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初めて書いてみた小説がランキング1位を取っていたんだが  作者: 北田啓悟
第三章 VSなろう大賞 ブレイク・ジ・エターナル
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1 大賞への挑戦

「書かれなくなった小説ってすっげぇ寂しいよな」


 ベッドに座っている友人に俺はそういった。

 小説が一段落ついたことで気分転換にそんな話題を振ってみたのだが、憮然な表情をして友人は言う。


「アルク、まだ小説の話するの?」


「え? ダメか?」


「ぼくは友達の家に遊びに来てるんだよ。そろそろ何かして遊びたいっていうのが本音なんだけど」


「あー……すまんな放置してて」


 今の今まで小説を書いていたせいで、部屋に遊びに来た友人を一時間以上放置してしまっていた。退屈しのぎにと読んでいた漫画本も全巻読み終えたらしく、ベッドの上に平積みされている。

 友人はため息を一つついた。


「まぁいいけどね。ゲームはいつでもできるし――書かれなくなった小説ねー。えっと、なろう風に言うと『エタる』って言うんだっけ?」


「そうそう」


 そういえば昔教えたことがったな、更新が停止することを小説家になろうでは『エタる』と呼ぶことを。覚えていてくれたのか。

 俺はいう。


「ずっと読んできた小説がある日を境にピタッと更新が途絶えちまうのは、寂しいもんなんだよ。何かあったのかなとか思うしさ」


「作者的には仕方のない部分もあるのかもしれないけどね。小説を書く事だって簡単なことじゃないんでしょ? モチベーションを維持するのってたぶん大変なことなんだよ」


「そうだけどさぁ……。まぁそもそも俺が小説を書き始めたのだって、その頃読んでいた小説の更新が途絶えたからなんだよな。その小説は今も更新されてないらしいし」


「うーん。やっぱり書き続けるのって難しいことなんだ……読まれるっていうこと自体が精神的に来そうだもんね」


「そりゃそうだ。読んでもらうために書いてるんだ。苦労して書いたものを叩かれでもしたらやる気激減だっつーの。書く気なくなったっつって筆をポイしても仕方ねぇんだって」


「ふふっ。もしかしてアルクの書いた小説にもそういう感想が来てたりするの?」


「んっ……。んー、まぁ……少しだけだがな」


 忌々しそうな俺の口調でことを悟ったのだろう。そうである。小説が少しばかり有名なせいか、たまに感想欄にアンチっぽい人が来ることがある。なろう風にいえば、『毒者』だ。

 『展開がご都合主義だ』と批判されたり、『こんな恥ずかしいもの書くなんて作者の頭はどうかしている』と人格批判されたり……まぁいろいろあるが読んでいて快いものではない。

 しかもその批判に対して、ほかの人がまた誹謗中傷をしたりするからタチが悪い。そりゃあ俺だって自作を謗られるのは嫌だが……。


「つっても、そこで書くのを辞めるなんて言いたくはねぇんだけどな。そんなことしたら今まで読んでくれた人に申し訳ない」


「まあねー。作者はそこで挫けちゃいけないよね」


「ああ。罵倒や批判で書くことはやめちゃいけないと思う」


「……としたら、なんだけどさ」


「ん?」


 友人は、俺のパソコンの方を向いて言った。


「本当にエタる人っていうのは、そういう批判的な感想も貰えない人のことなんじゃないかな」


 友人のその意見には、素直に鋭いと思った。


「あぁ、そういうもんかもしれないな」


「話のタネになるより、話のタネにもならないほうが辛いと思うな。だって読んでくれる人がいないとさ、書く意味がなくなっちゃうもん。批判される方がまだマシなんだよ、きっと」


「むむ、確かに……」


 そう言われれば俺はまだ恵まれている方か。贅沢な悩みってやつなのか。

 俺はいう。


「読んでくれる人がいるだけいい、か……んんー」


「でもさ、そういう読者の少ない作者って、何をモチベーションに小説を書き続けてるんだろう? 気になるよね」


「あー。そうだなぁ。……たとえ少なくても、読んでくれる人がいるなら頑張れる! っていう感じなのかなぁ」


「なのかなぁ。でも総合評価が0の小説だってたくさんあるし、それでも書き続けてる人ってちょびちょび見るんだよね。……よく書けるなぁって、ぼくなんかはちょっと尊敬しちゃうな」


「読者が0でも書き続ける……」


 考えただけでも虚しい行為だ。話し相手がいないのに延々と意見を主張するなんてそうできることではない。

 だがその行為には、果たしてどんな意味があるのだろう? 読まれないのに書き続けて何がどうなるのか。それなら読まれる小説を書けばいいだけの話じゃないか。


「未練が、あるからなんじゃないかな」


「未練?」


 とたん友人が儚そうな表情をした。


「自分の書いた物語は面白いはずなんだっていう未練。どうしても望みが捨てきれないから……ううん、望みを信じ続けているから、証明のために書き続けるんだよ」


「…………」


 友人の意見に対して、俺は正直なところ――哀れんでしまった。いや、悲しい気持ちになってしまったというほうが正確だ。

 きっとこの感情は、俺がランキング上位に入るくらい多くの読者に読まれているから生まれているのだろう。もっと考えればちゃんとみんなに読まれるのに、どうしてそうしないのかがわからない。わからないのに意地になって書き続けるから、見ていられないようないたたまれない気持ちを抱いてしまう。

 例えば小説家になろうでは、ファンタジーが最もよく読まれているジャンルだ。というより、ファンタジー以外は読まれないといっても過言ではない。それくらいファンタジー以外のジャンルが不利な場所なのである。

 そりゃあもちろん文章の技術とかストーリーの秀逸さとか、中身が上回っている小説は数多くある。しかし読者が何をもって小説を選ぶのかといえば、パッと見の外見でしかない――毎日膨大な量の小説が投稿されているのだ。いちいち中身を確認して回るヒマなんて読者にはない。

 友人の意見を借りれば、ファンタジー以外のものを書く作者は、それでも読んでくれる人がいてくれると信じているのだろう。自分の作品は面白い、ただ見つけてもらえないだけなのだ、と。

 確かにそれはそのとおりだと思う。でもだからこそ、人気のジャンルに食いつく必要があるんじゃないのか? どうして不利だとわかっていてそれでも戦い続けるのか。書くための努力は惜しまないのに、どうして見てもらうための努力は疎かにしてしまうのか。

 技術力を持っている作者がファンタジーを書けば、きっとランキング上位にだってくい込むだろうのに、そうしないなんて本当にもったいない……俺なんかはそう思ってしまうのだ。


「ロックンロールみたいなものだよね。反抗っていうかさ。上手くいかないからこそ、成功してみせるって奮闘する感じ」


「ロックねぇ。うーん」


「まぁ最初からランキング1位だったアルクにはわからないことなんじゃない?」


「…………」


「あ、ごめん! ちょっとイヤミっぽかったかな……そんなつもりじゃなくて……」


「いや、わかってる。本当のことだしな。……そうなんだよなぁ」


 俺は腕を組んだ。

 反抗で書く、か。それで本当に人気作になるためには、いったいどれだけの実力と運を持ち合わせなければならないのだろう。


「けどさ、そんな人でもいつかは書かなくなっちゃうものなんじゃないかな。創作意欲だって、いずれ枯れるものなんだと思うよ。わかんないけど」


「……そうだよなぁ。継続させることが一番難しいことだからな」


 始まりがあれば終わりが来る。誰もが有終の美を飾れるわけじゃない。最後まで書きたかったけれど途中で力が尽きてしまうようなことは、悔しいがザラにあることだ。

 俺だって自分の書いた小説を子供のように可愛く思う意識はある。創作をしている人ならほとんどの人が自作を愛しく思うものだ。それでも育てきれない時、捨てなければならない時は存在する。

 小説の上のページ――この連載小説は未完結のまま○○以上の間、更新されていません。――そんな一文を見ると、胸が痛くなる。作者も読者も、作品も報われない悲しみの一文であり、作品への訃報だ。

 未完結。

 作品が死ぬ――それはどうしようもなく寂しい。無念のまま死んだってことなんだから。


「……俺は、自分の作品をエタらせたりしないけどな。絶対に」


「うん。頑張って」


 そういって友人はスマートホンをいじった。

 ……え? あれ? 俺けっこう固い決意を結んだのに、携帯見ちゃうんですか? うわー、これは寂しいなぁ。無念な気持ちになるなぁ。

 話題を変えるように、友人はスマートホンの画面を見せつけて俺に言った。


「そういえばアルクってさ、これに応募するの?」


「あぁ? なんのことだよ」


 ちょっと不機嫌な声で俺は返事する。

 見せつけられた画面は、何かの賞の応募ページみたいだった。


「なにって、第X回小説家になろう大賞だよ」


「小説家になろう大賞?」


 なんだそりゃ。初耳だな。

 大賞というからにはなんだかすごそうな響きがするが。


「もう、知らなくてどうするの。小説家になろうに投稿されている小説を、賞に投稿するんだよ。……賞に応募する作品が、そのままの形で読者も読めるっていうのが面白いなってぼくは思うんだよ」


「あぁ。へぇ。そうなの」


「反応薄っ! いや、あのね――大賞になったら書籍化されるんだよ。書籍化」


「書籍化……?」


「そう。本になるの。自分の書いた小説が。しかも出版社からのお墨付きでプロデビューなんだよ」


「は?」


 え。

 プロ……プロデビュー? それってつまり――


「プロになれるってこと……か?」


「だからそう言ってるじゃない! プロになれるって言ってるの!」


「――ッ!」


 ということは――

 俺は思い出す、星海との約束を。

 そうだ。俺がプロの小説家になったとき、約束したんだ。結婚する、と。

 叶う? 叶うってことなのか? もしその賞で大賞を取れば、俺は星海と結婚できる……。

 ――もっと遠くの話だと思っていたのにな。まさかこんな早くに、叶うかもしれないなんて。

 俺は武者震いした。事の重大さをようやく飲み込めた。


「プロデビュー……。高校生のままで、プロデビュー……」


 うわ、やべぇ。考えただけで高揚感が湧いてくる。

 仕事と結婚が両方とも手の届く距離にある。しかもこんな若さで……これで高揚しないわけがない。

 大賞を取ったらマジで天才作家じゃねぇか! そうなったらヤバいぞ、ヤバすぎるぞ。小説を書いてるのに他に語彙が出てこないくらいヤバいぞ!

 高校生兼プロ作家、しかも婚約者つきというフィクションの世界でもそうみない人間が誕生するぞ! 大変じゃねぇか!


「そうか……」


 念願望んでいたことがついに叶うのか。

 夢が叶えられる時の気持ちって、こんななのか。体が動き出してウズウズしてる。歩いていくより走っていきたいような、そんな逸る気持ちになってしまう。

 まだ叶うって決まったわけじゃないのにな。だからこそだろうか、胸の中で炎がたぎっちまうんだ。


「……始めるぞ」


「始める? って、何を」


「決まってる」


 有終の美というならこれ以上の展開はない。

 俺は立ち上がり、窓の外を見上げる。

 そして落ちかけていた夕日を睨んで、吠えた。


「夢を叶える決戦をだッ!!」

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