一、そこにある何かの縁【5】
だんだんと激しさを増してくる痛み。あまりの痛さに手綱が緩まる。
(ダメ。なんとかしなきゃ! このままじゃ飛空艇と正面からぶつかっちゃう!)
意識が朦朧としてくる。集中できず、手綱を掴んでも引き寄せることができない。
相棒の火竜が動揺していることを筋肉の収縮で察する。
(せめて避けるだけでも何とかしないと──)
だが痛みはガンガンと波打って頭を叩き、我慢できないほどにまでなっていた。
(頭が割れそう……)
小型飛空艇との接触まであと数十秒。このままでは大事故は免れない。
瞬間だった。
急にスッと、今までが嘘であったかのように頭の痛みが消失する。
戻る意識。
ミリアーノはすぐに身を起こして正面を見た。
(──え?)
目前の光景に驚く。
もうそこまで迫った先頭の小型飛空艇にも驚いたが、何より一番驚いたのはそれに乗っていた人物──黒の魔法衣に身を包んだ銀髪の彼──も、自分と全く同じことをしていたからだ。
まるで鏡に映る自分を見るかのように、同じタイミングで顔を上げ、お互い驚いた表情をしたまま時間を止めている。
(あ。ぶつかるかも)
第三者の目で見ているかのごとく心境で、ミリアーノは何の回避判断もせず、その後の結末をただの言葉として受け入れた。
指示がないことに異常を察したのか、火竜が本能で判断を下す。
両翼を強く、大きく羽ばたかせて無理に急上昇する。
視界が上から下へ。
力を抜いていたこともあって、ミリアーノは火竜の背の上でがくんと体勢を崩した。
小型飛空艇と火竜が紙一重で交錯する。
そのすぐ直後──。
ドン、という衝撃音でミリアーノに冷静さが戻った。
(ぶつかった!)
小型飛空艇だけをこの至近距離で避けるならまだしも、それに乗った人の高さまでは越えられない。
ミリアーノはすぐさま手綱を右に開いて火竜の首の向きを変えた。
接触を感じたこともあってか、火竜は首と同時に体までぐるりと半回転させ、目的の方向へと体勢を変えてくれた。
ミリアーノがそこで目にしたもの。
それは主を失い飛び去っていく、小型飛空艇の姿だった。
ミリアーノの顔からサッと血の気が引く。
視線を真下に落とし、乗っていた彼の姿を急いで探す。
──居た!
落ちていく人影を見つけ、ミリアーノは手綱を両手に巻き取ると、火竜に両足を強く叩き込んだ。
「下よ! 行って、早く!」
助けられるのはミリアーノだけである。
後続していた三機は浮石のせいで下降できずに平行のまま通り過ぎていく。
指示を受けた火竜は頭を落とし、翼をたたんで急降下する。
目を開けれないほどの速度の風がミリアーノの肌を叩く。
力抜けそうな落下感に耐えながら、それでもなんとか四肢の筋肉を締めて振り落とされないように踏ん張る。
(お願い、間に合って!)
最悪の光景が脳裏を過ぎる。
こんな高度から真下へ落ちれば彼の即死は確実。たとえ下が海面であっても、高度があればあるほど水面は石のように硬くなるのだ。また、ミリアーノ自信も危険は同じだった。ある程度の高度に達すると救出を諦めなければならない。大気には空の精霊と海の精霊の境界線が存在する。空から海へ。その一線を高速で超えた瞬間、どんなにベテランの乗り手であっても気を失ってしまうのだ。気を失えば火竜から落ちて死ぬ。
(あともう少し……あともう少しで彼を助けられる!)