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それはあらゆるものを容赦なく潰し

サブタイトルはミスではありません。


あしからず。

「え、何?偶…え?」


私は訳が分からず、思わず聞き返す。

いや、それよりも、


「貴方、隊長なの!?」


明らかに向こうの方が年輩ねんぱいなんだが…


「ん、まあな。」


少年は頭を掻きながら立ち上がる。

少年の頭は私よりも少し高いところまで持ち上がった。意外と身長が高い。


「取りあえず、お前はここ居ろ。」


少年は私を指差しながら言う。私に言っているのだろう。つまり、ついてきたら危険だ、と伝えたいのだろう。そして、ここなら安全だと言うことなのだろう。

確かに安全に越したことはない。

うむ…


「だが断る。」


「!?」


私は真顔でそう言い返してやる。

私はこの世界の事は出来るだけ知っておきたい。例え危険をおかしても、だ。


「だから、先に行って?後ろからついてくから。」


私は先に行って、の身ぶりをしながら、少年に言う。


「いや、おい。危険だって言いたいんだよ。」


少年はいらいらしたように言う。


「いや、分かってるから。」


更に真顔で言い返す。


「…どうなっても知らんぞ…」


頭を抱えてから、少年は通路を走り出した。それに、先程の重装男がついていく。私はその重装男の背中を追った。




* * *




圧巻、の一言であった。



通路を抜けて初めて、そこが遺跡の様な所だと気付く。

しかし、それが取り巻く雰囲気と居場所は余りにも、孤立していた。

辺りには殺風景が広がっており、遠くで村らしきものが霞んで見える。草花は一本も生えていない。

そして、ここは異世界だ。と、思う。が、その遺跡は、まるでこの世界からも孤立した『異世界』の産物の様だ。


そして、その広大な荒野に『そびえ立つ』、大きな、大きな、像。

それは人のような形をしていて、全身は無機質な装飾で覆われていた。

そして、それは大きな腕を振り回し、私の目の前で一人の重装の男を吹き飛ばした。

嫌な音が聞こえてくる。

多分、あばら骨とかが、折れてしまったのだろう。


「っぁ…!!」


声にならない悲鳴で苦痛を訴える。

そして、

それは、

私にも…


「…!?…ぁあ!!」


痛む。

激しく。


私は怪我などしていない。

攻撃も受けていない。

しかし、痛いのだ。

横っ腹がずきずきと鈍痛を伝える。

左手で横っ腹を押さえ、右手で顔を隠す。

無理を言ったので、少年には悟られたくなかったからだ。

右腕を見て、違和感に気が付いた。


刺青いれずみの様な模様が光っている。


淡く、深く。


「なんだよ…プレーン型じゃねーか…苦戦する要素なんて無いだろう?」


少年は呼びにきた男に問い掛ける。


「いや、俺達、実践は初めてで…」


その返事を聞いて、軽く溜め息をつく。

呆れた、と言うような溜め息だった。

少年は、腰にいていた中振りの剣を引き抜いた。


次の攻撃が繰り出される瞬間、少年は『偶像』と呼ばれた物に駆け出した。

攻撃は、先程呼びにきた重装の男をひねり潰す。



痛い



鈍痛が再び私を襲う。今度は、全身が圧迫されるような痛みが…


「…っ!!」


声にならない叫び。

目をつむる。

汗か涙が分からないしずくが頬を流れる。


なんなんだ、一体…


もう何人なんにんが負傷したか分からない。

しかし、私の『視界内』で負傷した者だけが、私に痛みをもたらしている。

神経だけが痛みを訴える。


同じ部位が。


痛んで…


右腕の刺青は、先程よりも強い光を発していた。


淡い光ではあるが。



少年は一気に偶像の後ろに滑り込む。人で言うと、右足のけんに当たるところを掠めとるように切り裂く。偶像はまるで『生きているか』の様に、傷口から血を流した。また、痛みも感じているのか、轟音を響かせながら右足を中心にバランスを崩す。

その瞬間、少年は偶像の足の裏へ、深く剣を突き立てた。

轟音は更に大きくなる。それに合わせて、重装兵と私は耳を塞いだ。

偶像は完全に体勢を崩し、前に倒れ込む。


少年はそのまま、偶像の頭へとかけ上がる。

偶像は必死に少年を払おうとするが、少年は手慣れているかの様に華麗にかわす。

偶像が体勢を立て直して、立ち上がる頃には、少年は既に偶像の脳天につかまっていた。

両足を装飾の隙間に固定し、両手で深く、力強く突き立てた。

偶像は再び轟音を発てる。


「…ん、ここじゃねぇな。」


少年は軽く首をかしげ、足を引き抜き脳天から自然落下する。

そのまま胸の辺りに落下し、隙間に手を入れ、その隙間に剣を突き刺す。

更に轟音を発てるが、少年は再び首をかしげた。

彼は何かを探しているのだ。


「すいません。」


私は場違いなのを覚悟で、近くで槍を構えていた重装男性に声を掛けた。


「なんだ。」


「あの人は何を『探して』いるんですか?」


「何って…『弱点』だろ。」


「弱点?」


私は偶像の方をもう一度見た。

彼は反対側の胸に移動して剣を突き刺していた。


「偶像には、それぞれ何ヵ所かあるんだ。そこを突いて突いて突きまくれば、偶像を『殺せる』。」


轟音が響く。先程よりも大きく。

偶像の方を見ると、少年が突き立てた剣の傷口から、物凄い勢いで血が吹き出ていた。


「ヒット。」


少年は唇を舐め、更に突き刺す、突き刺す、突き刺す。



加えて数回刺したところで、偶像は大きな断末魔をあげ、倒れた。


少年は少しずつ、いや、通常と比べたら尋常ではない速度で風化していく偶像から飛び降り、軽く伸びをした。


「おい。」


少年は私に近付いて声を掛けた。


「怪我、ねぇか?」


「ん、大丈夫。」


私は軽くはにかみながら、少年に答える。


「ったく…無惨にやられやがって…」


少年は辺りを見渡す。

屍だけが転がっている。

立っているものは私たちしかいない。


「ん?お前、その右腕…」


淡く光る刺青の事を言っているのだろう。


「あ、これ?何だろうね。何か光りだして…」


まあ、私にも分からないのだから、答えようがない。

腕を少年に見せようとして、右腕を胸元まで挙げた瞬間、異変に気付いた。

殺された筈の偶像は、まだ風化していない右手を振り上げ、此方に降ろし始めていた。


まずい


私はとっさに少年を肘でぶっ飛ばした。右腕を大きく降って。まるで、『払う』様に。

少年は大きく吹っ飛び、攻撃の範囲外へと出た。

私は間に合わないなぁ…

死ぬのか…


そっと、


目をつむった。










数秒たったが、何も起こらない。

私はそっめ目を開けた。

瞳が捉えたのは、再びぐったりとしている偶像の右手であった。

ただし、装飾は粉々になり、露見した…人で言う皮膚は、刺青と同じ淡い光を発していた。すぐに消えてしまったが。

あいつは『死んだ』。


「え…何?何が…?」


私は訳が分からず、独り言のように呟く。

腕の淡い光は、弱まっていた。

少年は私に走りよってきた。


「おい…今、何した…?」


「え…何?分かんな…」


少年の方を振り向きながら答えようとして、思わず固まる。

少年は仮面がとれていた。さっき突き飛ばした時にとれてしまったのだろう。

そして、その顔は…





「…なぎ?」





偶像破壊弱点部位


左胸



破壊の力


「破壊の衝動」

詳細不明。



特殊技能


感覚共有




補足説明



偶像


木・石・金属などで作った像。

信仰の対象とする、神仏をかたどった像。

熱狂的な人気や崇拝の対象となるもの。

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