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幻想 《 ファンタジア 》   作者: 高瀬 悠
終章 白羽使いのミリアーノ
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終章 白羽使いのミリアーノ【1】

※ お気に入り登録くださった方ありがとうございます。

  心よりお礼申し上げます。



 神々の島の中心地は岩山から巨大な闘技場へと姿を変える。


 陽の日差しに輝いていた湖は白塩の大地となり、そこが決勝戦の舞台となった。


 闘技場の観客席はこの日の為に島に来たたくさんの渡航者で埋め尽くされ、割れんばかりの歓声をあげている。

 最強と伝説、その使い手の一騎打ち。

 観客の興奮は絶頂だった。

 その中でも一際目につくのが中央スタンド。簡易ながらも豪華に着飾った審査員席が階位ごとに段を設けて並べられている。滅多に姿を見せないとされる世界最高指揮権を持つ教皇が一人、最上位席へ。そこから組織図のようにして高位枢機卿が顔を並べて座っている。

 その近くの席にはファルコム皇帝の姿。燃えた服は着替えてか、真新しい衣装に着替えている。護衛と称して控えさせているのかファルコム兵士の数もかなり増えており、物々しい雰囲気になっている。その異常さに神殿側が警戒しないのは、やはり皇帝という肩書きで信用されている為か。



 決勝戦開始の合図とともにリズの生み出した翼を持つ魔物──半馬半魚の海馬ヒッポカンポスは空高く舞い上がり、そして陽光を浴びて神々しく輝き、観客を魅了した。

 剣の道具を使うことで魔物は攻撃性のある両刃の鳥の翼を手に入れ、さらにオリンピア神話の知識を使うことで絵画のように美しく、より圧倒的な存在感を見せ付けたのだ。

 観客の大半がリズの勝利を確信したといっても過言ではない。

 まさしく最強という冠に相応しい完成度だった。

 幻影とは違い、召喚された魔物の姿はおぼろではなくハッキリと姿を見せる。それが本物の魔物であることに皆誰も気付いていないのは、毎年優勝するリズだからこそ、それが出来て当然だと思われているせいなのだろうか。

 大帝国の企む陰謀は刻一刻と音もなく静かに進行していた。



 ◆



 チームの待機場所となる闘技場の隅で。

 グランツェ、アーレイ、そしてクレイシスが待機し、舞台に立つミリアーノを見守っていた。

 舞台の上ではミリアーノが、竜の彫り込みの入ったダガーを手に固まっている。彼女の足元には薄く消えかかりそうな頼りない竜の幻影。

 グランツェがアーレイに訊ねる。

「ほんまこんな方法で良かったんか?」

 しかしアーレイはグランツェの話など全く聞こえていないようで、「はぁ」と感嘆のため息をこぼして祈るように両手を組んで双眸を輝かせる。

「これが頂点に立つ者の実力……」

「敵に感動してどうするんや」

 ぽくっとグランツェはアーレイの頭に拳を落とす。

「す、すみません」

 慌てて謝るアーレイ。

 クレイシスが口を挟む。

「アーレイが感動するのも無理はない。これが一流の知識者の実力だ」

「どういうことや?」

「リズの持つ剣には海を司る最高位精霊──海馬が宿っている。それに鳥の翼をつけることで伝説上の魔物──ペガサスを作り、泉の守護神にしたんだ。泉とはこの島で唯一の湖であるこの場所。

 環境を味方につけることで相手の幻影の動きを封じ、さらに相手のイメージを崩壊させることで一枚の絵画を完成させる。それが決勝戦で競われる美術力だ」

「だったらそんなん、最初から白羽神具で勝負すりゃええやないか」

「今のままでは白羽神具は使えない。もっと別の何か方法で白羽神具の幻影が出せる環境にもっていかなければ──」

 ふらりと。言葉半ばでクレイシスが気を失いそうになって、後ろにあった闘技場の塀に背凭れる。

「お、おい、ほんま大丈夫なんか?」

「魔法使いさん!」

 心配するグランツェとアーレイを手で制し、

「大丈夫だ。それよりアーレイ、グランツェ」

「は、はい」

「なんや?」

「ミリアーノにもう一つ神具を造って渡してやりたい。今度は彼女にも簡単にイメージし易いものを──」

「これ以上は無理でございます!」

 クレイシスの腰に装着されていたポシェットからフレスヴァが勢いよく顔を出す。

「わたくしめが魔力を量産して補充しているとはいえ、二つの神具から──片や陣を刻んだ神具からは膨大な魔力が奪われ続けている状態なのでありますぞ! そんな状態で神具造りなどすれば、体に一気に負担がきて命を落としかねません!」

「だからこそまだ止められるということなんだ。オレの魔力がまだ奪われ続けているならリズは完全に魔物を解放しきっていない。その前になんとしてでもリズをこっちのイメージに巻き込むんだ。環境さえ整えば白羽神具の幻影が出しやすくなる。

 そうだろう? アーレイ」

 アーレイは我に返って慌てて返事する。

「は、はい」

「なんや、どうにかならんのか?」


 そんな時だった。


 乾いた金属音が闘技場に響き渡り、会場は水を打ったように静まり返った。

 リズが隙をついてミリアーノに突進し、剣でダガーをなぎ払ったのである。

 ダガーはミリアーノの手を離れ、弧を描いて地に突き刺さる。

 その場に凍りつくミリアーノに、リズは剣の切っ先を突きつけた。

「これで分かったかい? ミリアーノ・ラステルク」

 そして、不敵に微笑む。

「優勝はもう諦めな」

 ミリアーノに残された選択は二つ。

 負けを認めてこの場で退くか、それとも──。



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