三、陰謀を阻止せよ【18】
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クレイシスがファルコム皇帝へと視線を移す。
「……」
「どうした? 何を黙っている? さっさと魔物の封印を解け。我の気が短いのは知っているだろう?」
「捕らわれたままじゃ何もできない。オレを自由にするよう兵士に命じてくれ」
ファルコム皇帝は無言でクレイシスを見つめた。荒ぶる感情をスッと抑え、急に真顔になる。
「謀ったな? クレイシス」
そう冷たく告げて視線を移す。流すようにしてリズで目を留め、
「リズよ」
「はい」
リズが前へと進み出る。
「護身用の短剣を持っていたであろう?」
その問い掛けに、リズが足の付け根に手を当てる。そして仕込んでいた短剣を抜き放った。
皇帝は告げる。
「五秒後だ。小娘から順に殺していけ」
「わかりました」
「待ってくれ!」
クレイシスが叫ぶ。
「封印は解く! その命令を取り消せ!」
しかし皇帝は消せとばかりに片手を振って合図を送る。
リズが動く。ミリアーノの前に歩み寄り、そして短剣を構えた。
「リズさん……」
ミリアーノは呟いたがリズの表情は変わらない。一瞬の情も垣間見せることなく時を待っている。
「五秒過ぎたぞ、リズ」
リズが無言で短剣を振り下ろしてくる。
「止めろリズ!」
ぴたり、と。クレイシスの叫びがリズの短剣を宙で止めた。
クレイシスは言葉を続ける。
「魔物の封印は解いた。だから彼女を殺すな」
「ほぉ……」
皇帝が鼻で笑う。近くに居るサラを呼び寄せ、
「サラ、確認しろ」
「はい。皇帝陛下」
命に応じてサラはリズのところへ歩み寄る。
リズは宙で止めていた短剣を元の鞘へと収め、そして帯剣していた召喚神具を抜剣し、歩み寄ってきたサラに見せた。
刃の腹に刻まれた古代文字。
サラは確認すると皇帝へ視線を移し、答える。
「召喚文字確認しました。魔物はいつでも召喚できます」
皇帝は笑う。
「そうか。ならばこのまま決勝戦へ行くとしよう」
が、急にその笑みを消し、
「──と。その前に、だ」
冷淡な顔つきで皇帝はリズへと視線を移す。
「リズよ」
「はい」
「召喚神具を使って、そこに居る小娘と獣のガキを縛り上げろ」
ハッとするクレイシス。
「なっ! 約束が違──」
リズは躊躇うことなく剣を構え、唱える。
「意に応えよ、召喚神具」
「うっ!」
クレイシスが胸元を掴んで苦しみだす。それと同時にミリアーノとアーレイはいきなり現れた縄に縛られ自由を奪われた。
ミリアーノは叫ぶ。
「やめてリズさん! これ以上その神具を使ったら──」
リズはミリアーノに召喚神具の剣先を突きつけ、
「あたいが何も知らずに使っているとでも思ったのかい?」
「え?」
「言っておいたはずだよ。アイツに関わるな、と。この国じゃ魔法使いに人権なんてないのさ。死んで悲しむ奴なんて誰もいない。それがアイツの今生きている世界なんだよ」
「まぁ待てリズよ」
皇帝がリズを手で制し、ミリアーノの言葉に答える。
「そうだな。お嬢ちゃんの言う通りだ。たしかにまだ死んでもらっては困る」
言って、クレイシスの胸倉を掴み、持ち上げた。
「コイツには自分が犯した罪を目に焼きつけ、悔やみながら死んでもらうとしよう」
たまらずアーレイが口を挟んだ。
「待ってください! その魔法使いさんは僕達の仲間です!」
ミリアーノもアーレイに続いて口を開く。
「そ、そうよ! クレイシスは私達の大事なチームの一人なのよ! 勝手に仲間を奪わないで!」
「やめろ……馬鹿」
クレイシスの呟く声はすぐに皇帝の盛大な笑い声の中に消えた。
「仲間だと? 誰が許可をくれてやった? コイツはファルコム大帝国の所有物だ」
その言葉にミリアーノは怒りを走らせた。キッと皇帝を睨み据え、
「なんて酷い人ッ! クレイシスの故郷を襲っておいて物同然の扱いをするなんて!」
皇帝は目を細める。
「ほぉ。コイツはそんなことまでお嬢ちゃんに話したのか? よほど切羽詰っていたらしい。お嬢ちゃん達を救世主か何かと勘違いするとはな」
ミリアーノはきつく奥歯を噛み、影で拳を握り締めていった。
(許せない、この人!)