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幻想 《 ファンタジア 》   作者: 高瀬 悠
三章 陰謀を阻止せよ
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三、陰謀を阻止せよ【9】


 我に返って、ミリアーノは慌てて駆け寄る。彼の背をさすって、

「いったいどうしたの? どこか苦しいの? 大丈夫?」

 話しかけても反応は返ってこない。

 ミリアーノは心配になって彼の顔を覗き込んだ。

 顔は青ざめ、尋常ではないほどの冷や汗が浮き出ている。呼吸も荒く、医者の治療を必要とした。

 ミリアーノは半ばパニックに陥った。オロオロと忙しく周囲を見回して誰かに助けを求める。

「誰か……」

 隠れているのか、それとも誰も近くに居ないのか。人影は見当たらない。

「どうしよう、どうしよう」

 泣きそうになりながら、ミリアーノは周囲を見回す。

 異常を察したフレスヴァがポシェットから顔を出してくる。

「どうしたのでございますか? ミリアーノお嬢様」

 ミリアーノはすぐさまポシェットに視線を落とした。すがるように、

「どうしようフレスヴァ。彼が──」

 ふと微かにクレイシスの声が聞こえてきて、ミリアーノはクレイシスに目を移す。

 かすれるような声で何かを呟いている。

 ミリアーノは彼の傍に耳を近づけ、声を聞く。

「魔力の制御がきかない……リズの奴、召喚神具を連続で使いやがって……オレを殺す気か……」

「召喚神具?」

 聞きなれない言葉にミリアーノは疑問を抱き呟いた。


 ミリアーノに忍び寄る人影。


 フレスヴァがその人影に気付き、警戒の声を上げる。

「ミリアーノお嬢様! 危な──」

 次いで襲いくる圧し飛ばされるかのような衝撃。

 油断していたこともあり、ミリアーノの体は弾かれるようにして宙に浮き、その場から吹き飛んだ。

 二度、地面に体を打ち付けて横たわる。

 真横に傾いたままの視界。

 ミリアーノは一瞬自分の身に何が起きたのか理解できなかった。

 理解できないまま、とりあえず体を起こす。

「痛っ!」

 起こした時、すりむいた膝や腕そして頬の痛みが電撃のように全身を走った。

 痛み耐えながら上半身を起こし、ミリアーノは衝撃の来た方位へと目を向ける。

 歩み寄る一つの影。

 槍を片手にその切っ先をミリアーノに定め、蟷螂かまきり頭と緑色の皮膚を特徴とする虫人民族の男はニヤリと笑いながら迫ってくる。

「あんたが噂の白羽使いの嬢ちゃんか。一次予選は上手く突破できたみたいだが二次は奇跡で通れるほど甘くはないぜ」

 ミリアーノは恐怖に顔を強張らせ、腰で這い逃げる。 

 近づいてくる虫人民族の男。その男の片足にしがみつく何か。

 虫人民族の男は進まない片足に違和感を覚え、視線を落とした。

 そこには息絶え絶えながらも必死に、虫人民族の男の片足にしがみついて離れないクレイシスの姿。

 虫人民族の男は笑った。

「そんなところに居たのか、大魔法使い。あまりにも惨めな姿で気付かなかったよ。

 ちょうどあんたの元相棒を見てきたとこだ。いつものように別ルートで決勝戦に進んでいったぜ? ずいぶんとご機嫌ななめみたいだったがな。

 おかげでかなりの数が減ったが、あんだけ神具をガンガン使いまくってたんじゃ、てめぇは生きた心地もねぇだろ? 大魔法使い。まぁこれでくたばらねぇとこが大魔法使いの恐ろしさってやつか。普通の魔法使いだったら、あんだけ神具を使われた日にゃぁとっくにあの世に逝ってら。

 ──と言っても、見ている分じゃてめぇももうすぐってとこだがな。今年も大人しくリズと一緒に居りゃぁそんな醜態さらさなくて済んだのによ」

 蹴り飛ばされるも、クレイシスは再び虫人民族の男の片足にしがみついて引き止める。

 虫人民族は苛立たしく舌打ちした。

「しつこい野郎だ。ここで引き止めても幻影には何の影響もねぇってのによ」

 愚痴るように呟いた後、ミリアーノに向けて槍を構える。

 クレイシスは察してミリアーノへ視線を向けた。鋭い声を飛ばす。

「何やってんだ、逃げろミリアーノ!」

 クレイシスの声でミリアーノはびくっと身を震わせ我に返る。

 ようやく自分の置かれた現状を知り、逃げ出そうと腰を浮かすもクレイシスのことが気になり、その場に留まる。

「あなたを置いていけない!」

「お前がやられたら終わりだって言っただろ! オレのことは気にするな! 行け!」

「でも──」

「いいから行け! グランツェとアーレイが来るまで一人で逃げ切るんだ!」

 ミリアーノは下唇をきつく噛むと決心する。

 落としていた瓶を拾い、そして逃げるように立ち上がった。

「逃がすかよ」

 虫人民族の男が持つ槍先から、幻影が生まれる。

 付き従うように男の周囲を飛び回るツバメの幻影。

 虫人民族の男はツバメに命じる。

「GO!」

 ツバメは男の頭上を旋回した後、ミリアーノに襲い掛かる。

 飛んでくるツバメに気付き、ミリアーノは反射的に体を傾け悲鳴をあげた。

「きゃぁ!」

 寸でのところでそれを避け、バランスを崩してそのまま転倒する。

 手の中から瓶は離れ、ミリアーノは再び地に体を打ちつけた。

 痛みに耐えられず、すぐに体を起こせない。

 込み上げてくる無力な自分であることの悔しさ。

 ミリアーノは涙を浮かべて地をかき掴む。

「次は逃げられねぇぜ、白羽使いの娘!」

 ツバメは宙を折り返し、ミリアーノに襲い掛かってくる。

(もう逃げられない!)

 悟ったミリアーノは両腕で顔を隠すように覆い、目を閉じ、訪れる衝撃に覚悟を決めた。

 ミリアーノの耳に届くウシガエルの鳴き声。

 その声にハッとして目を開く。

 訪れるはずの衝撃は来なかった。

「なっ──!」

 虫人民族の男の驚愕する声が聞こえてくる。

「コイツ……俺の幻影を食べやがった」

 ミリアーノは覆っていた両腕をそっと下ろすと、宙に視線をやる。

 そこにツバメの姿はない。

 何気に、流れるように視線を下へ向けると、そこには一匹のウシガエルがいた。

 ウシガエルの口から漏れ出るツバメの片翼。ウシガエルはそれを手で口の中へと押し込み、ごくんと喉を鳴らす。

 そしてミリアーノに向き直り、一鳴き。

 ミリアーノは呆然とウシガエルを見つめた。

(カエル……? そうよ、私の神具!)

 使い手としての自覚を取り戻し、ミリアーノは手の中から消えた瓶の行方を探した。

(あった!)

 さほど距離のない場所に転がっている瓶。

 ミリアーノは飛びつくようにして瓶に近寄った。

 急いで手を伸ばす。

 だが──!

 瓶に触れようとしたその瞬間、瓶に無数の亀裂が走った。

(え?)

 動揺するミリアーノ。

 その目の前で、瓶は消し飛ぶかのようにあっけなく粉砕した。



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