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#001

SFはSFでも、サイエンス・フィクション(Science Fiction)、サイエンス・ファンタジー(Science Fantasy)ではありません。スペース・ファンタジー(Space Fantasy)、もしくは宇宙の愚者(Space Fool)、空翔ける変態と称されるべき「S・F」です。

 推進動力を切って、その場にただ漂う。コックピット内に映し出される、上も下もない無限に広がる闇と瞬く星明り。人間という存在がこの宇宙空間の中では如何に卑小で取るに足らない存在なのかを、思い知らさせてくれる。

 コレが見たいがばかりに、体の大半が機械となっても未だに戦闘機に乗っているのだと――ジィオは思っていた。


 届くはずがないとわかっていても、瞬く星のひとつについ手を伸ばす。

 はるか昔、人類がまだ一個の惑星の中に留まっていた頃、夜の空には旅人を導く星があったという。惑星の回転軸の延長線上に存在したその星は、常に同じ場所に留まりつづけ道しるべとなったという。

 上も下もない宇宙空間にはそんなものは存在しない。それでも、頭上に浮かぶより明るい星を見るとその話を思い出し――つい、手が伸びてしまう。この宇宙のどこかに、自分のためのしるべとなる何かがあるのではないかと。


「ジィオ、テオドルから入電です。おつなぎしますか」


 そこに控え目に電子音声が通信が入っていることを告げ、ジィオを現実に連れ戻す。


「ああ、つないでくれ」


 かぶりを振り妄執に似た思いを振り払うと、タイミングを見計らったようにウィンドウが表示され、見慣れた男の顔が表示される。

 獅子の鬣のような赤い髪をした、左目を潰す程の大きな傷があるにも関わらずどこか色気の漂う四十路の男。ジィオにとっては見慣れた顔で今更感嘆など出ないが、今回の雇い主のテオドルだ。


『おかげで無事に危険宙域を抜けた。毎度のことながら、惚れ惚れする腕だな。ジィオ』

「褒めても値引きはしないぞ?」

『そんなケチくせぇ事しねぇよ。

 俺はお前さんの腕に見合っただけの金を提示してんだ、ケツの青いガキがミスしたんならともかく、確実に仕事をこなすプロに支払を渋らねぇよ』


 そりゃどうも。

 笑みを浮かべて言ったテオドルに対し、ジィオは軽い調子でそう返した。

 古馴染みでもあるこの男の信条はジィオもよく知っていたし、数えるのも面倒なくらい仕事を引き受けてきたが一度として金払いが悪かったことはなかった。ジィオにとってテオドルはいい雇い主であったし、テオドルにとってもジィオは信用のおける雇われ護衛だといえるだろう。


 いつの時代であっても、他人のものを力尽くで奪い取ろうとする輩がいなくなることはなく、ジィオはそんな輩から宇宙船を守ることを生業なりわいとしていた。

 航路と定められた宙域を飛ぶのであれば、それほど危険があるわけではない。各惑星で組織する軍が航路の安全を確保しているためだ。しかし航路から逸れてしまえば、そこは守るものの存在しない宙域となる。

 テオドルのような迅速を売りとする行商人は、軍の守る安全な航路を行くのではなく独自の航路を行く。それは肉食獣の群れの中に草食獣が飛び込むにも等しく、その〝速度あし〟だけでは逃げ切れないことも少なくない。

 そこでジィオのような護衛を雇うのだ。

 多くの場合は目的地の近い幾つかの船で集まり、纏まって護衛船を雇う。その能力を発揮するには船団で雇う必要があり、どうしても費用が高額になってしまうためである。

 しかしながら何事にも例外は存在し、ジィオのような戦闘機乗りを個別で雇ったり一〇万トン級の戦闘に特化した船を雇ったりとする。テオドルは通常は自身が所有する護衛艦でやり過ごすのだが、今回のように自前の護衛艦だけでは不安を覚える場合にフリーの戦闘機乗りを――多くの場合がジィオであるのだが――雇うのだ。


『ここからは仕事の話というより俺の頼みになるんだが、話だけでも聞いちゃもらえないか?』

「引き受けると保証はできないぞ?」

『別に厄介事を頼もうってんじゃないんだ、そう構えなさんな。

 お前さんが賊共を仕留めた時分だったか、アンナマリアから通信をもらってな。リフェドカ宙域にいると言ったら、都合がつくなら惑星スピカでオリエンタル造船の新造艦の進行具合を確認して欲しいって頼まれてよ。

 普段ならふたつ返事で了承するところなんだが、今回ばかりはお前さんも知っての通り時間がない。そこでだ、お前さんにスピカに降りて確認してきてもらえたらと思ってな』


 確かに、仕事の話というよりも使いを頼まれた程度の事でしかない。

 テオドルが愛娘のアンナマリアに甘いのは彼を知る者なら知っている話で、彼が行商の仕事を始めたのはその愛娘に最高の品をプレゼントするためだと実しやかに噂されるほどだ。

 しかし愛娘の〝ささやかなお願い〟を叶えるために護衛を減らすというのは、テオドルらしくない。


「この先は比較的安全な宙域が続いているとはいえ、俺は一応仕事の最中なんだが」

『あー、実はだ、少し行った宙域で連合軍の連中が大規模な狩りを実行するらしいんだよ』

「連合軍が?」


 連合軍という単語に、ジィオは思わず眉間に皺を寄せていた。脛に傷のある身ではないが、ジィオは少なくとも後数年は連合軍と接触するのは避けたかった。

 宇宙船乗りの会話では、ただ「軍」といえばその宙域の惑星が保有する軍をさす。しかし何千何万という惑星の協議会組織――惑星連合が保有する軍はその名を冠して呼ばれ、惑星間のもめごとの調停や惑星軍では手に負えない事態の収拾が役目となる。

 辺境ともいえるこの宙域に連合軍が必要となる事例があるとは思えなかったが、テオドルが得た情報であるなら信用に足る情報と言えた。


「……助かる、恩にきる」

『なぁに、俺はアンナマリアのお願いを叶えてやれる、お前さんは連合軍に顔を合わせないで済む。持ちつ持たれつってやつだ。

 でだ、さすがに戦闘機単身じゃ惑星に降りる訳にはいかねぇ。だから知り合いにお前さんを拾いに来てくれるように頼んでおいた。座標は送っといたから、よろしく頼むな』


 テオドルの言葉を受け、座標が届いているか確認するために補助システムであるAIに指示を出すと、テオドルとの通信とは別の画面がすぐさま表示される。

 その座標を確認した際、視界に入った時刻に思わず目を張った時には――テオドルとの通信は途絶えていた。だけにとどまらず、旗艦である輸送船と所有の護衛艦は逃げるように発進している。


「やられた……」


 アンナマリアのお願いがあったのは事実だろうが、テオドルは何かしらの都合をつけてジィオを惑星スピカに使いにやる気でいたらしかった。

 連合軍と顔を合わせたくないジィオを思いやってのことだろう。追いつけない程ではないがそれでもかなり遠くなったテオドルの乗る船の姿に、深いため息を漏らすのだった。




     ☆彡




 指定された座標にジィオがたどり着くと、そこでは既に船が待機していた。

 ひと昔前に大量生産された個人向けの大型外洋船で、メンテナンスはされているのだろうが、廃船になっていないのが不思議な位年季の入り過ぎた旧式船。しかしその所有者が誰であるのか知らしめるように、闇色の旗が――ブラック・ジャックが取り付けられている。


「レディ・ブラックジャック」


 思わず漏れたつぶやきは、聞くものがいたならどうしてそんなに忌々しげに言うのかと問いが返ってくるようなそれだった。

 誰が呼び始めたのかは定かではないが、金さえ積めば極悪人だろうが治療すると言われる「レディ・ブラックジャック」と呼ばれる女医師がいる。その腕は確かであり、不可能とされた患者を幾人も救ったとされる。そのために唯一の救いを求め彼女と接触しようとする人は少なくないが、仮に接触できたところで治療をしてもらえるとは限らない。

 接触を更に難しくしている理由のひとつに居住地は愚か、船の形式すら不明瞭だということもある。彼女の船と判断するには、その呼び名がつくに至った理由のひとつでもある、取り付けられた旗を見るしかない。

 そんな人物に使い走りの真似をさせるテオドルの豪胆さに言葉がないが、今回の件には彼女も一枚かんでいたのだと納得する。


 ジィオの左手、両足、右目は機械式である。

 二年ほど前になるが、ジィオは死にかけたことがあった。その時はフリーの戦闘機乗りではなかったがやはり戦闘機に乗っていて、あの日ジィオは、同僚が体調を崩し急遽代理で新人のおもりを引き受けることになったのである。

 演習の最中、敵襲を受けた。どれほど訓練を受けていようが、心構えが出来たつもりでいようが、突然の実戦と死との直面は新人をパニックに追いやるに十分だった。その新人を身を挺して庇ったジィオは、乗りなれた愛機でなかったことが災いして、鉄の塊となった戦闘機と共に宇宙を漂流することとなったのだ。

 かろうじて保った意識で死を覚悟したジィオを拾ったのが、彼女――レディ・ブラックジャックだった。


『よお、調子はどうだい? クソガキ』


 ジィオの許可を待つこともなく、学習機能のあるAIは彼女からの通信を開いた。

 通信画面が浮かび上がり表示されたのは、白いものの混じった黒髪を無造作に束ねた、どこか疲れた様子の女性。目の下の隈や人を馬鹿にしたような笑みも、彼女の特徴でもある。


「ご無沙汰してます、レディ」

『まったくだね、アタシは言ったはずだよ。定期的にメンテナンスが必要だから顔を出すようにとね。

 アンタが顔を見せにこないから、テオ坊に頼むことになっちまったじゃないか』


 アタシがテオ坊に頼みごとなんて世も末だよ。

 悪態をつき、頭をかき回す。なんてことのない仕草だが、彼女が頭をかき回すその仕草をするときは、かなり苛ついている時だとジィオは知っていた。

 通信の最初から気を正していたが、自然と背筋が伸びた。


『まあ、いいか。その分、アンタに体で払ってもらえばいいしね。

 覚悟しておき。隅から隅まで、みっちり調整してやるよ』


 思わず出かけた拒絶の声をなんとか飲み込み、ジィオはなんとか笑顔を作り頭を下げたのだった。




『アンタで遊ぶのはこのくらいにして、格納庫を開けるからさっさと入っておいで。

 旦那がアンタの手足をいじりたくてそわそわしてるよ』


 レディ・ブラックジャックの名前ばかりが独り歩きするためにあまり知られてはいないことだが、彼女には夫がいて、その人は優秀な機械工である。彼女の天才的な腕を支えるのは夫のヒューイが作る唯一無二の道具であり、ジィオの欠けた手足を作ったのもその夫。

 ジィオがこうして戦闘機に乗っていられるのは、この夫婦のおかげだった。

 元より苦手としているタイプの女性だったが、恩人であるがために断ることも出来ず、可能な限り接触を避けてきたことが裏目に出たようだった。

 嬉々と待っているだろう彼女を想像し、ジィオは回れ右して逃げ出したいのを――根性で堪えた。テオドルまで巻き込んでいるとなれば、逃げた場合、後が恐ろしい。


「はい、これから進入し――」


 意を決し滞宙するために停止させていた推進機関を稼働させようとしたそこにAIが接近するものがあることを告げ、ジィオは進入するために〈レディ・ブラックジャック〉へと向けていた船首をそちらへと向ける。

 仕事柄もあって、ジィオは宇宙にいる時はたとえそこが安全な宙域だとしてもレーダーを無効にしたことはない。軍備用の性能に勝るとも劣らないレーダーは、近づく存在を捕捉した。


『おやまあ、最近の若いもんは物騒だねぇ』


 近づいてくるそれにとうに気づいていただろうにようやく反応を示した画面向こうの様子に、それがすぐさま攻撃をしかけてくるようなものではないと悟る。

 しかしそれが安全なもだとは断言できない。


「レディ、そちらに通信は?」


 彼女の船の索敵と通信機能は、その大きさには不釣り合いな程強化されている。軍の旗艦船もかくやという程だ。

 それを知っていたから、ジィオは自身でレーダーを確認しつつも尋ねたのだ。


『あー、一方的な通信が入ってるんだけどねぇ、それがまた物騒なんだよ。

 さっさと救助しろと。救助しないようなら船を乗っ取ってやるぞってね』

「それは……」


 確かに物騒極まりないその言葉に、荒事に慣れているはずのジィオも思わず言葉を失った。それはレディ・ブラックジャックも同様なのだろう。

 黙視出来るまでに近づいたそれは金属の塊が漂っていると表現するに足りるもので、とてもじゃないが乗っ取れるだけの武力があるとは思えない。


「で、どうしますか?」


 救助することになるのはジィオではなく彼女だ。

 宇宙を航海する際の常識として、救助を求められたなら助けない訳にはいかない。それが乗っ取りを企む悪人であればまた別なのだが、それを許すような人物でもない。


『アンタを入れようと思っていた格納庫に収納してやることにするよ。

 推進機能がいかれてる……というよりまともな部分の方が少なそうだけどね、そんな船じゃ自動誘導も効くまい。だからアンタが牽引けんいんしておやり』


 ジィオの返事も待たずに通信は切れ、それを受け暗転した画面はすぐさま小さくなり消える。

 レディ・ブラックジャックの性格からして、素直に助ける気でいるはずがないとジィオは確信していた。自分が助けられた時もそうだった。今頃、いかに吹っかけるかを、悪人の様な笑みを浮かべて考えていることだろう。


「……ま、俺には関係のないことか」


 どの様な理由があるにしろ、レディ・ブラックジャックに吐いた暴言が消えてなくなる訳ではなく、助ける手立てを持たないジィオには打てる手などないのだ。




 元は大人数用避難ポッドだったのだろう鉄塊に、アンカーを巻いて牽引するから大人しくしているようにと一方的に通信を入れ、ジィオはすぐさま作業に取り掛かる。電磁アンカーで鉄塊を捉え、格納庫へと緩やかに移動を開始する。


 それにしても、と、画面端に移る鉄塊に考えても意味のないこととわかっていてもポッドがこうなるに至った経緯を想像してしまう。

 避難ポッドはその性質上とても頑丈に作られている。ミサイルやレーザーの直撃ともなればさすがに無事とは言えないが、それでも一般的な個人所有の船の爆発程度になら耐えられる作りになっているはずだ。それがここまでぼろぼろになる理由。考えるまでもなく、厄介事でしかないだろう。


「だから会いたくなかったんだよ」


 ジィオがレディ・ブラックジャックに会いに来ると、毎度の様に厄介事に巻き込まれる。それも一筋縄ではいかないようなそれに。性格的に苦手としているのもあるが、それ以上に巻き込まれるそれに辟易へきえきしているのだった。




 格納庫の入口で電磁アンカーを解きゆっくりとそれを進入させる。中では作業ロボットがそれを受け止め、鉄索で固定する作業へと移る。危なげないその様子に、さすがだと感嘆のため息が漏れる。

 誘導装置が効くはずもないし、あれだけ状態が酷ければ機械任せということも無理だろう。それらから、ジィオはあの作業ロボットは手動だろうとあたりを付けていた。

 レディ・ブラックジャックが一流の医者なら、その夫のヒューイはは一流の機械工で一流の作業士。正確には、作業士で機械工というべきだろうか。ヒューイは、一流の作業士として既存の機械では満足することが出来ず、己で満足の行く機械を作ることを始めたのだ。とにもかくにも、自身の動かす機械をメンテナンスするために得た技術と知識は、作るために使われた。

 それを、ジィオは聞かされて知っていた。だからの推測だった。


『ジィオ、側面進入口のロックを外した。そっちから中に入ってくれ』


 それが当たっていたとばかりに男の声での連絡が入る。

 短く了承を告げると、位置を知らせるために点灯された指示灯の近くに機を寄せる。電磁アンカーで固定するとAIに後を任せ、運転席からハッチを開け外に出る。

 危なげなく無重力の空間を泳ぐ様に移動して進入口脇の取っ手に捕まり、開閉ボタンを押す。そして開いた隙間に体を滑り込ませ、再びボタンを押す。空気の抜ける音と共に重力が生まれ、次いで中に通じるドアが開く。


『ジィオ、さっさと格納庫来な』


 例によって人の悪い笑みを浮かべているのが容易に想像つく声が聞こえ、だからと言って今更逃げるわけにもいかず、ジィオはため息をついて床を蹴る。低重力に設定されているために、その動きはとても軽い。

 船内図は知らなくても、大まかな構造は想像がつく。それに外から格納庫の位置を確認している。

 ジィオは迷うことなく、当りを付けた方向へと歩みを進めた。




「だから、時間がないのっ!」


 ジィオが格納庫の手前まで来ると、ドアの向こうから幼い少女の怒声が響いた。


「アンタが何を急いでんのかはわからんが、その傷を手当てするのが先だと思うんだがねぇ」

「あたしはいいから。

 急いで姉様たちを助けないと、時間がないんだってばっ」

「手当てしながらでも話は聞けるさ。

 いっ時の間ももったいないと思うのなら、疾くと話すために手当てされる方が得策だと思うがねぇ」


 一緒に聞こえたのは明らかに反応を楽しんでいるだろう、質の悪い声。

 なんだかんだ言いつつも手当てはしているだろう。彼女はそういう人だ。


「入らないのか、ジィオ」


 中に入る決心がつかず外で様子を窺っていたそこに、大きな工具箱を抱えたヒューイが声をかけた。


「あー、なんつうか、入りにくい雰囲気で」


 道すがら宇宙服の頭部を外していたジィオは、口ごもりながら言って頭を掻いた。ジィオの気持ちが理解出来たのか、ヒューイは苦笑を浮かべて肩を竦めた。


「気はわからんでもないがな。ここでこうしていてもどうにもならんぞ。

 諦めて中にはいるといい」

「……はい」


 中へと入ったヒューイに続いて中に入ると、そこにはやはり、暴れる少女を言いくるめいなしながらも手当てをするレディ・ブラックジャックの姿があった。

 レディ・ブラックジャックはこちらに気付くと、にやりと人の悪い笑みを深める少女をジィオにと押しやった。たたらを踏んでまろびそうになった少女を抱き留め、その原因となった人物を見つめる。


「何を?」

「ん、ああ。

 アンタが欲しいと言っていた戦闘機の持ち主はソイツだ。交渉するならアタシじゃなくそこの阿呆と交渉しな」

「……は?」


 話がさっぱり理解出来ず問い返すと、少女はジィオの腕の中で向きを変え顔を見上げた。


「お願い、姉様たちを助けたいの。

 だから貴方の船を頂戴!」


 少女から理解出来る話が聞けるかと思えばそうでもなく、けれども少女が姉様を助けたいと必至だということはしっかりと伝わった。


「姉様とやらを助けに行きたいというなら、代わりに助けに行ってもいい。

 だが、あの戦闘機が欲しいという願いだけは聞き届けられない。あれは宇宙で俺の手足となる唯一無二の機体だ」


 これだけは譲れないとばかりにジィオが強い調子で断ると、少女は目に見えて気落ちした様子でうつむいた。


「モニターで見たから、貴方の戦闘機が特別なものだってわかってたんです。

 でも、姉様たちを助けるには……なんでもいいから、機体がいるんです。機体が」

「おや、戦闘機戦闘機言うから、てっきりドンパチ出来る機体が欲しいと思ってたら違うのかい。

 ――アンタ」


 レディ・ブラックジャックはジィオから少女をひっぺ剥がすと、その身を今度はヒューイにと押した。

 ジィオよりもがたいの良いヒューイはその小さな少女を軽々と受け止め、大きな工具箱を持ったまま少女を抱き上げた。


「この船で良ければ君にあげよう。

 どうすればいい?」

「船を、この船を頂けるのですか」

「ん、ああ。とはいっても偽装部分だけだけどな。船の機能は一般航行には問題ない程度だが、一応残ってる。

 これで用は足るかい?」


 レディ・ブラックジャックの船の形式が判別していない理由は、知ってしまえば単純。外装をその都度変えているだけだ。その偽装も徹底していて、外装としている船の機能を維持したままという、荒業をやってのけている。


「私の乗ってきた避難ポッドを、この船に接続してください。

 後は、姉様たちが自分で……」


 ほっとしたのか、ヒューイの首に抱き付いて涙を流しながら、なんとか言葉を吐き出した。

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