表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻想 《 ファンタジア 》   作者: 高瀬 悠
終章 白羽使いのミリアーノ
61/64

終章 白羽使いのミリアーノ【2】


 ◆



 ミリアーノはリズを睨み据え、言い返した。

「いいえ、まだよ」

 懐に持っていた白羽神具を取り出す。

「まだ一つ、使っていない神具が残っているわ」

 

 観客から再び湧き上がる歓声。観客は興奮してか、席を立ってあらん限りの声援を送り始める。


 その声援を受けながら、ミリアーノは覚悟を決めた。

 残された最後の賭け。

 この幻影術に成功すれば彼女と互角に戦うことができる。だがもし失敗すれば、この神具に命を吸い尽くされ死んでしまう。

 不安はあるものの、もう一歩も退けない状態だった。

 この場を退きたくはない。

 召喚神具を破壊できるのはこの瞬間だけ。

 このチャンスを失えば、ミリアーノは故郷を失う結果となる。クレイシスも、もちろんアーレイもグランツェもただでは済まないだろう。

 決勝戦前に立てた作戦。それは相手が攻撃してくるのを待つということ。でもそれだけではダメだとアーレイは言っていた。事前に相手のペースを乱れさせ、イメージを崩壊させることが大事なのだと。

 そんな作戦も虚しく、すぐに窮地きゅうちへと追い詰められる。それほど相手の実力は並大抵のものではなかったのだ。


 ふと背後からアーレイの叫ぶ声が聞こえる。

「ミリアーノさん! 僕が指示したイメージだけを浮かべてください! きっと大丈夫です! 僕を信じてください!」


 白羽神具の幻影を生み出すイメージは平和を意味した何かでなければならない。

 それ以外は全て失敗となり、その時点で命を落とす。

 汗ばむ手の平。高鳴る鼓動。

 ミリアーノは静かに目を閉じる。

(きっと大丈夫)

 大きく息を吸い、そして吐き出す。

 脳裏を過ぎる仲間達の姿。その記憶が、声が、ミリアーノを勇気付ける。

 ミリアーノはそっと目を開いた。

(信じよう、仲間を)

 白羽神具が仄かに光放つ。

 ミリアーノはオリーブの木を脳裏に描くと、白羽神具を持つ手を空高く掲げ、声を張り上げた。

「我が意に応えよ、白羽神具!」




 …………。




 何の反応もなかった。




 観客から歓声が消える。

 何の変化も起きない風景。何の幻影が現れるわけでもなく、ただそこに在るのは寂しい雰囲気だけ。

 動かないリズ。呆れ笑うでもなく、警戒も解かない。

 失敗したわけでもない。

 だが成功しているとも言い難い。

 もし白羽神具の幻影に失敗しているならば、自分に何らかの苦しみが襲ってきているはずである。

 ミリアーノはそろりと一旦、白羽神具を胸元に引き寄せて「おかしいな」と首を傾げて見つめた。

(アーレイ君に言われた通りにやったんだけどなぁ……)

 何がいけなかったというのだろう。

 ミリアーノはそんな疑問を抱くことだけに気を取られていて、リズの表情の変化に気付かなかった。

「風が……止んだ……?」

 それは恐怖心を覚え、動揺に表情が揺らいだリズの心の乱れ。

「え?」

 リズの呟きにミリアーノは顔をあげる。

 そして初めて目にするリズの怯えた顔。

 見えない異常。

 何の変化もないはずなのに、たしかにリズだけが何かを感じ取っている。

 リズは体勢を崩し、周囲に激しく視線を走らせた。

「な、なんだい、これは!」

 闘技場に起きるざわめき。だがこれは観客が動揺し怯えているのではなく、リズの異常を心配するざわめきだった。

 何の変哲もない場所で、リズだけがオロオロと忙しく辺りを見回している。

 目に見えない恐怖。

 リズはやがて、ミリアーノを恐れ戦くようにして後退し始めた。

「い、いったい何を……何を出したんだい? あんた……」

「リズ!」

 クレイシスの叫びを聞いて、リズがクレイシスへと振り向く。

「今すぐ召喚神具の力を消せ! お前の動揺で魔物が暴走しようとしている!」

 空を見上げるリズ。

 その上空にはペガサスの姿をした海馬が煌く刃の翼を広げ、リズを含めた広範囲に攻撃を仕掛けようとしていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ