終章 白羽使いのミリアーノ【3】
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焦ったリズが召喚神具に命じる。
「お、お願い、消えて……消えろ!」
「無駄だ!」
特別席からファルコム皇帝が高笑いしながらそう叫んだ。その手にはリズの持つ剣と瓜二つの姿形をした陣を刻んだ剣。
「その魔物はな、我の命令しか聞かぬようになっておるのだ。なにせ我も使い手。本物の召喚神具は我が手元にある。
リズよ。なかなかの道化役であったぞ。お前のお陰で白羽神具がどれほど役立たずかがわかったのだからな。もう頼むことは何も無い。お前はここで用済みだ」
「なっ──!」
突然の皇帝の裏切りにリズが愕然とする。
皇帝は召喚神具を空へ向けて掲げると、意気揚々と叫んだ。
「さぁ、世界征服を始めようぞ!」
その言葉を合図に、物陰から道具屋のトカゲ男が姿を現す。そしてすぐ傍に座っていた白い聖衣をまとった老人──教皇の背後から忍び寄って羽交い絞めにし、喉元に短剣を突きつけた。
「貴様ッ!」
それに気付いた赤い聖衣をまとった枢機卿たちが拳を握って立ち上がる。
裏方に待機していた神殿兵が駆けつけ、辺りは騒然となった。
ファルコム皇帝の兵士たちが一斉に隠し持っていた武器を構える。
神殿側に生じる焦り。
手持ちの武器もなく、ましてや取り押さえる行為もできない。
この島で争い事をすれば石になる。それが彼ら神殿側の、唯一の頼りだった。
しかし、いくら待てどもファルコム皇帝達が石化することはない。
訪れぬ制裁に神殿側の不安は増していった。
おろおろとする神殿側の対応に、ファルコム皇帝は高揚して笑う。
「ふははは! 愉快だ、愉快すぎる! 期待したのか? この島の制裁を。おかしいよな? 確かにおかしいよな? こんな状況になっても誰も石にならないのだからな。
不思議だよな? さぞかし不思議であろう。その理由を教えてやろうか?
それは精霊の最高峰──海馬がいるからだ。あのペガサスの姿はカモフラージュ。今までそれに気付かなかったお前等は無能の馬鹿どもだ。
この島の精霊など恐るるに足りん! 時は満ちた! さぁ世界よ、精霊どもよ! 我の前に跪くのだ!」
皇帝が空を仰ぐ。上空に浮かぶ海馬に向けて、
「我が意に応えよ、海馬! 我に逆らう全てのモノを徹底的に破壊しろ!」
海馬は皇帝の意に従うように、両刃の翼をさらに大きく広げる。
悲鳴を上げる観客席。会場は大混乱に陥り、出入り口は逃げ惑う人の波でごった返した。
観客の悲鳴や子供の泣き叫ぶ声が響く中、その闘技場の中心である舞台の上で。
リズがミリアーノに駆け寄り、助けを求めるようにすがって懇願する。
「あんた、母親から聞いていないのかい? もうあれを止められるのはあんたしかいないんだよ!」
肩を掴まれ激しく揺すられるも、ミリアーノはただ無言で首を横に振るしかなかった。
手持ちの白羽神具の反応は変わらず淡く光放っているだけ。
(どうして? 何が足りないの?)
どうすれば魔物を封印できるのか。そもそも本当に、白羽神具にそんな力が備わっているのか。
不安だけがミリアーノの心を急かす。
見上げた空に、海馬の姿。
海馬の大きく広げた翼の一つ一つに鋭く光る両刃の羽根。あの羽根を無数に降り注がれれば、ここ一帯は巻き添えとなった人々で大惨事と化す。