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幻想 《 ファンタジア 》   作者: 高瀬 悠
三章 陰謀を阻止せよ
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三、陰謀を阻止せよ【12】


 ポルメルに導かれ、深い森の道を奥へと進むと、人知れずひっそりと佇む古代神殿の遺跡に辿り着いた。

 ミリアーノは古代神殿の遺跡に駆け寄ると、頂からその下までを観察して感嘆の声をあげる。

「わぁすごい。これってもしかして、あなたが出した幻影?」

 と、ミリアーノは振り返り、遅れてやってくるポルメルに訊ねた。

「ばぅ」

 ポシェットから顔を出すフレスヴァ。そのまま通訳に入る。

「否。ミリアーノお嬢様、これは幻影ではないそうです」

「え? じゃぁ本物?」

「ここは島の最南端。実在の古代遺跡にございます」

「最南端? 私達が居たのは北だったでしょ?」

「ばぅ」

「空間転移を行ったそうでございます」

 ミリアーノは愕然と口を開けて、

「えっ! ちょっと待って。それって私達、失格になったってこと?」

「否。ポルメルにイベントの権限はございません。ミリアーノお嬢様が『良い隠れる場所を』と訊ねられましたので、ポルメルがイベント精霊に見つからぬよう自分の家を紹介したのでございます」

「自分の家?」

「この古代遺跡にございます」

「え、じゃぁイベントには戻れるの?」

「左様でございます」

「でもグランツェとアーレイ君は? ずっと合流できなくなるじゃない」

「ばぅ」

「大丈夫だそうでございます。試練をクリア次第こちらに転送してくるよう、すでに手は打ってあるそうです」

「そう。じゃぁとりあえずは大丈夫ね」

 ミリアーノは状況に安堵すると、暇つぶしに遺跡を調べ始めた。

 遺跡正面の階段を上り、古びた両扉を触れる。

 強く力で押したら壊れそうに思えたので、ミリアーノはそっと手加減して両扉を押し開いていく。

 長い間眠りについていたであろう室内に、一条の光が差し込む。

 風通しが悪いせいか、室内の空気は湿っぽくて少しカビくさい。

 見回せば壁や床、天井といった全てが細い幹やツタに覆われており、ほとんどが森の侵食を受けて原型を失いかけている。

 壁画が描かれていたのであろう、その絵も傷んでがれ落ちており、何が描かれていたのかもわからない最悪な保存状態。きっと歴史研究者が見たら涙を流すことだろう。

 ミリアーノは振り返り、遅れて階段を上ってくるポルメルへ問う。

「ねぇポルメル。この中に入ってもいい?」

「ばぅ」

「ミリアーノお嬢様。入ってもよろしいのですが、怪しい輩どもが侵入しているので気をつけてくださいとのことです」

「あ、そういえばそんなこと言っていたわね。どんな感じの人達なの? 歴史研究者? それとも宝狙いの怖い人達?」

「ばぅ」

「な、なんですとぉっ!」

 フレスヴァが転げ落ちるかの勢いで驚く。

 ミリアーノはわけわからずフレスヴァとポルメルを交互に見やる。

「え? なに? 何なの? どういうこと?」

「ばぅ」

 フレスヴァが急に声をひそめてミリアーノに話しかける。

「ミリアーノお嬢様、やはりここは危険にございます。別の場所に移動しましょう」

「え? どういうこと? わけわかんないよ」

「ポルメルが言いますに、複数の人間がこの島にかけられた結界を無効化し、島の精霊を脅してこの地に侵入してきたと」

 ミリアーノはきょとんとした顔で小首を傾げる。

「それがどう危険なの?」

「召喚神具にございます」

「召喚神具?」

 どこかで聞いたような言葉。

 脳裏に過ぎるクレイシスがあの時言っていたこと。


【魔力の制御がきかない……リズの奴、召喚神具を連続で使いやがって】


 ミリアーノはフレスヴァに訊ねた。

「ねぇ、召喚神具って何なの?」

 フレスヴァが珍しく難しい顔をしてぶつぶつと独り言を呟きながら唸り考え込む。

「しかし一体なぜ? あの魔物どもを復活させる民族はとうの昔に絶滅したはず。それなのになぜ今、誰がどうやってあの魔物どもと交信を……」

「フレスヴァ?」

 ハッと気付いてフレスヴァ。慌ててミリアーノへと目をやる。

「これは失礼いたしました」

「ねぇ、召喚神具って一体何なの?」

「召喚神具とは精霊の中でも最高位と呼ばれる存在──強大な魔力を持つが故に封印された忌々しき魔物を呼び出す道具のことでございます」


「正式には召魔降臨の儀式。つまり、神具の元祖ってやつだ」


 彼の声が聞こえ、ミリアーノの表情に笑みが戻る。

「クレイシス!」

 まだポルメルの支えを借りながらだったが、クレイシスは自分の足で立っていた。

 ミリアーノは嬉しくて彼の傍に駆け寄る。

「体調はもう大丈夫なの?」

「万全ではないが、なんとかな」

 その言葉に、ミリアーノはホッと胸を撫で下ろす。

「良かった。フレスヴァが『死ぬ』とか何とか怖いこと言うから」

「本当のことでございますぞ、ミリアーノお嬢様」

「黙っててフレスヴァ」

「ぎゃぁ!」

 無理やりフレスヴァをポシェットの中に押し込む。そのままミリアーノは明るく話題を変えた。

「あ、そうよ。ココがどこかわかんないよね? ココは──」

 クレイシスは古代遺跡の頂を見上げ、

「ポルメルの住処、だろ?」

 目を瞬かせてミリアーノ。

「どうしてわかったの?」

 フッとクレイシスは笑って、

「まさか今年もココに来ることになるとはな」

「今年、も?」

 首を傾げるミリアーノを見つめ、クレイシスは真顔で告げる。

「リズはこの古代遺跡の地下に居る」

「リズさんが……」

「そしてファルコム皇帝も一緒だ」

「だから、なんで皇帝がこんな場所に来るわけ!?」

「ミリアーノ」

「何?」

「今がチャンスだ。取り戻しに行かないか? 白羽神具」

「え?」

「リズはきっと白羽神具を皇帝に渡しているはずだ。もし渡していたとすれば決勝戦が始まった時、観客席に居る皇帝から奪い取ることなんてできなくなる。取り戻すとしたら今がチャンスだ」

 ミリアーノは心配に問う。

「取り戻せるの? 白羽神具」 

「あぁ。可能性はゼロじゃない。

 ──それに、ファルコム大帝国を裏切ったオレも、あとどのくらい命が持つかわからないしな」



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