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「――ってな感じで、星海から告白されたわけなんだけど」

「…………」

「あれ? もしもし?」

「……………………………………………………………………………………」

「おい、どうした。聞こえてるか?」

「あ、ごめん。ちょっと死んでた」

「大丈夫かよ?」

「大丈夫だよ……」

 あれから家に帰ってきた俺は、どうすればいいかを考えてみた後、とりあえず電話で友人に相談してみることにしたのだった。

 これまでのいきさつ――下駄箱の手紙の主が星海だった事・旧二年五組の教室に行ったら星海に告白された事・その告白を俺はオーケーした事を、あますところなく友人に話した。

 星海の前では飄々と振舞っていたものの、内心では俺もバクバクしていたからな(顔も赤くなりそうだった)。状況の整理だってうまくできていない。

 だからこうして友人に話してみて、なにか有意義な意見をもらうと思っているわけなのだが――

「おい。もしかして俺に彼女ができるのがショックなのか?」

「……当たり前じゃない」

「そか。いやー、抜け駆けしちまってわりぃなぁ」

「ずっとぼくと一緒だと思ってたのに……」

「すまんな」

 友人は思いの外ショックを受けていた。てっきり祝福してくれるものと思っていたから意外だった。やはり俺に先を越されるのは悔しいらしい。

 友人――今朝も、好きな女子がいるらしい発言をにおわせていたし……。

 俺はいう。

「いや、大丈夫だって。お前にもいつかチャンスが来るって」

「もう来ないよっ!!」

「うおぅ」

 あまりの大声に、スマホから耳を離してしまう。

 ……中途半端なフォローは気を逆撫でするだけか。そりゃそうだな。

 友人は、鼻を啜ってから言う。

「すんっ――まあ……もういいよ。うん。星海さんに告白されたんだね」

「ああ。された」

「その告白をオーケーしたんだね」

「いや、そこについてはすこし語弊がある」

「語弊?」

「ああ。正確にいうと、〝俺が星海にふさわしい男であれば〟オーケーするってところだ」

「アルクが、星海さんにふさわしいか?」

「そうだ」

 星海は俺に告白した。俺はその告白をオーケーした。だがそれは一つの条件のもとでだ。

 星海にふさわしい男であるかどうか。それが条件。

 なぜそんな条件を出したのか。それは、星海が好きになったのは〝小説の才能がある俺〟だからだ。

 印税生活を送らせてやれる俺と、星海は結婚したいのだ。

 ならば印税生活を送らせてやれない俺の場合は――俺に小説の才能がなかった場合は結婚できない。するべきではない。

 そういう条件で俺は告白に返事したのだ。

 友人はいう。

「話はわかったけどさ……、それってアルクが一方的に損してない?」

「損?」

「だってそうじゃん。星海さんが告白するのは勝手だけどさ――それでアルクが星海さん好みの男性になるって……。付き合う前から尻に敷かれてるよ、しかも自らそれを望んじゃってるよ」

「え、おかしいか?」

「おかしいよ」

「結婚を前提に付き合うってなったらこれくらいするもんだと思うんだが……」

「糞真面目だよ」

 呆れ気味の声だった。

 あれ? 恋愛って大事に扱うべき事柄じゃないのか? てきとうな感じに乳繰り合うのがふつうの恋愛なのか?

 友人はいう。

「まぁ古風だし、人によっては愛が重いとかいわれて引かれるかもしれないけど」

「うわ、マジで?」

「でもぼくは、アルクのそういうところ好きだよ」

「……おお。そっか」

 友人はそういってくれた。

 間違いではないんだな。ならよしだ。

 友人はいう。

「じゃあ逆にいえば、アルクに才能がないってわかったら、星海さんとは付き合わないんだね?」

「そーいうことになるな」

「じゃあ祈っておくよ、アルクに才能がないことを」

「おいおい。俺に彼女ができてほしくないからって、それはちょっと嫌なことだぞ」

「……嫌なことかな?」

「お前には応援されてたいな」

「…………」

 なぜか重い間。

 後、

「うん。わかった。ぼく、アルクの恋路を応援することにするよ」

 と、機械的な喋り方というか、強がりだとわかる声で返事してきた。

 ……ちょっと言いすぎたかな。そりゃそうか。友達に彼女ができるかもしれないってだけでもキツいのに、その上応援してくれというのは――酷い話だったか。

 でも今さら「やっぱり応援してくれなくてもいいよ」なんていえねーし。

 …………。

 まぁいいか。

 友人は強いやつだ。自分で立ち直れるだろう。

 変な同情はしたくない。

 友人はいう。

「でもさ、意外だよね」

「あん? なにが?」

「星海さん。好きなものがお金だっていうのは意外だなーって」

「ああ。そうだな。あいつ、なにが好きかとかぜんぜんわからなかったんだけど……まさかお金とはな」

「それで玉の輿かー」

「玉の輿だなー」

 俺はスマホを反対側の耳にやった。

 友人はいう。

「実際どうなの? 玉の輿される側の気分って」

「ん。そんな悪いもんじゃないぞ。嫁が俺を支えてくれるのなら、バリバリ頑張ろうってなる」

「嫁って……。まだ付き合うかどうかも不定なんでしょ」

「あ、そっか」

「けど悪いもんじゃないんだね。なんていうか、お金目当てで結婚を迫られるのってもっと嫌なものかと思ってた」

「まぁそれは、女でいえば、体目当てに結婚を迫られるのと同じようなもんじゃねーの?」

「体目当て……。そういうのを嫌う女の人って多そうだけど」

「自分の体に自信があるやつは構わないんじゃねーの?」

「ふぅん。ってことはアルク、お金を稼げるって自信があるんだ?」

「いや、それはわからん――だからこそ俺は、自分に才能があるかどうかを試したくなったんだ」

「なるほどねー」

 才能があると思えれば、胸を張って付き合える。

 才能がないとわかったら、期待に応えられないので付き合えない。

「つまりアルクは、星海さんと付き合って〝後ろめたさ〟を感じるかどうかをはっきりさせたいんだね」

「そういうこと」

「いざ付き合って鳴かず飛ばずじゃ申し訳ないもんね」

「おう。出来る俺でありたいと思う」

「見栄だねー」

「見栄か?」

「ま、星海さんはその見栄を好きになっちゃったわけだから、ここは見栄を張らないといけないのかもね」

「かな」

「だよ」

 友人は笑った。

 それから温かい声で友人はいう。

「じゃあさ、ぼく、相談役になってあげるよ」

「相談役?」

「恋の相談役」

「お、ほんと?」

「うん」

「なんか、わるいな」

「いいんだよ。応援するっていったでしょ?」

「そうだった。いや、ほんといいやつだなお前」

「いいのいいの。辛くなったときなんかはいつでも話してきてね――星海さんの前ではいえない弱音とか愚痴とかでも、ぼくはちゃんと聞いてあげるから」

「おお! 頼もしいな!」

「ふふっ――ぼくがアルクの〝支え〟になってあげるよ。それじゃ、ばいばい」

「おう、またな」

 と、そういって俺は友人との電話を切った。

 支えになってあげる、か。

 ほんとうにいい友人に恵まれたものだ。あいつにはいろいろ話してもいいな。どうすればいいかわからなくなったら全部あいつに相談しよう。

 俺はスマホをそこら辺に置いて、ベッドに仰向けになった。

 ともあれ友人と話したことで頭の中もだいぶん整理できた。

 目的。

 今夜、俺は『男子高校生が異世界に行ってみたらこうなった』の最新話を書く。その話で星海に才能を感じさせれば、無事に付き合えるわけだが……。

 さて、どんな話を書くべきか。

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