三、陰謀を阻止せよ【17】
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「誰だ! そこにおるのは!」
ファルコム皇帝の鋭い声が響き渡る。
光差すその入り口で、ミリアーノとクレイシスは共に床から身を起こす。
「痛たた……ちょ、何なの? 急に」
「わからない。何かが上から転がってきたんだ」
そして。
クレイシスは今在る現状に気付き、顔を青ざめて口を閉ざす。
「何が転がってきたっていうの?」
ミリアーノは視線を落とし、折り重なって倒れている転がり物──アーレイを見て頬を引きつらせた。
「な、なんて最悪なタイミング……」
おそらく試練をクリアし、こちらに転送されたのだろう。ミリアーノとクレイシスの存在に気付いたアーレイが喜びの声を上げる。興奮あらわに、
「あっ! 誰かと思ったらミリアーノさんと魔法使いさんじゃないですか! ってことは、やった! 僕は合格だったん──」
二人の浮かばない反応に、アーレイは語尾を伸ばしながら周囲を見回して何かを察する。
「……ですよね?」
ハイテンションから一転。ただごとじゃない雰囲気に静かに両手を挙げて大人しくする。
駆け寄ってくる兵士たち。
ミリアーノとクレイシス、そしてアーレイはすぐさま兵士に捕らえられ、身動きできなくなった。
首を傾げてアーレイが二人に訊ねる。
「何事ですか?」
声を落としてクレイシス。
「事情は知るなアーレイ。生きて帰れなくなるぞ」
「は、はい……」
次いでミリアーノにも告げる。
「何もしゃべるなよ、ミリアーノ。その歳で死にたくはないだろ?」
「でも──」
「いいから。あとはオレに任せろ」
ミリアーノは不安を浮かべたまま無言で頷いた。
その間にも兵士を掻き分けながら皇帝が上機嫌で近づいてくる。
「おやおや。こんなところで何をしていたのかな? 裏切り者のクレイシス君。まさか新しい仲間を集めて我に復讐しようなんて企てていたわけじゃあるまいな?」
クレイシスは皇帝を見据え、答える。
「この二人は関係ない。全部オレが一人でやってきたことだ。ここに連れて来たのはオレの居場所をあんたに知られないようにする為だ。計画のことは話していない。二人は放してやってくれ」
皇帝がクレイシスに詰め寄りなり、いきなりクレイシスの髪を鷲掴んだ。
「誰に向かって口を開いている? 魔法使いの分際で我と対等に話すな」
「もう抵抗はしない。逃げもしない。命じられていたことには黙って従う」
「従って当然だ。貴様がどうこう言う権利など初めから無いのだからな」
「いいや、この権利だけはあんたの自由にできない。オレがこのまま何も言わずに屍になればあの魔物は永遠に幻影のままだ。他に方法なんてない。だからあんたはオレを殺せず生かし続けている。この二人を解放し見逃せ、ファルコム皇帝。それがあんたにこの権利を譲る条件だ」
ミリアーノは彼に命懸けで助けられていることを知り、慌てて口を開いた。
だが、彼に鋭く睨らまれ口を閉じる。
二人の間に何かを感じたのか、皇帝が面白がるように笑う。手持ちの白羽神具の羽先でクレイシスの頬をぺんぺんと叩きながら、
「かつて女帝が死して守ったその封印を、惚れた女の命を守る為に解こうと言うのか? クレイシス。面白い奴だ。お前を信じていた魔法使いどもは、それを知ったらさぞ泣くことだろう。
この二人は特別に見逃してやる。貴様の戯言に付き合うのはこれで最後だ。
──魔物の封印を解け、クレイシス。我が心変わりをしないうちにな」
「…………」
クレイシスは無言で皇帝を睨んだ後、視線をミリアーノとアーレイを捕らえる兵士に移す。
皇帝もクレイシスの視線を追って兵士を見る。
動く気配のない兵士に皇帝の表情が怒りに歪む。
「いつまでも何やっている? カスども。我の言葉が聞こえなかったのか? その二人を放せと言っておるのだ」
「は、はい! すぐに!」
兵士は慌ててミリアーノとアーレイを解放する。
それを確認し、皇帝はクレイシスに命じた。
「今度は貴様の番だ、クレイシス。魔物を今すぐ解き放て」