三、陰謀を阻止せよ【10】
「嘘……」
ミリアーノは青ざめる。思い出す、クレイシスの言葉。
【練成された神具にそんな即興物は通用しない】
このままではやられるのをただ待つだけ。ミリアーノにはもう何の神具も残っていない。
(逃げるしかない!)
逃げ切れないかもしれないが、それでもグランツェとアーレイに合流できれば──。
だが、どちらにせよクレイシスが一緒でなければ神具は造れない。
ミリアーノはクレイシスへと振り返る。
そして気付く、虫人民族の男が二撃目を放とうとツバメの幻影を生み出したのを。
虫人民族の男はニヤリと笑う。
「これで終わりだ、白羽使いの娘」
ツバメの幻影が再びミリアーノに襲い掛かってくる。
ミリアーノは反射的に身を丸めて両腕で顔を覆った。
──その刹那!
「がふッ!」
……え?
いつまでも襲ってこない衝撃に、ミリアーノはそっと両腕を退けて確認する。
ツバメの幻影は消えており、虫人民族の男は白目をむいてその場に昏倒していた。その原因を物語るかのように佇むポルメルの姿。
ミリアーノは呆然と呟く。
「ポルメル。あなた、どうして……?」
「ばぅ」
ポルメルは何度も素早い手刀を繰り出しながら、ミリアーノに目で何かを訴えていた。
「ミリアーノお嬢様ぁー!」
森の向こうから、フレスヴァが懸命に羽ばたきながらふらふらと空を飛んでミリアーノの元へ帰ってくる。
「フレスヴァ!」
いつの間にポシェットから出て行っていたのだろう。ミリアーノはフレスヴァを迎え入れる。
「ミリアーノお嬢様」
片手を掲げて差し向けると、フレスヴァはその手の中に舞い降りてきた。
フレスヴァは汗だくになりながら、
「ミリアーノお嬢様の身の危険を感じ、わたくしめ一大決心にと応援を呼んで参りましたぞ」
「応援?」
「ポルメルにございます」
ミリアーノはポルメルに目を向ける。
ポルメルはいまだに素早い手刀を繰り出していた。
「ばぅ」
そして何かを訴えている。
ミリアーノは首を傾げてフレスヴァに問う。
「精霊が参加してもいいの?」
「あのぉ、ミリアーノお嬢様。わたくしめも一応参加している身なのですが」
「それもそうね」
納得する。
「ばぅ」
訴えてくるポルメルに再び目をやり、ミリアーノは首を傾げる。
精霊の言葉は理解できない。
通訳を頼もうとフレスヴァに訊ねる。
「ねぇ、もしかしてポルメルは『助けに来たよ』って言っているの?」
「否。ポルメルは『家に誰かが侵入してきたので助けてほしい』と言っております」
ミリアーノはポルメルから昏倒している虫人民族の男へと視線を移す。頬を引きつらせて、
「助けなんていらないと思うんだけど……」
「ばぅ」
ポルメルが行動を変える。口の中から片手いっぱいの草を取り出し、ミリアーノに見せる。
「え?」
「ばぅ」
呆然とするミリアーノをよそに、ポルメルは何を思ってかクレイシスの傍に座り込んだ。
「ねぇ、何て言っているの? フレスヴァ」
「直訳いたしますと『草、持っているよ。草』と申しておりますが」
「意味わかんないから」
ミリアーノはお手上げして苦笑いを浮かべた。
「ばぅ」
ポルメルがクレイシスに向けて一鳴きする。
苦しみながらも、そっと顔を上げるクレイシス。
──速攻。
「うぐっ!」
ポルメルがクレイシスの口の中に強制的に草を押し込む。
「ばぅ」
その様子を唖然と見つめるミリアーノとフレスヴァ。
「ミリアーノお嬢様、ポルメルが『薬草をあげるよ』と言っておりますが」
「ってか、もう無理やり食わされているし……」