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幻想 《 ファンタジア 》   作者: 高瀬 悠
三章 陰謀を阻止せよ
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三、陰謀を阻止せよ【8】

※ 評価してくださった方、ありがとうございます。

  心からお礼申し上げます。


 ──ぶわっ、と。風景は一瞬にして入れ替わった。

 吹き抜けていく一陣の風にミリアーノの髪がなびいていく。

 ミリアーノは何が起こったのかわからず、瓶を手に呆然と立ち竦む。

 そこは新緑生い茂る深い森の中だった。

 目の前に真っ直ぐに伸びた一本の道。それが先見えず続いている。

「ここ……どこ?」

 辺りを見回してみるが、仲間三人の姿はどこにもない。

 不安がミリアーノの心を締め付ける。

「みんな、どこに行ったの……?」

 ふいに掴まれる片腕。

「走れ、ミリアーノ!」

「え?」

 ぐいっと強く引っ張られ、無理やり一緒に走らされる。

 そこを離れた直後、さきほど居た場所で爆竹が鳴り響いた。

「な、なに? どういうこと?」

 転びそうになりながらもミリアーノは腕を掴んだ相手を確認した。見知った相手であることがわかり、すぐに安堵する。

「クレイシス……」

 振り返ることなく、クレイシスは緊迫した声で口早に説明してくる。

「二次予選は神具による戦闘だ。ぼけっとしていると神具もろともお前もやられるぞ」

「やられる?」

「あれを見ろ」

 クレイスが指差す先には、道端で大怪我を負って仲間から手当てを受けている使い手の姿。

 それを見て、ミリアーノは驚愕に目を見開いた。

「──って、まさか狙われるのは私だけなの!?」

「その『まさか』だ。チームの主力が戦闘不能になればその時点で失格だ」

「主力? 私のこと?」

「あぁ。使い手がいないと幻影が出せないだろう?」

「なるほど」

「それとこれも注意しておけ。わかっていることかもしれないが、一応念の為だ。幻影のコントロール・ミスすると大怪我するから気をつけろ」

「え!? 知らないわよ、そんなの!」

 クレイシスが驚き顔で振り返ってくる。

「は!? なぜ知らない?」

「だって私、ココに来て初めて幻影出すんだもん」

「じゃぁ一次予選で見せたあの抜群のコントロールは奇跡だったというのか?」

「そんな怖いことになるなんて知っていたら、あの時あなたにやり方確認してたわよ」

「…………」

 クレイシスは再び前方へと目を向けると、さらりと流すように言葉を続けた。

「死ぬなよ、ミリアーノ」

「恐ろしいこと言わないでよ! 今鳥肌立ったじゃない!」

「二次予選は有力チームも混ざっている。戦場に紳士はいない。力が弱いとか、初心者だからとか、そういうのは理由にならないからな。命は助けてくれるだろうが、だまし討ちに遭わないよう手傷は負わされるはずだ」

 ミリアーノは手の中にある瓶へと視線を落とす。瓶の中で静かに波打つ水の幻影を見つめた後、すぐにクレイシスへと視線を戻して、

「ねぇ、この神具で戦えばどうにかなる?」

「死ぬ気か? 剣士に小枝で戦いを挑むようなもんだ。練成された神具にそんな即興物は通用しない」

「じゃぁどうすればいいの? 私」

「とりあえず安全な場所に隠れるんだ。四人揃わなければ神具は造れない。グランツェとアーレイが合流してくるまで、なんとか時間を稼ぐんだ」

「二人ともどこに行ったの?」

「それぞれの試練の場所だ。二次予選は戦闘の他に、チームの結束力も審査の対象になる。オレは慣れているから早く抜け出せたんだ」

「え? 私、そんなの何もなかったわよ?」

「今のこの時間がお前の試練だ。仲間が揃うまで残された神具でたった一人、このサバイバルを生き残れるかどうかってことだ。さっきの怪我した人を見ただろう? 仲間がようやく合流できたとしても使い手が戦闘不能になっていれば失格なんだよ」

 ミリアーノは暗く顔を俯け、呟く。

「……グランツェとアーレイ君、本当に来てくれるかな……?」

「は? なんだよ、それ」

 足を止めるクレイシス。

 ミリアーノも俯いたまま足を止める。

 クレイシスは周囲の安全を確認し、ミリアーノに問い詰めた。

「来ないとでも思っているのか?」

 ぎゅっと、ミリアーノは手にしていた瓶を両手で包み込んだ。思いをかみ締めるように答える。

「だって私……アーレイ君の言葉を信じなかったんだよ? 勝手に幻影も変えて」

「だからこそ一次予選を突破できた。違うか? あの時お前が幻影を変えてなかったら失格になっているところだった。そこは良い判断だったとオレは思う」

 ミリアーノは顔を上げる。

「でも──」

「慣れていたオレでもミスに気付かなかったんだ。そこはオレも反省しているし、グランツェはともかくアーレイはまだ小さい。知識者としては正直まだ未熟だ」

 再び俯くミリアーノ。

「それでも私」

「気にするな、ミリアーノ」

「でも! それでも私、これから仲間としてみんなに信じてもらえるかどうか、自信がない……」

「もういい、わかった」

 ミリアーノの言葉を手で払い、クレイシスは踵を返した。

「ごめ……!」

 謝ろうとミリアーノは顔を上げたが、聞いてくれそうにないと分かり、口をつぐむ。

 無言でその場を去っていくクレイシス。

 ミリアーノは呼び止めようと口を開きかけたが、思い留めて萎えた花のように俯く。

(私に彼を止める権利なんてない……)

 自分の失態を呪うようにミリアーノは瓶を腕の中に抱きしめ、目に涙を浮かばせる。

 ふいにクレイシスの足が止まった。

 背を向けたまま、告げてくる。

「ここまで来たのなら最後まで仲間を信じろよ。ここを通過すればすぐに決勝戦だ。二次予選は時間制限つきのサバイバル形式になっている」

 こちらへと振り返り、クレイシスは言葉を続けた。

「決勝戦に行って白羽神具を取り戻して優勝するんだっただろう? こんなところで諦めるなよ」

 ミリアーノはハッとして顔を上げる。

「白羽神具……私の」

 ここで諦めたら、もう二度と取り戻すことはできない。

 思い出して、ミリアーノは目の淵にある涙を手の甲で拭った。

「アーレイもグランツェも必ず来る。最後の土壇場になってもいい。一次予選で見せた時のように奇跡で通過してみせるんだ」

 ミリアーノに笑みが戻る。そして力強く頷いてみせた。

「うん!」

 ふと、クレイシスが今まで見せたことのない穏やかな笑みを浮かべる。

 ミリアーノは目を丸くした。そして瞬かせる。

「え? なに?」

「今までイベントに出場なんて苦痛で仕方なかったんだけどな。なぜだろう? 初めて心から楽しいと思えてきた」

「ほんと?」

「あぁ。お前と一緒なら、何かが変わる気がする」

 ミリアーノはその言葉が聞けて嬉しかった。自然と頬がほころぶ。

 ──そんな時だった。

「うっ!」

 前触れ無く急にクレイシスが心臓の辺りに手を当て、苦痛に表情を歪ませる。

 ミリアーノは一瞬、彼の身に何が起こったかわからず呆然とした。

 そのままクレイシスは地にひざを折り、胸服をかき掴むように握り締めたままうずくまった。







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