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「つ、疲れた……」
二時間後、俺はようやく小説を書き終えた。
勢いだけで書いた昨日とは違って、今回は書くのに苦労した。昨日は五話も書いたのに、たった一話で朦朧だ。
伝えたいテーマを物語に込める――それがとても難しいことなのだと知った。
他のなろう作家もこんな感じに苦労してんのかなぁ。
「よし」
最新話のアップロード、完了。
俺の仕事は終わり。あとは野となれ山となれだ。
パソコンの電源を落とす。
「はー!」
俺はベッドに勢いよく倒れた。
今までの疲れをほぐすように脱力し、それから考える。
伝えたい事。
それが伝わって、読者の価値観が変わる。
今になって思うと、それは、〝感動〟ということにほかならないんじゃないだろうか。
読者を変えるのは、読者を感動させるということ。
感動させられる作家こそ、才能のある作家。
そんなふうに俺は思う。
……昨日書き始めたひよっ子がなに語ってんだって感じだけど。
「つーか」
なんで俺の小説、ランキング一位を取ったんだろう。
星海はそれを「才能」という言葉で片付けていたけど。
才能のおかげで評価されたとすれば、面白い話を書けるかどうかはそのとき次第ということになる。
だってそうだ。
俺は『男子高校生が異世界に行ってみたらこうなった』を、面白くしようと思って書いたわけじゃない――いや本音をいえば面白くなるかもという期待はあったけども、まさかここまでとは思ってない。
才能ってのは無自覚だ。試してみないとあるかどうかはわからない。
そして才能の有無を決めるのは、本人じゃなくて観測者。
俺が天才かどうかは、読者が決めること。
つまり星海が決めること。
「…………」
要するに考えてもどうにもならないってことだ。
俺が考えられるのは、成功か失敗かではなく――その後のこと。
――結婚を前提に付き合うのか。
思えばえらいことになったもんだ。付き合えば、副業としてとはいえ小説家も志すことになる。
こんなかんたんに将来のこととか考えてもいいのだろうか。
俺も大概いい加減なやつだ。
「ねむ……」
考えなくちゃいけないことはたくさんある気がするけど、俺の体はもうおやすみモードに入ってしまった。
もうなにかを考えられる頭じゃない。
俺は仰向けになって、布団を胸にまであげた。
リモコンで電気を消す。
「おやすみなさい」
これからの明るい未来を願って、俺は就寝した。




