため景色は皆セピア色に染まり、人も居ないので昔の写真のように、『過去の場所』といった言葉がぴったりだ。



ゴーン…



ゴーン…




遠くで鐘が鳴り響く。

と、同時に沢山の人々が家から飛び出した。皆小さなバックを持っているが…貴重品入れかな?

皆同じ方へと走っているなか、(前の世界の)一人の近所のおばさんに似ているおばさんが家の中にいる私に声を掛けてきた。


「お嬢ちゃん、早く逃げな!!」


おばさんは焦ったように言う。


「え?どうしたんですか?」


私は現状を理解できないことを手短に言葉にする。


「偶像が来とるんよ!!」


…あぁ。さっきの揺れはそれだったのか。

偶像、という言葉を聞いて、昨日の闘いを思い出す。



巨大な物質は目辺り次第に壊す、殺す、壊す。

しかし、そのたびに私は高揚する。力がみなぎる。


壊せる。


ばらばらに


砕ける。



「…ちょっと、お嬢ちゃん、大丈夫かい?」


返事をしなくなった私におばさんは心配そうに声を掛け直した。


「あ…ええ。大丈夫です。私も準備しますので、先に行ってて下さい。」


私は愛想笑いしながら、おばさんに言う。


「…そうかい?早く逃げるんだよ?」


「了解です。」


私はにっこりと笑い、家の奥へと歩いていった。

…逃げる訳には行かない。

なんとなく、分かるのだ。


私は


闘える、と。


部屋を出ると、すぐに玄関が見えた。

しかし、靴は見つからない。

…あ、そうだ。私、靴履いてなかったんだっけ。

裸足のままで外へと飛び出す。

人々は皆同じ方向へと走っていく。

私はその反対方向へと走る。

そう。


偶像に向かって。






* * *






視界に入ったのは、昨日見たばかりの『偶像』と呼ばれるもの。しかし、その姿形は違うのだ。

そこにいたのは、蜥蜴とかげのような形をしている『偶像』だ。様々な形があるらしい。

無論、その蜥蜴は固そうな装飾を身に付けている。

偶像は雄叫びを揚げながら、1歩ずつ、1歩ずつ、ゆっくりと村に近付いていた。


「え、ホノカ!?なにしてんだ!?」


声に反応して後ろを向くと、ティムが戦闘部隊らしき人達が付いてきている。

彼の表情は、怒り、ではなく驚愕、であった。


「え?何って?」


私はおどけたように言う。


「いや…てっきり避難してるもんかと…」


ティムはまた頭をく。

癖なのだろうか…?そういえば、なぎにもそんな癖あったような…


「いや。私も闘えるかなって…というか、闘い方を知りたい。」


私はティムの顔をしっかりと見据えて、そう言い放つ。


「おい、闘い方って…お前、訓練も受けてないだろ…」


ティムは呆れたように言う。


「いやね?登る方じゃなくて…ほら、あの不思議な力の方。」


「不思議な…あぁ。あの『装甲』ぶっ壊したやつか。」


なるほど。あの偶像の装飾は『装甲』って言うのか。


「あれが使いこなせるようになったら、さ。私も村の人、守れるかなって…」


「…いやいやいや。ホノカは別に命懸けて闘う必要ないよ?」


ティムは手をブンブン振りながら私に語る。


「そもそもホノカは保護するためにここに連れてきた訳だし…それに、俺達はホノカを元の世界に還すために…」


「別にいいんだ。そんなこと。」


私はティムの声を遮った。目線を落として、ティムの足下を見る。


「困っている人がいたら、助けたくなる性分ですので。」


私はにっこりと笑う。風が私の髪を、服を、空気を揺らす。


「さ。偶像、倒さなきゃ。ね。」


私はくるりと回って偶像の方を向く。


「あ、あぁ…まぁ…そうだな。」


ティムはゆっくり私の前に歩んで…

その目は…


えた獣の目で…


冷たい目線で…


偶像を貫き…




「…やるか。」


ティムはかわく唇を舌でペロリと舐めて、年相応とはとても言えない霞んだ目で偶像を見た。




* * *




「…さてと。どう攻めるか…」


ティムは偶像の全体像が見える位置まで来てから、悩み始める。


「どう、と言うと?」


私はティムの横に立って、横顔を見ながら訊ねる。


「いや、な?偶像にはいろんな形があるんだが…それぞれの形によって登り方が変わってくるんだよなぁ…」


ティムは腰に佩いたゆっくりと剣を引き抜いて、剣先を地面に向ける。


「割と蜥蜴型は登りづらくてなぁ…手間がかかるんだよ。」


ティムはそのあと、部隊に声を張り上げ、散開させた。


「まぁ、基本的には俺達が狩っちゃうから、色々試してみるといいさ。」


そう言って私に不敵な笑顔を見せて、偶像へと走っていった。


「…ま、色々やってみようかな。」


私はしっかりと偶像を見据えた。

まず、思い出す。出来るだけ、鮮明に。

そして、再現する。

刺青いれずみの入った右腕を大きく振り上げ、振り回した。


しかし、淡い光を僅かしか放っていない右手からは、何も発したりはしなかった。


「…んー。出ないかぁ…」


…あ、そうだ。そう言えば…




【貴方は『壊す』事ができる。手段はひとつではない。粉 々にする。焼き払う。腐食させる。分解する。全ては貴方次第だ。


しかし、『壊す』事は、無償ではない。代償は貴方の過去 だ。『壊す』ために、貴方は貯めなくてはいけない。見てもいい。感じてもいい。『壊す』ためには、『壊され』なければならない。


また、貴方は『共有』することが出来る。貴方は優しい。故に強く、故にもろい。『壊され』る事は、『壊れ』る事に 等しい。


そして、】




石碑に刻まれていた言葉が脳裏をよぎった。

これを解明した方が、力の使い方が分かるのだろうか…?

まぁ、特にすること、というか何していいか分からんから、色々やってみるしかないかな。



でも、まあね。『共有』、の言いたいことは分かる。昨日体験したことじゃないだろうか?

傷を負うものを見ると、私も痛む。

優しさから来る強い感受性。(いや、別に私、優しくないんだけど…)

強くあり、脆くあり。

人間が壊されれば、私の心も壊れてしまうのだ。

精神が崩壊してしまうんだ。



次。

『壊す』。これはあれかな?昨日やった、偶像の装甲が壊れたあれのことだろう。ただ、手段はひとつではない、という。だが、腐食て…想像つかんわ…



最後。

『貯める』。壊すために、壊される。…まあ、分からなくはない。つまりは、壊された力の分だけ、私も壊せるということだろう。力を跳ね返す。偶像が壊す所を見れば見るほど、私はそれに応じた力で壊すことが出来る。





あぁ。じゃあ、あれだ。今は、『破壊』の貯蓄がない、と。だから、何も出来ない。

昨日は、たくさん人が死んだ所を目撃・・したから、私には『破壊』することが出来た。『破壊』の貯蓄を使って。




つまり、私が力を発揮するためには、何かが『破壊』され、それを目視する。それが最低条件。やられたらやり返す。逆に言えば、やられるまでは、何もできない。それが私に与えられた力。



神様や。こりゃまた使いづらそうな能力を授けおって…


…いや、使いづらいかどうかは、私の想像力次第だろう。いかに応用をかせるか、それが超能力の本分だと思うし。




私は、近くの岩に腰掛けて、ティムたちの闘いを見ることにした。


今は、たくわえていればいい。

そう思った。

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