三、陰謀を阻止せよ【19】
「あんたなんて……!」
ミリアーノは怒りをぶつけるかのごとく皇帝に向け喚いた。
「あんたの野望なんて、私が白羽神具で全部壊してやるんだから!」
皇帝の視線がリズへと流れる。呆れるように、
「リズよ」
リズは嘘がバレたことにも動揺を見せず、召喚神具を鞘に収めて返事をする。
「はい」
「これはどういうことだ? 我にわかるように説明しろ。なぜ白羽使いの娘は生きておる?」
「生きてここまで来たのなら好都合ではございませんか。決勝戦でこの娘と勝負をし、こちらの召喚神具が最強であることを世界に見せ付けてやれば良いのです」
「そんなことせずとも我の召喚神具が最強に決まっておる」
「いえ。最強とは伝説の上に立つものです。伝説が生きたままでは本当の最強とは言えません」
皇帝は手中にしていた白羽神具へと視線を落とす。
「ふむ。まぁそれも一理あるな。
ここで生かすも殺すも同じならば絶望を与えてやるのもまた一興。敗北だけでは生ぬるい。我に刃向かったことをもっと後悔させてやれねばな。
お嬢ちゃんの故郷はたしか……水の帝国、だったな」
「──!」
「このイベントが終わった後、お嬢ちゃんを特等席に招待するとしよう。水の帝国が魔物に滅ぼされる様をじっくり見物してもらわねばならん」
ミリアーノの脳裏を過ぎる最悪な光景。滅び行く故郷の姿、そして助けを求める父の姿を想像し、ミリアーノの顔から血の気が引いていく。拒絶するように首を横に振りながら、ミリアーノはすがるように乞う。
「や、やめて……お願い」
「ふははは。白羽使いでありながらこのザマか。無力なものよ。まるでどこぞの国の無力な魔法使いどもを見ているかのようだ。なぁ? クレイシスよ」
クレイシスの表情に怒りが走る。
「お願い、やめて!」
ミリアーノが強く叫んだその時だった。
「ぐおっ!?」
「どわっ!」
突如として皇帝の頭上に落ちてくる何か。
「陛下!」
「皇帝陛下!」
皇帝の上に落ちてきた何か──グランツェは皇帝を下敷きにしたままゆっくりとその身を起こす。きょろきょろと辺りを見回し、
「ん? どこやココ。今度はどこに飛ばされたんや?」
「退け、貴様!」
「どわっ!」
勢いよく身を起こした皇帝に、グランツェは地面へと転がり落ちた。
心配にかけよる兵士たち。
「陛下……」
「ご無事ですか? 皇帝陛下」
「ええぃ、うるさいカスども! 我に寄るな!」
その隙をついて、クレイシスが皇帝から白羽神具を奪い取る。
「なっ! クレイシス、貴様ッ!」
「動くな、ファルコム皇帝」
皇帝に向けて真っ直ぐに、クレイシスは白羽神具の先を突きつけた。
魔法を帯びた白羽神具が淡く仄かな緑色の光を放つ。