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「おはようございますー。甘木です――えへ、来ちゃいましたぁ」
「…………」
土曜日。
正午。
休日の真昼間、暇潰しということで俺は自分の部屋でゲームをしていた。すると突然家のインターホンがなる。心当たりがなかったのでスルーしておくと、今度は五回くらい連続でインターホンがなる。なんだなんだと思って俺はゲームを中断し、新聞か宗教の勧誘かなぁと思ってドアを開けてみると、あにはからんや、そこにいたのは昨日知り合ったばかりの一年生・甘木若菜だった。
「あれ、先生。その姿なんですかぁ?」
「あぁ……。いや、パジャマ」
甘木に指摘されて、自分の服装に気がつく。今日は一度も家から出ていないので、今の今までぱじゃまんまだった。後輩の女子にこんな姿を見せるのは少々恥ずかしい。
甘木はいう。
「ほぉ。パジャマですか――ずいぶんと和風なパジャマですねぇ?」
「甚平だよ甚平。俺は寝るとき甚平を着て寝るんだ」
帯をひらひらとさせて甚平を見せびらかす。
まあ毎日これを着て寝ているるわけじゃないのだが、今日は着ていたのである。
「なるほど……! 小説家らしいですね!」
「そうかな」
べつに小説家らしいからという理由で着ているわけではないが。
俺はいう。
「そういう甘木はずいぶんお洒落じゃねぇか」
「んー? そうですかねー?」
言われて、甘木は体をひねったりしつつ服装を見せてくる。
甘木の私服。
トップスは、白いTシャツ。Tシャツの前面にはなんか外国人っぽい女性の顔と、なにかよくわからないアルファベットが散りばめられてある。
ボトムスは、硬質そうな紺色のスカート。太ももを大きく露出している、というかチア部のときの衣装くらいにミニスカだ。
それから右肩から左腰にかけて茶色のバッグをぶら下げている。バッグの肩紐が乳の谷間に挟まっていて、そのデカい乳の形が浮き彫りとなっていた。
「つぅか改めて思ったが、お前ほんとうに身長高いな」
「えー? そうですかー? ヒールが高すぎるからかも」
「ヒール?」
俺は疑問を覚える。ヒール? はて、ヒールとはなんだ。
確かプロレスの用語で悪役という意味だった気がするが……、どうしていまプロレスの用語を? 実は影でプロレスをやっていて、そのせいで身長が伸びたとか、そういう意味だろうか。
よくわからなかったが、それよりも重要なことに気づいたので、俺は問う。
「それよりも甘木。どうしてお前、俺の家に?」
たまたま通りかかったから声をかけておいたとか?
いやいや、そんな営業マンみたいなことを女子高生がするもんか。
甘木はいう。
「えっとですねぇ、実は先生の作品のお手伝いをしに来ましてー」
「作品のお手伝い?」
「はい。そうです――昨日言ったじゃないですか、いろいろ意見を聞いてくださいねって」
「ああ……。そんなこと言ってたっけ」
俺はそういった。
忘れていたというわけではないのだが、本気で言っていたとは思っていなかった。というよりも家におしかけてくる理由としてそれを持ってくるとは思わなかった。
しかし俺はいう。
「いや、それもそうなんだけど……。あれ? 俺、住所喋ってねぇよな?」
記憶が正しければ、家を教えた覚えはない。昔と違って、今の学校には住所録も存在しない。
どうやって俺の家を知ったんだ?
甘木はいう。
「ああ。それはですね、先輩に教えてもらったんですよ。チア部の先輩じゃないんですけど、チア部の先輩の友達に、趣味が人間観察という人がいまして」
「……へぇー」
「その人すごいんですよ。噂ですけど、全校生徒の弱みとか握っちゃってるらしいですし、先生が職員室でなんのコーヒーを飲んでいるかとかも筒抜けらしくて……、いやぁ、怖いですねー」
「……怖いですねー」
マジかよ。うちの学校にそんなモンスターがいたのか。知らなかった。
甘木はいう。
「では先生。お邪魔してもよろしいでしょうか?」
「え? いや……」
俺は手をかざす。
それから俺は言う。
「い、いや……。なんというか、後輩の女子を家に上げるというのは……」
「なにいってるんですかー。私がいいんですからいいんですよぉ」
「つーか家に女子を上げたことなんてねぇんだぜ? おもてなしとかもぜんぜんできないと思うから……」
「いいんですってばぁ。お気遣いなくー」
「……いいのか?」
「いいですよぉ」
むぅ。
彼女(星海)よりも先に後輩の女子を家に上げるというのは若干のためらいがあるのだが……、まぁ本人はいいといっているし、ここで追い払うほうが世間的にみて褒められない選択か。
仕方ない。
「わかったよ。じゃあちょっと準備してくるからここで待ってろ」
「はーい」
俺は一旦、家の扉を閉めた。
それから猛ダッシュで部屋に戻り、急いでスマホを手にとって、一目散にLINEを開いた。
そこで送る。
「どどどどどどどどどうしよう!? いま甘木が家に来ちゃってるんですけど、どうしたらいい!?」
十秒と経たずに既読がついた。
それから返信が来る。
「落ち着いてアルク」
「これが落ち着いてられっか! 家に女子が上がるなんて初めてのことなんだぞ! ヤッベェよ! 俺の人生史上最大のヤバさだよ!」
「確かにヤバいね(笑)」
「笑ってる場合じゃないってばさ!」
そんな具合に友人と話をして、とりあえずは落ち着きを取り戻した。




