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初めて書いてみた小説がランキング1位を取っていたんだが  作者: 北田啓悟
第三章 VSなろう大賞 ブレイク・ジ・エターナル
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4 ワナビの成長記録

 天宮部長と即興小説対決をした翌日、俺は正式な文芸部員として文芸部を訪れた。


「こんにちは」


「こんにちは加々崎くん。待ってたよっ」


 入室するやいなや俺に向かって遠井が小走りしてきた。足並みに合わせて金色のツインテールが横に揺らぐ。


「昨日の勝負はすごかったわねっ。あたしも加々崎くんのファンになっちゃったわ」


「なに言ってる。天宮部長に投票しただろう、あんたは」


「それは天宮部長が神だったからよ。加々崎くんも王様ぐらいの輝きはしてたわ」


「王様ねぇ……」


 世辞かどうか判断しかねる遠井との会話はさておき、部室の中を覗いてみると遠井の他には4人がすでに部室に来ていた。原稿用紙に手書きで小説を書いていたり、挿絵と思しき絵を描いていたり、文庫本を読んでいたりだ。

 内一人は、文芸部部長の天宮冬子。

 昨日と同じ一番奥の席で黙々とパソコンをタイプしている。おそらくなろう大賞用の小説でも書いているのだろう。


「俺も執筆するか。遠井、使っていいパソコンってこれか?」


「うん。このパソコンは使っていいものだよ」


 荷物を横に置いて椅子に座る。すでにパソコンは起動されていたようで、スクリーンセーバーが動いていた。

 マウスを動かして画面を切り替える。

 すると、女性の下着姿が目に飛び込んできた。


「ぬわっ!? ななな、なんじゃこりゃ!?」


 フォトビューアーが開かれていたのだ。写真に写っている女性は着替えの最中のようで、制服を脱ぎかけている場面。白い下着に、ハミ出しそうな胸とお尻がばっちり映し出されていた。


「うふふふ。加々崎くんが喜ぶと思ってセッティングしておきました」


「ア、アホか! 他にも女子がいるんだぞ!?」


「他が女子ばかりだからこそだよ。ほら、文芸部って女の子しかいないから、からかえる男子がいなくて」


「待ってくれ。お前さてはドSだな? 男子をおもちゃとして見ている悪女だな?」


「えー? そんなことないよー。ただ加々崎くんが喜ぶかなーって思って、彼女の着替え写真を盗撮してたんじゃない」


「彼女の着替え写真……? はっ! まさかこれ……」


 写真をよくみてみると、それは星海の着替え写真だった。


「お、おま……お前!? どうしてこんな写真を! というかどうして星海が俺の彼女だって……!?」


「あたしに知らないことはないんだよ、加々崎くんっ」


「あ……! まさか甘木の言っていた何でも知っている先輩って……」


「さぁ、なんのことかな」


 とぼけるようにあさっての方向を向いて口笛を吹く遠井。

 ……こいつだけは敵に回しちゃいけないなと、俺は思った。

 遠井は俺の耳元で小さく喋る。


「なろう大賞でプロデビューを果たしたら結婚するんだってねぇ。加々崎くんったらやるぅー。お相手は学校一の美少女星海さんじゃないっ」


「お、お前、このことを口外したらタダじゃおかねぇぞ……!」


「あはははっ。そんな無粋なことはしないって。あたしがこのことを話題に出したのは、加々崎くんの恋路を応援してあげたいなーって意思表示だよ」


「応援……?」


「そう。自分の学校からプロ作家が出る、しかも婚約まで……なんて、自分のことのように誇らしいことじゃない。手伝えることがあったら手伝いたいなーってさ」


「……すげぇ怪しいな。裏があるようにしか思えん」


「裏なんてないって。楽しいほうが好きなだけだから、あたしは。人の成功を喜べる人間だし」


 パチ、と遠井はウインクをしてみせる。可愛いだけじゃない、小悪魔じみた雰囲気を感じさせるウインクだった。

 信じるべきかはわからないが、まぁやりたいようにやらせるしかないか。他にどんな情報を握っているかわからんしな。


「まぁ好きにしてくれよ。俺は小説を書くからな、なろう大賞用のやつ。次の章を書くのに難航してるとこなんだ。邪魔はしないでくれよ」


「はーい」


 俺は星海の着替え写真を消して、小説家になろうのマイページを開いた。書きかけの小説ページに飛んで、執筆を開始する。

 遠井は俺から離れて、天宮部長の方へ歩いて行った。なにやら敬礼のポーズをとって話しかけている。


「天宮部長っ。加々崎も小説を執筆するようでありますっ」


「そうか。報告ご苦労だ、千夏。負けられないな」


「天宮部長が負けるはずないですよー。あたしが保証します」


「うむ。だが油断は禁物だ。わたしも賞の締切が来るまでに書いておきたいシーンがたくさんあるからな。それまでは気を引き締めていくつもりだ」


「あーん、天宮部長ったらストイックすぎです~。もっと肩の力を抜いてもいいのに~」


「わたしには大義がある。絶対に大賞を取らねばならないのだよ」


「ぶー。お堅いんですからぁ……でも、部長のそういうところ好きですっ」


 小説を執筆している天宮部長に、もたれかかって甘える遠井。

 なにイチャイチャしてんだあのふたりは。俺に見せつけているのか。ただでさえ自室以外で執筆するのに慣れていないってのに、筆が進みやしねぇ。

 ……大義ねぇ。

 天宮部長の目的は、確か、ファンタジー以外でも面白い作品があるということを証明するためだったよな。他の作者に希望を与えたいから非ファンタジーで勝利をもぎ取りたい、か。

 そんなことしなくても、小説家になろう以外でやりゃあいいと思うんだがなぁ。あるいは諦めてファンタジーを書くか。何をそんなに意地になっているのやら俺にはわからないな。

 実際昨日読んだ小説は面白いと思ったし。本人には言えないけど、なろう以外でやれば確実に人気を取れるレベルだった。

 ――あそこまで小説家になろうを嫌っているのに、それでも小説家になろうに固執してる理由っていったい何なんだろうか。

 まぁ、俺には関係のないことだけどさ。


「…………」


 小説を書く手が止まる。

 天宮部長の方を見てみると、猫のように甘えてくる遠井の頭を左手で撫でながら片手だけで執筆をしていた。

 はぁ、と俺は溜息をつく。


「ちょっとだけ……」


 俺は、天宮部長が投稿している小説を読むべく、小説家になろう内で検索をかけた。

 なろう大賞のタグがついてある小説は……あった、これだ。

 これは偵察だ。そう、偵察。ライバルの戦力をきちんと把握していればこそ自分の力も向上できるというもの。断じて好奇心に負けたわけではない。

 クリックして、小説を開く。小説の題は、『それでも僕らは諦めない』である。昨日本人が言っていたように、確かに異世界要素もチート要素もハーレム要素もない。高校生たちの群像劇のようだ。


「ふーん。けっこう人気だな」


 総合評価は15,000pt弱。感想一覧を見てみると、『すごく共感できる』とか『自分のことのよう』とか、賞賛のコメントで賑わっている。中でも『頑張ってください』といった応援のコメントが特に多く、読者もこの作品の受賞を願っているようだ。

 試しに俺も中身を拝見してみる。


「ふむ、ふむ……やっぱり巧いな……」


 商業の小説にも劣らない文章力、安定した面白さ。なろう向きではないもののやはり作品としての質はとても高いように感じられた。

 だからこそ俺はもったいなく思う。なろう以外でなら……それこそ昨日本人が言っていたように、どこかのレーベルにでも投稿すれば賞の一つや二つでも取れそうなものなのに。

 何かプライドでもあるのだろうか。あの人、相当の負けず嫌いなようだし。


「かーがーざーきーくーん」


「うおおっ!? なんだ遠井か、脅かすなよ」


「天宮部長の小説読んでるんだー。ふふふっ」


「うあっ、しま……」


「ねっ、面白い? 面白いと思う?」


「え、うーん……うーむむむ……」


 俺は腕を組んでしばし考え込んだが、しかし嘘をついても仕方がないと思い素直な感想を述べた。


「面白い……とは思ったよ」


「やっぱりー! 天宮部長ー! 『それでも僕らは諦めない』加々崎くんも面白いですってーー!!」


「おい! バカ! やめろ!」


「……そうか。ありがとう」


「ん……? え、今、ありがとうって言った? 俺に?」


「自作の読者には優しいのよ、部長。逆に敵にはすごく厳しいけれど」


「ふーん……そんなもんなのかね」


 あれだけ衝突したというのに、自作を読んでくれただけでありがとうを言えるとは。すこし意外だった。

 確かに、自分の作品を読んでもらえることはとても嬉しいものだ。俺だってその気持ちはわかる。何だかんだいっても、あの人もひとりの作者ってことか。

 なら尚のこと他の作品を貶めるような発言は慎むべきだと思うがねぇ。


「加々崎くん。天宮部長のこと、気になるんでしょ」


「あぁ? 何言ってんだ。べつに気になったわけじゃねぇよ。ただ敵戦力を偵察しようと……」


「実はそのパソコンにはね、天宮部長が昔に書いた作品がたくさんあるのよ」


「……昔に書いた?」


「ええ。高校に上がる前に書いたもの……それ以前のものもたくさん」


「…………。それは天宮部長は知っているのか?」


「いいえ? あたしが勝手に抜いたものだけど?」


「…………」


 こいつ犯罪者だ。

 このことをチクッたらさしもの天宮部長も遠井のことをしばきあげるのじゃなかろうか。

 そんなことをして遠井から逆恨みを買いたくはないので、本当にはしないけど。


「ねぇ、気にならない? 天宮部長がどんな作品を書いてきて今に至ったか」


「いい。べつに気にしてなんてない。というか俺も小説を書かないと」


「エッチな小説もあるんだけどなー」


「……………………エッチなの?」


「うん」


「天宮部長が? あの天宮部長が書いた……エッチな小説?」


「うん」


 チラと天宮部長の方を見てみた。

 相変わらず威厳のある佇まいで、黙々とひたすら小説の執筆に励んでいる。夢を追うため、目標にたどり着くために本気で努力している最中なのだ。気軽にちょっかいをかけることすら許されない厳かさを感じさせる。

 そんな天宮部長が書いた、エッチな小説とは。


「読みたい」


「え? 何? 聞こえない」


「読ませてください遠井様。件のすけべえな小説をやつがれも読んでみとうございます」


「はーい、よく言えましたー」


 ニコニコと超いい笑顔である。

 パソコンの中のファイルを探して、そうして遠井は『天宮冬子 小説』と題をつけられたフォルダを開いた。

 そこには夥しい数の小説がずらり。百個や二百個では効かない無数のテキストドキュメントが一面に広がった。


「テキストドキュメントだけで5ギガバイトもあるのよ。全角1文字で2バイトだから、合計で27億文字くらいかな?」


「にじゅ……っ!?」


「本にして2億7000万冊分くらい。天宮部長だけで図書館が開けちゃうね。まあその大半が未完成のまま終わった残骸なんだけど。無数の死闘を乗り越えて今があるというか。天宮部長もとてつもない努力を重ねてきたってことよね」


「……確かにこれはすごいな。いや、すごすぎる」


 圧倒された。圧倒されたという他ない。すごすぎて言葉が出てこない。

 フォルダ内にあるテキストドキュメントの一覧を見る。未完成のまま放置されたと思われる小説軍の名前を前に、俺は息を呑むことしかできなかった。


「いろんな小説があるのよ。天宮部長が得意としてるのは等身大の高校生を描いた青春モノ」


「ああ。なろう大賞の『それでも僕らは諦めない』も、昨日書かれた『二十センチ』も青春モノだったな」


「けれどここにあるのはそれだけじゃない。学園異能バトルだって書いてるし、旅人が主人公のミステリー、悪役が主人公のダークヒーローものだってあるわ。もちろんエッチな小説もちらほらと」


「多ジャンルだな……そりゃあこれだけ書いてりゃ、天宮部長に書けないものなんてなにひとつないだろうが」


「ううん、そんなことないのよ。天宮部長にも書けないジャンルはあるわ」


「え?」


「ファンタジーよ」


「…………ファンタジーか」


「うん。もちろん書こうと思ったことくらいはあるみたい。けれどどれもパッとしないのよね。他の作品と比べても、明らかに苦手な感じが伝わってくる」


「なるほど、な。天宮部長にも苦手なジャンルはあるのか」


「一応あるけど読んでみる?」


「ああ」


 遠井が作品を探し出し、テキストドキュメントを開く。

 何作品か手当たり次第に読ませてもらったものの、遠井の言うとおり、どれもパッとしない作品ばかりだった。なんというかツヤがない。説明するのは難しいのだが……書きたくて書いているのではなく、書きたくないのに書かされている感じがひしひしと伝わってくる文章だ。生き生きとしていない。作者が楽しいと思っていないなら、読者にも楽しさは伝わらないのだ。

 そうか。天宮部長は……そうか。

 書かないのではなく、書けないんだ。

 天宮部長ほど技術を持っている作者なら、ファンタジーを書けば一躍人気作家になれるだろうと俺は考えていた。だがそれは間違いだ。これだけの作品を書いていても、それこそ27億文字、本にして2万7000冊分もの小説を書いていたとしても、それでも苦手分野は存在し続けるものなのだ。

 人間は完璧にはなれない。だからこそ、嫉妬だ。

 自分にはどうしても書けないモノが、小説家になろうでは好評を博している。いや小説家になろうに限った話ではない。ファンタジーなんて創作の中では王道中の王道だ。その王道を行くことのできない劣等感――それが天宮部長を尖らせているのだろう。

 上手くいかないからこそ、成功してみせる。ロックンロールのようなもの。彼女のモチベーションは、純粋な反抗意志。

 ……天宮部長の根は思いのほか深いもののようだ。子供の頃から小説を書いていたというし、きっと一生、これからもずっと書き続けるんだろうな。純粋な反抗意志だけで。


「加々崎くん。どうしたの?」


「いや、なんでも。ただ不遇だなと思ってさ」


「あら? それってもしかして勝者の余裕ってやつ? 自分の作品のほうが評価が高いから天宮部長を心配してるってわけ?」


「……トゲのある言い方が気になるが、おおむねそんなところかもな」


「だったら心配は要らないわよ。天宮部長は必ず成功する人だから。あたしにはわかるもの」


 遠井は揺らぎのない目で天宮部長を見据えた。

 俺も天宮部長の方を見る。


「え、えっと……部長……添削をお願いしたいのですが……」


「君の作品は君が書け。わたしにできることは意見だけだ」


「ふわっ、ごめんなさい……。あ、じゃあその、アドバイスだけでも……」


「ふむ――冒頭が暗いな。始まりはポジティブな展開がいい。それと、このストーリーはあまり読者ウケしない。修正が必要だ。勘違いしがちだが、主人公には、苦労はさせても失敗はさせるな。苦労の末に成功させろ。詳しくはそこの本棚にある『ライトノベル超入門』の46P及び87Pを開け。付箋が貼ってある」


「あ、あ、ありがとうござい、ます……頑張ります……」


「期待しているぞ。予想できない展開作りは秀逸だった。また読ませてくれ」


「……っ! はいっ!」


 俺は溜息をついた。

 技術や実力はあるのになぁ。本当にもったいねぇよ。

 いったい遠井には何が見えているのか。俺にはわからなかった。


「で、加々崎くん」


「なんだ、遠井」


「エッチな小説」


「?」


「忘れちゃったの? 天宮部長が書いたエッチな小説よ」


「……ああ。そんなものもあったっけ」


「もうっ、興味ないの?」


「いや、なんかぶっちゃけ読むのが申し訳なくなってきたというか、気分じゃなくなってきたというか」


 今の天宮部長を見ると、昔に書いた作品を盗み見るような低俗なマネはあまりしたくないと思った。性癖が赤裸々に綴られたエッチな小説ともなると、なおさら俺自身の品位を下げてしまいそうだ。

 しかし遠井は反論をする。


「絶対面白いよ? あの天宮部長が書いたエッチな小説だよ? 真面目を気取った女子高生が、鬼畜な教師に処女を奪われて肉体関係を持つっていうオゲレツでドスケベなシナリオなのよ?」


「いや……あのな、悪いが俺も仕事が残ってるんだ。あんな話聞かされたら、俺だって天宮部長に遅れを取るわけにはいかないだろう」


「……そう。はぁ、つまんないなぁ」


 遠井は心底つまらなそうに天宮部長の方へ歩いて行った。

 ふたたび猫のように天宮部長に甘えて、寂しさを癒している様子だ。あいついったい何なんだ。文芸部員らしいこと何一つやってねぇ。

 やれやれ。なんにしても、これでようやく邪魔者がいなくなったってわけだ。これで集中できるぞ。


「…………」


 俺は後ろを確認する。誰もいない。周りを確認する。誰もいない。このモニターを見ることのできる人間は俺一人だけだ。俺がこのパソコンで何をしても、把握できる人間は誰ひとりいなくなった。

 よし。

 この状況を待っていた――俺は『天宮部長 小説』のフォルダ内の中から、急いでエロそうなタイトルのテキストドキュメント探す。

 まったく遠井も男心がわかってねぇよな。女子に見られながらエロいもの見られるかってんだよ。エロってのはな、もっと救われてなきゃいけないんだよ。飢えた心を満たすためにあるものなのさ。そのためには部外者は排除しなければならない。

 エロへの興味がなくなった? バカも休み休み言え。男子高校生から性欲を取ったら何が残るっていうんだ。

 エロいやつ……エロいやつ……エロいやつ……!


「おお……これなんか……」


 タイトル『先生やめてください』。仮タイトルっぽい適当さだが、むしろそれが天宮部長のだらしないプライベートを暗示させている。

 中身を確認。


「おお……。おお……! おおおっ!」


 すげぇ。あの天宮部長の小説から『おっぱい』とか『お尻』とか『パンティーの中に指を入れる』とか『わたしの大事なところ』とか『愛液が太ももを伝う』とか『胸が切ない』とか『絶頂の快楽に震える』とかの単語が……! こ、これは想像以上にすごいぞ……! これが天宮部長の妄想、赤裸々な性癖!

 そうかぁ……天宮部長はこういう無理やり責められる展開がお望みか……意外とM気があるのか? 根気の強さとM気は紙一重という話を聞いたことがあるが……あのお堅い天宮部長がこんな被虐的な官能小説を……!

 やべぇ、読むのがやめられない。次の展開が気になりすぎる。目が離せない。

 ああ、すげぇ……すげぇぇ……! すごすぎる……っ! ふおぉぉぉぉ……!!


「みぃぃんなぁぁーーっ! 青春してるぅぅぅぅーーーーっ!!?」


「ふきゃっ!?」


「大塚先生、こんにちは」


「こんにちはー。今日も部活動頑張りましょうね! あら、加々崎くんも来てたの!」


「あ、う、うへぇぇ! へ、へへ……ど、ども」


「よろしくね! 改めまして、今後とも青春していきましょう!」


 び、びっくりした。大塚先生か。いきなり大声を上げないでくれ、心臓が止まるかと……。

 これがホントの『先生やめてください』だ。

 俺は急いで開いていたテキストドキュメントを閉じ、『天宮部長 小説』のフォルダも閉じる。先生は生徒たちと触れ合っている。エッチな小説を読んだことにはどうやら気づいていないようだ。


「はぁ……ビビッた」


「おい加々崎。さっきから手が動いてないぞ。いつになったら小説を書くのだ」


 冷や汗を拭っていた俺に、天宮部長が喝を入れに来た。


「お前が遊んでいる間に、わたしは『それでも僕らは諦めない』の最新話を今しがた投稿したぞ」


「え、マジ……」


「本当ですか! 読みます読みます!」


「やっと来たんですね! あそこからどんな展開が……」


「フッ、冬子が一歩リードしたって感じかしら? 加々崎くん、あなたも油断していてはダメよ!」


「うぐ……」


 俺が二の足を踏んでたのは部長の小説のせいだってぇの……なんて言い訳しても、喜ばせるだけか。遊んでいたのは事実だし。


「い、今から書くんですよ」


「フン。更新を疎かにすれば読者は次第に離れて行くぞ。くれぐれもエタらないように気をつけるのだな」


「あーもー……わかりましたってば……」


 耳が痛いお言葉だ。やっぱり俺、天宮部長は苦手だな。

 けど……今日のことで天宮部長も案外人間臭い一面があるんだなと思った。積み重ねてきた努力とか、ファンタジーが苦手なこととか、性癖とか。天宮部長も苦労していることがわかった一日だった。

 ちょっとだけ好感を持ったよ。ちょっとだけな。

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