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幻想 《 ファンタジア 》   作者: 高瀬 悠
三章 陰謀を阻止せよ
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三、陰謀を阻止せよ【15】


 階段を下り、ミリアーノとクレイシスは壁に身をひそめる。

 光差す方から響く男の声。

「明かりの準備は整った! さぁサラ──我がかわいい姪っ子よ、この壁画の謎を解くのだ! 超一流のお前の頭脳に解けない謎などない! なぜなら我も頭が良いからだ! これで世界は我が物になる。世界征服はもう目前だ、ふははは!」

 ミリアーノは壁から顔をのぞかせ、様子をうかがう。

 古代演劇場といったところか。内部は昼間のように明るく、たくさんの照明神具があちこちに設置されていた。

 舞台とされるその壇上には、想像通りの悪役面した細身で黒い皇帝服を身にまとった男がいた。隣に知識者のサラを並べて、巨大壁画を背に独り舞台でガハガハと笑っている。

 ミリアーノは半眼になって内心でため息を吐く。

(いるのよねぇ。世界に一人はこんな人……)

 一旦、壁の影へと身をひそめてミリアーノはもう一度ため息を吐いた。

 クレイシスが声を押し殺すようにして小声で訊ねる。

「どうした?」

「ねぇクレイシス。想像通りの悪役面した馬鹿っぽい感じの皇帝らしき人が壇上に居たんだけど、あれってもしかしてファルコム皇帝?」

「もしかしなくてもファルコム皇帝だ」

「国の統治は大丈夫なの?」

「あぁ見えても頭はキレる奴だから気をつけろ」

「人は見た目じゃないってことね」

 ミリアーノはもう一度様子をうかがおうと壁からそっと顔を出し、今度は周囲に視線をやる。

 観客席付近に佇む十数名の兵士と、道具屋だろうと思われる大荷物を背負ったトカゲ男、そして戦士の衣装に腰に帯剣と凛々しい表情のリズを見つける。

(リズさん!)

 ミリアーノは無意識に体を前に出した。

 クレイシスが慌ててミリアーノの体を引き寄せ、小声で叱責する。

「馬鹿、見つかるだろ!」

「ごめん。でもリズさんを見つけて──」

「リズはお前の味方じゃない。白羽神具が奪われた時のこと、よく思い出せ」

 ミリアーノは気分を沈ませ、顔を俯ける。

「……うん、わかってる」

「このままもう少し様子を見よう。取り戻すチャンスは必ず来る」



 ファルコム皇帝が上機嫌に鼻を鳴らしてサラに訊ねる。

「壁画の謎は解き終わったか? サラ」

 サラはファルコム皇帝に視線を移すと、ドレスの端をちょっと掴んで辞儀した。

「はい、皇帝陛下。謎は解けました」

「では解説を始めろ」

「はい。まずは壁画に描かれているオリーブを収穫している三人の女神ですが、彼女達は古代より語り継がれる神話──オリンピスに出てくる運命の三女神モイライでした。右からラケシス、クロートー、アトロポス。過去、現在、未来と白羽神具が受け継がれることを示しています。

 そして彼女達の背景にあるオリーブの木ですが、これは古代、オリーブ油が人々の生活にとって欠かせない必需品だったことを表しています。実が収穫できる──つまり、白羽神具が受け継がれることで町が繁栄する、平和であることを意味しています。

 従って、白羽神具の幻影を作り出すとすれば平和を・・・意味した・・・・何か・・でなければなりません。結論を申しますと、白羽神具に攻撃性のある幻影は出せないということです。

 つまりそれは、こちらの幻影が攻撃性であれば白羽神具は手も足も出ません」

 サラの解説にファルコム皇帝は満足そうに頷く。

「そうか。よく調べたなサラ。偉いぞ」

 言って、サラの頭を優しく撫でた。

 するとサラの無表情だった顔がやんわりとほころぶ。

「ありがたき幸せにございます。皇帝陛下」

「それでこそ我が姪っ子だ。我が血筋に馬鹿はおらん」

 さてと。呟いて、ファルコム皇帝は観客側に居る者たちに視線を流した。


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