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15

 帰宅した。

 一人。

 部屋。

 夜。

 ベッドの上であぐらをかいて、腕を組みつつ思案顔。

 自分のやりたいようにする。

 考える――

 俺はなにを書きたいか。

 まず俺が当初書きたかったのは王道の異世界チーレムだ。『男子高校生が異世界に行ってみらこうなった』のタイトル通りの展開、それを俺は書きたかった。

 それは今でも書いていたいと思うもの。

 話の軸は、やはり異世界チーレム。

 では次に、取り入れた甘木の意見をどうするか。

 登場させた腹黒メガネとヤンデレをどうするか。

 正直な気持ちを答えれば、俺はこの二キャラクターを仲間から外したい。メインの男性キャラクターが多くなると、その分ハーレム要素が薄れるからだ。

 だが星海のいったように、殺して退場というのはしたくない。

 それは俺が〝書きたくない〟からだ。

 あの二キャラクターを無慈悲に殺すことはしたくない。

 なぜなら毒者といわれた人たちのことも、俺は大切にしていきたいからだ。

 俺の作品を読んでくれる人に違いないのだから――その人たちの期待を裏切りたくはない。

 悲しませたくない。

 笑顔で意見をたくさんくれた甘木を――悲しませたくない。

 それにだ。仲間が死ぬ展開は単純に後味が悪い。さらに最強といわれる主人公が、仲間の二人も守れないようではイメージ面でマイナスになる。

 どうにかして主人公の最強さに泥を塗らず、かつ納得のいく方法で腹黒メガネとヤンデレを退場させたいのだが……。

「むぅぅ」

 考える。

 頭の中でなんどもシナリオをリテイクする。

 自分の作ったキャラクターが脳内で動き出し、いくえもの平行世界を歩んでゆく――いろんな未来が脳裏に浮かび、すべての可能性を網羅していく。

 どうすれば正解だ?

 どうすれば俺は納得がいく?

 納得がいくものを、俺は書きたいのだ。

「ダメだ……、どうしても後味が悪くなる……」

 片手で頭を抱えた。

 考えても考えても、これだといえるストーリーが浮かんでこない。

 やはり惰性でもあの二キャラクターを仲間に進んでいくのが最善か?

 いやそれはごめんだ。自分のやりたいように書くと決めたのだ。

 確かにそれなら甘木は喜んでくれるだろうが……。

「甘木が喜ぶ、か」

 星海にはいわれてしまったが、俺は、できることなら毒者とよばれる人のことも大切にしていきたいと考えている。

 俺の作品を読んでくれていることには違いないのだ――ならばその期待にだって、できるだけ応えたいと思う。

 期待に応えられる作品を、俺は書きたい。

 書きたいのだ。

 俺は呟く。

「甘木の期待に応えた上であいつらを退場させれば、一番いいよな」

 そりゃあそうだ。

 それが一番スマートである。『男子高校生が異世界に行ってみたらこうなった』はハーレム路線で進めていけるし、BL好きの甘木だってちゃんと喜ばせられる。

「BL好き?」

 そういえば甘木って、BLが好きだったんだよな。星海と議論している時に、腐女子の気もあるといっていた。

 ちょっと待てよ。

 ボーイズラブ?

 BL好きが一番喜ぶ展開って、そんなの、

「男同士がくっつく展開じゃないのか?」

 そうだろ。

 主人公一行と仲間になるとかじゃなくて、単純に〝くっつく〟ことが最も求められている展開だ。

 〝くっつかせれば〟――それで甘木の期待に応えられるんじゃないか。

「…………」

 発想する。

 頭のなかでストーリーが走り出してきた。

 例えば。

 あの二人組が、お互いのことを意識していたとする。

 腹黒メガネはヤンデレのことを、ヤンデレのことは腹黒メガネのことを、互いに意識していたとする。

 この二人がくっついて、そしてそのままフェードアウトさせることができれば……。

「ハーレムを書けて、甘木を満足させられる……」

 一挙両得。

 最良の展開。

 じゃあそれを成し得るためには、どんなストーリーを描けばいい?

「主人公はいま、懸賞金をかけられた身なんだよな……」

 チート能力の使いすぎて、主人公はいま賞金首という設定である。

 やってくる人間のほとんどが賞金稼ぎである。

 二人が仲間になった理由は、主人公の強さに惚れ込んだからだったけれど――

「もしも……この理由は実は嘘で、二人も賞金稼ぎだったとしたら?」

 主人公一行を油断させるために仲間になった。そうして内部から主人公一行を殺そうとする計画だったとしたら。

 つまり腹黒メガネとヤンデレが、ほんとうは敵だとしたら。

「主人公はその二人と戦わざるを得ない。自然な形で退場させることができる」

 で、だ。

 賞金稼ぎが賞金首を殺す理由といったら、これはいうまでもなくお金のためである。

 お金が必要だから主人公を狙うのである。

「そうだなぁ……。お金を狙うっていうなら――その二人は、どうしようもないくらいの貧困で、殺しを働いてでもお金が必要な状況にいるとか」

 逆に言えば、ほんらいなら人殺しなんてしたくない人間ということ。

 根はいい人間なのに、状況が切迫しているからやむを得ず殺しを選んだ。

 そういう状況下なら――腹黒メガネとヤンデレの二人にだって言い分はある。

「二人は主人公の寝込みを襲おうとする。けど主人公は最強だから、不意打ちにだって対応する」

 主人公は最強なのだから、負けるはずがない。

 襲ってきた二人をいともたやすく倒すことができるだろう。

「でも腹黒メガネを倒そうとしたところで、ヤンデレが身を挺して腹黒メガネをかばって……」

 自己犠牲する。

 自分のことはどうなってもいい。だから腹黒メガネを許してやってくれ。

 そこまで真摯な行動をとられたら、主人公は「どうしてそうまでするのか?」と事情を聞くだろう。

 そこで二人の切迫した状況を知る。

 主人公は二人の苦労話に耳を傾け、考えた末、

「気前よく、お金を渡すと」

 そうすれば主人公と二人のあいだに戦う理由はなくなり、二人は目的を果たして主人公のもとを去ることができる。

 またその場面で――腹黒メガネが、かばってくれたヤンデレに感謝する描写を書けば……。

 腹黒メガネとヤンデレの二人を、〝くっつける〟ことまでできる。

「えっと――プロットだ。プロットにしてみて考えると……」

 プロットとは、ストーリーを書くための設計図である。簡略化したシナリオのあらすじだ。小説を書くときは、ふつうこのプロットを立ててから書くものなのだという。最初の頃はプロットを立てずに書いていたが、ネタ帳を使い出すのと同時期に、俺もプロットも立ててから書くようになった。

 俺はネタ帳を開いた。そこにボールペンで文字を書き込んでいく。

 ストーリーの骨となるプロットを組み立てていく。

「…………」

 腹黒メガネとヤンデレは、主人公の強さに惚れ込んで仲間になりたいと願った。だが実は主人公を倒そうとするスパイだった。

 二人の目的は賞金を稼ぐこと。二人は生きることもままならないほどの貧困だから、やむを得ず人殺しの道を選んだ。しかし本心では人殺しなんかしたくない。

 ある日、寝込みを襲って主人公を殺そうとする。だが主人公は最強なので、二人の不意打ちをたやすくかわす。

 そしてそのまま反撃に出る。

 二人をピンチに追い詰める。腹黒メガネから倒そうと剣を振り下ろしたその瞬間、ヤンデレが身を挺して身代わりになった。

 主人公はその行動に驚嘆する。二人のなかにある絆に心打たれて、なにか事情があるのではないかと話を聞き出す。

 二人が貧困であることがそこで明かされる。

 主人公は黙ってお金を手渡した。「仮にも俺たちは一度仲間になった仲だろ」といって、そのお金を強引に渡す。

 二人は主人公に涙して、主人公の元を去る。

 その去り際、二人は、お互いの絆を確かめ合って、ずっといっしょでいることを誓う。

「…………」

 プロットができた。

 こんなシナリオならどうだ?

 こうすれば――

 腹黒メガネのギャップ萌えなデレシーンを書ける。

 ヤンデレの愛情深さと直向きさが書ける。

 二人をくっつけさせることができる。

 そして――主人公の最強さと懐深さを書ける。さらに元のハーレム路線に戻すことができる。

「うぉぉぉぉ……っ!」

 すげぇ……、すげぇ……!

 これはぜったいに面白くなる!

 心から書きたいと思える!

 自分のやりたいようにできる!

 なんてシナリオだ。

 計算し尽くされたシナリオ。

 これなら俺の書きたいものをまた書けるし、甘木の期待だってまったく裏切らない。

 期待に応えた上で、自分のやりたいようにできる。

 大団円な展開。

 最高のストーリー。

「よし!」

 読んだ人に楽しんでもらえる小説。

 それが俺の書きたい小説。

 星海も。

 甘木も。

 言い争いになった読者を二人とも。

 俺が満足させてやる。

 俺はネタ帳を持ったまま机に向かい、パソコンを起動した。

 それじゃあ、いざ――

「小説を書こう!」

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