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たとえば人の価値観を変えることができれば、それはスゴいことだと思う。
人の価値観を変える作品は〝スゴい作品〟で、それを書くことのできる作家は〝スゴい作家〟だ。
才能がある人だ。
天才だ。
とすれば、俺は、読者の価値観を変える話を書ければいいということになる。それが才能の証明になる。
この場合の読者はといえば――星海るみにほかならない。
星見の価値観。
「金こそ全て」。
それが星海の思想だった。
……俺は、金が全てではないと考えている。確かに金は大事なものに違いないが、全てというのは言いすぎだ。
金で解決できない問題なんていくらでもある。たとえば才能は金では買えない。
金が全てなんて間違っている……。
…………。
この気持ちを小説にぶつけてやればいい。
金が全てではないのだと、小説で伝えればいい。
「だから私の夢は、お金持ちのお嫁さんになること」――か。
ん?
じゃあどうして作家の嫁になるんだ。よくよく考えてみれば、医者とか弁護士とかのほうが現実的なんじゃない?
どうして作家なんだ?
?
ああ。そういえば印税生活をしたいとか言っていたな。地道にお金を貯めるより、一発デカいのを当ててもらうほうを望んでいるのだろうか。
だとしたらなおさら頑張らなくちゃいけないな。
スゴい作家にならなくちゃいけない。
……といっても副業としてだが。
俺はあくまで保育士になりたいわけで。
俺は子供たちの先生になりたいわけで。
子供の笑顔が好きで。
……ああ、そういえば今朝、友人が子供にサッカーボールを返していたよな。それで子供が笑顔になった。
あんなふうに俺もなりたい――
――!
これだ!
そうだ、これを書けばいいんだ!
金こそ全て? 違うね! この世にはもっと大事なものがある!
星海! それをお前に教えてやるぜ!
小説でな!
「うっし!」
俺は起き上がった。
方向性は決まった。
何を書いたらいいのかがわかった。
それじゃあ、いざ――
「小説を書こう!」




