5
誰かに読んでほしい、と思った。
幸い俺には親友がいる。それもとてもいい親友が。
「ん……」
ちょっと恥ずかしいけども……、あいつなら俺の初めての小説だってバカにはしないだろう。そう信頼できる。
俺は、スマホからLINEを開いた。
そうして友人に報告する。
「小説書いてみた」
一分もしないうち既読がついて、返信がやってきた。
「え、ほんと?」
「おう」
「読んでみたい」
「いいよ」
と送って、俺は自分の書いた小説のリンクを貼り付けた。
それから友人は送ってくる。
「ありがとう。でもどうして書こうって思ったの?」
俺はその言葉にすこし考えた。
どうして俺は小説を書いたのだろう。
ちょっと考えてみて、それがとても単純な理由だったことにすぐ気付く。
その理由を、俺は、友人に送信した。
「楽しそうだから書いてみた」
ただそれだけの理由で、俺は小説を書こうと思ったのだ。
勉強するのが嫌だ。学校や社会の規則に縛られるのが嫌だ。だから俺は楽しさを求めた。
楽しそう――決して立派な理由ではない。だけど確かに純粋な気持ちだ。趣味ですることなんだから、立派な理由なんてべつに要らないだろう?
そのはずだ。
それに――丁度、なにかをやりたいと思っていたところだった。
退屈を打ち破るために、なにかを始めたかったのだ。
友人は送ってくる。
「そっかぁ」
友人も、そんな俺の立派ではない理由を受け容れてくれたようだった。
それから立て続けに、
「じゃあ、読んでみるね」
と送ってきた。
俺はちょっとニヤリとして、それから送る。
「おう。じゃあ俺寝るわ」
「うん。おやすみー」
「おやすみ」
そうして俺はスマホを置いた。
そのままベッドに寝転がる。
俺は思う。
――おいおい、小説を書くのってこんなに楽しかったのか!
こんなに晴れ晴れしい気分になったのは、いつ以来だろう。
体に溜まった疲労感が、今の俺には充実感に感じられた。
「……くくっ」
明日になったら、友人から感想を訊きまくってやろう。どこが面白かったかとか、どのキャラクターが好きかとか、そんなことを訊きまくってやろう。
明日が楽しみだ。
すごくワクワクしながら、俺は眠った。
この時――俺はまだ、その起こってしまう大変な事態をまったく予想できていない。
俺が『小説家になろう』に初めて投稿したあの小説が、日刊総合ランキングで一位を取ったということを知るのは、明日、学校に行ってからの話になる。
そう。
俺の戦いは、俺の知らない間に始まってしまったのだった――