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少年は、満ち溢れる自信を胸に、執筆を始めた。
金こそ全て。
告白してきた少女のその価値観を――少年は、壊したかった。
少年には少年の考え方がある。
信じるものがある。
これこそがこの世で最も大事なものだ、そう言い張れるものがある。
だから少女に伝えたい。
この世にはもっと大事なことがあるのだと――
「うおおぉぉおーっ!」
少年はまだ若い。ゆえに自分の正しさを疑わない。
それは一種の全能感。
言ってしまえばこの時の少年は、独善的思考に陥っていた。
自分が信じている〝それ〟を、正しいといわない人のことなど考えていない。
絶対的に正しいと信じ込んでいる。
大人ならば、そんな少年の態度を嗜めるかも知れない。そんな押し付けがましいことはするな、と。
「ヤバい! これぜったい面白い! 傑作になるぅーッ!」
だが。
それでいいのだ。
全能感に浸ってもいい。独善的思考に陥ってもいい。
何が正しくて何が間違いかなど、所詮は時と場合でいくらでも変わってしまう。
正しさも間違いも、結局は自分が決めることでしかない。
その狭間で葛藤し、立ち止まってしまうくらいなら――自分の信念を信じて、自分の思う方向に突っ走るほうがマシなのだ。
完璧な人生観などありはしない。どんな考え方であれど、どうせ誰かからは批判される。
ならば――せめて自分の信じられるものに縋るべきだ。
自分の信じられるものを、雄弁するべきだ。
立ち止まってはいけない。そこで手を止めたら、叶うものも叶わない。
叶えるためには進むしかない。
突き進め。
己が信じる正しさを――信念として、突き進め。
臆するな。
望まれているのは、書くことだ。
後のことなど考えるな。人のことなど考えるな。大事なのは今の君だけだ。
君が書き切ることができれば、それで間違いはないのだから――




