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甘木若菜を見た正直な感想はというと、いろいろと後輩だと思えないだった。
金曜日。
朝。
部屋。
俺こと加々崎歩は、その日、いつもよりも早くに目が覚めた。
二度寝する気分でもなかったので、ベッドの横に置いていたスマホを手にし、ブックマークから『小説家になろう』のページを開く。
自分のマイページである。
マイページ。
そこは作者の他の投稿作やプロフィールなどが見られる場所だが――『小説家になろう』に登録した自分のマイページの場合、外から見るのとはすこし趣が違う場所となる。
ログイン画面としてのマイページには、小説を投稿するための機能や、投稿した小説を確認するための機能が満載なのだ。他にも書かれた感想や送信したメッセージなどを確認できる。
なろう作家になりたての俺は、未だにこの画面を見ると無性にわくわくしてしまう。
俺って作者なんだなぁ、なんて思うのだ。
ページ上部には『新規小説作成』・『執筆中小説』・『投稿済み小説』と三つのリンクがある。ここを押して、新しい小説を書いたり、執筆中の小説を加筆修正したり、投稿した小説の確認をしたりできる。
そしてそのすぐ下。
「お」
赤い文字で書かれているのは――『書かれた感想一覧が更新されました。』という通知。
なろう作家になるまでは知らなかったのだが、実をいうと、自分が書いた小説に感想がつくとマイページに自動で通知が来てくれるのだ。
おかげで、感想がきたかどうかは、マイページを見ることで一目瞭然である。
この通知を目にすると、もちろん嬉しい。
よし頑張ろうという気分になれる。
感想はいくつきても嬉しいものだからな。
「さて」
今回はどんな感想がきているのかな、と期待して、俺は『書かれた感想一覧が更新されました。』というリンクを押した。
書かれた感想一覧のページへと飛ぶ。
「おおぅ」
そこには、俺が投稿している小説・『男子高校生が異世界に行ってみたらこうなった』へ送られた感想がずらりと並んでいる。
――初めて投稿した日……、あれから一週間ちょっとが経った。初日から今日に至るまでの間で感想が来なかった日は一日たりともない。送られてきた感想の数はというと、ざっと40件以上にもなる。
40件もの――応援。
嬉しいことこの上ない。
ありがたいという言葉に尽きる。
しかし、
「ん、またこの人か」
一つ気がかりなことがあった。
感想をもらうのは基本的に嬉しいことである。「面白いです!」とか「続きが気になります!」とか「応援してます!」なんていわれれば嬉しいに決まっている。
だが当たり前といえば当たり前だが、感想をくれる人のすべてが賞賛・応援してくれるというわけでもない。
小説の粗をつつく感想・設定のミスを指摘する感想・誤字脱字を報告する感想もある。
もちろんこれらは俺の技量不足によるものなので、これらに反発的な気持ちを抱くことはない。いや正直にいえばそういう感想をみると多少テンションが下がる(自分のダメさ加減を再認識させられれば誰だってそうだろう)のだが、こういう感想があってこそ人というものは伸びると思うのだ。
俺はプロの作家になりたいからな。ダメなところはちゃんと直していかなくちゃならないのだ。
自分の欠点とは、ちゃんと向き合っていきたい。
そして感想をくれる人の内には、たまに複数回そういう指摘をしてくる人もいる。
『わか』。
たとえばこの人。
この『わか』という人は、俺の作品に、合計して4件もの感想を送っている人だ。
その内容というのが、
「……また要望かぁ」
そう、要望なのだ。
4度にわたって、『こうしてほしい』と感想で言ってきている。
「ええと? 今度は――」
今回は三つもの要望が提案された。
ドラゴンを人間化する。
主人公とヒロインとくっつかせる。
主人公とヒロンンをラブラブにさせる。
俺はその三つの要望を頭に入れる。
「わっかりましたよっと……。まっかせなさい」
そういってスマホを机に置いた。
俺は、この三つの要望に応えることと決めた。
読者からの要望にはできるだけ応えていきたい――それが俺の、なろう作家としてのスタンスである。
これは、俺が読者だったころから思っていたことなのだが――作品というものは、どれだけ読者の要望を取り入れられるかで面白さが決まるものだと思う。
〝取り入れた要望の数=面白さ〟。
なぜなら作品というものは読者にむけて作られるものである。その読者が直に『こうしてほしい』といってくれれば、その通りに作って間違いはない。確実に作品は面白くなる。
そしてその積み重ねによって、面白い作品は作られてゆくものなのだ。
ゆえに〝取り入れた要望の数=面白さ〟。
だから俺は読者の要望にはできるだけ応えていきたい。
作品を面白くするのは、作者の義務だからな。
と。
「お」
ピンポーン。
と、家のインターホンが鳴った。
俺の親友・男の娘(本人に自覚無し)の友人が迎えに来てくれたようだ。毎朝のことながらいつも来てくれてありがたい。通い妻さながらの健気さだ。
「……ん。学校行くか」
画面を消して、スマホをポケットに入れる。
それからカバンを持って、部屋を出る。
届いた感想、その要望の内容を頭の中で反芻する。
家の扉を開けて、
「おう。おはよう」
「おはよー」
俺は家を出て、友人といっしょに学校へと向かった。




