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 小学生のころには柔道をやっていたから、俺は、自分の力には自信を持っていた。

 当時・中学三年生のころにはもうさっぱりやっていなかったものの、それでも一般人相手になら勝てる自信ならある。

 ……もちろん一般人を相手に柔術を使うのは御法度ではあるのだが、そんな誓いがどうでもよくなるくらいにその日の俺は頭に血が上っていたのだった。

 名前も知らない〝あいつ〟をいじめていたあのDQNグループを――叩き潰したくてしょうがなかった。

「…………」

 夜。

 公園。

 あれから俺は、電話を使ってDQNグループを呼び出して、公園でケンカすることにした。

 怖くはない。

 相手は単なるDQNである。ケンカ慣れしている不良というわけではなく、ただ、口や態度が悪くて、人の迷惑になることをためらわないというだけのつまらない連中だ。

 確かに三体一ともなれば、数の暴力によってねじ伏せることも可能だろうが――

 武術の経験がある人間が相手なら、数だけで勝てるほど勝負は甘くない。

 ケンカでも武術でも、結局は腕っ節がものを言うのだから。

「来たか……」

 俺が公園の真ん中で佇んでいると、そのうちにDQNグループが現れた。

 そいつらは、

「よー!」

「おっす!」

「うーっす!」

 と、そんなふうに仲間内で挨拶を交わした後、

「え? てかあいつ誰? 名前忘れたんだけど」

「知らね。とりまやっちゃおうぜ」

「おー、やる? やっちゃう?」

 などと癇に障る口調で俺を挑発してくる。

 ニヤニヤと、まるで自分たちの負けをすこしも考慮していないかのような余裕綽々といった顔つきだ。

 だから、

「ぐほっ!」

「うぐはっ!」

「ぶぎゃぁっ!」

 そいつらは五分と経たずに俺にボコボコにされたのだった。

 気が抜けるほどそいつらは弱かった。

 そいつらは半泣きでがなり立てる。

「お前マジで調子のんなよっ! ぜったい先生に言うからな!」

「つか警察呼ぶわ! マジで……」

「ぜったい土下座させたるからな……っ!」

 などと生意気なことを言っていたので、俺はさらに容赦なくボコり、それから脅迫めいたこと(警察や先生にチクったら後でお前らの家に殴り込むとか)をいって、相手の気力を根こそぎ削ぎ落としたのだった。

 そいつらはいう。

「ごめんなさい……っ! マジで……」

「もう、もうやめて……殴らんといて……、本気で死ぬから……」

「土下座するからマジで許して……」

 俺はケンカに勝利した。

 あまりにも呆気なく、大したことのない連中だったので歯ごたえがなかったが――まあケンカの勝敗自体はさほど重要ではない。

 それよりも重要なことがある。

 俺はそいつらを問いただして、〝あいつ〟をいじめていたことを吐かせた。

 中学三年間、いじめを働いていたことを、DQNグループは認めたのだ。

 これで〝あいつ〟がいじめられていたという裏付けが取れた。

 ならば、〝あいつ〟が吐露したあの事件も真実のはずである――反抗しようとしたら、脱がされて写真を撮られたという事件。

 であれば、その写真も消させなければならない。

 俺はいう。

「おい」

「はい!?」

「携帯出せ。あいつの写真、あるんだろ? 裸のやつ」

「……な、なんで知って」

「早く出しやがれ!」

「は、はい!?」

 リーダー各のやつが携帯を取り出した。

 その携帯をポチポチとやって、大急ぎで例の写真を探す。

 俺はいう。

「その携帯に例の画像が入ってんだな?」

「は、はい……。すぐ消しますから……」

「おい待て。消す前にちょっと見せてみろ」

「……へ?」

「見せてみろって言ってんだよ。ほら、貸せ」

「え、なんで?」

「なんででもいいだろうが、あぁん?」

 ヒィ、とそいつらは戦いて、それから俺に携帯を差し出した。

 俺は、例の写真を見る。

 …………。

 …………ふむ。

 俺はいう。

「この画像、俺の携帯に送っとけ」

「え、なんで?」

「なんででもいいだろうが! あぁん!?」

「わわわわわわわかりましたっ!」

 そんなふうなやりとりをしつつも、無事に弱みの写真を消させた。

 これで〝あいつ〟の裸の写真がどこかに流出することはなくなった。

 だがこれで終わりではなく――それから俺は、DQNグループを連行して、〝あいつ〟の家へと行くことにした。

 嫌がる三人を強引に引き連れていった。

 まだこいつらには、させなければならないことが残っている。それをさせるのだ。

 夜の街を行く。

 しばらく歩いて、〝あいつ〟の家の前に着いた。

「…………」

 ここが〝あいつ〟の家なのか――今日初めて話したやつの家、しかも夜に訪れるというのにはすこしばかり緊張した。

 俺はインターホンを押す。

 家から出てきたのは、運のいいことに他の家族ではなく〝あいつ〟本人だった。

「よう」

「あれ、今日の……――え? えっ!?」

 扉を開けるなりボコボコとなった三人組に目がいったようで、〝そいつ〟は見るからに驚いていた。

 その反応に俺はなぜかちょっと笑ってしまう。

 それから俺は、引き連れてきた三人組を怒鳴りつける。

「おいお前ら!」

「はい!?」

「今までやってきたこと、あいつに詫びやがれ」

「な、なんで……」

「おら早く!」

「痛っ! ……わかった、わかりました!」

 呆然として〝そいつ〟は、DQNグループを見やる。

 DQNグループは、俺の言葉に従って、

「……いじめてごめん」

 と頭を下げて、三人共々謝罪した。

 俺はさらにいう。

「お前ら、もうこいつをいじめんじゃねぇぞ」

 DQNグループは、首をなんども縦に振ってそれを了承した。

 俺は見上げて、〝そいつ〟に言う。

「ってことだ」

「ってことだっていわれても……」

「もうこいつらはお前をいじめたりしない」

「う、うん」

「迷惑だったか?」

「そういうわけじゃなくて……」

「…………」

「…………」

 まあ。

 高校に行けばもう関係ないと思っているだろう〝そいつ〟からすれば、俺の行動はわけがわからないだろう。

 今さらDQNグループを制裁したとして、どうもこうもないと思っていることだろう。

 それでいい。

「……えっと」

「うん?」

「ありがとう、かな?」

「どういたしまして……?」

 お互いになんといっていいかわからず、そんなふうに疑問を感じながら挨拶し合った。

 ちらと見えた〝そいつ〟の顔は、苦笑していた。

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