三、陰謀を阻止せよ【5】
「僕が思うには、蛙の言っていた『言葉の意』──つまりこの謎の答えとなる『蛙』に関する神具なら通過することができるということです」
アーレイは周囲を見回す。
「考えられる知識は『雨、水、川、跳ねる』そして捕食となる『虫』。他にも今見回しただけでアレンジできそうなものは色々あります」
ミリアーノは二人にぼそぼそと耳打ちする。
「ねぇ、あの子いきなり変わったよね?」
「あぁ変わったな」
「知識者ってあんなもんやないんか?」
「言われてみればそうだな。知識者サラもあんな感じだった」
そんな三人を無視して、ずれた眼鏡の位置をくいっと人差し指で正し、アーレイはグランツェの荷へと歩み寄った。
呆然と見ているグランツェをそのままに、荷から一つの小さな瓶を手にし、それを見つめながら言葉を続ける。
「ただ、残念なことに今の僕達では、蛙の言う『言葉の意』にそうような神具を作ることはできません」
「できないやと?」
「どういうことだ?」
身を乗り出すようにして迫るグランツェとクレイシス。
アーレイは耳を垂れて、ぺこりと頭を下げる。
「ごめんなさい」
え? と三人は疑問符を浮かべた表情で固まる。
「僕、蛙という生き物は本の中でしか知らないんです」
「せやけど、どーすんのや? この状況」
「やはりダメだったか……」
愕然と膝を折るクレイシス。
ミリアーノは両拳を握り締めて二人を励ます。
「諦めちゃダメだよ、二人とも! ヒントになる物は絶対どこかにある! 蛙なら私の国にたくさんいたわ。私も手伝うから」
半眼で、クレイシスが突っ込む。
「どうやって手伝う気だ?」
図星を指され、ミリアーノは言葉を詰まらせる。人差し指を顎に当て、目を泳がせて、
「えっと……」
その間にも身を起こしてクレイシス。アーレイに訊ねる。
「本当に、もうアレンジもできないのか?」
アーレイは顔を上げて説明する。
「僕の知っている知識は全て使われてしまいました。他の神具との組み合わせならどうにかなったんですが、一つの神具から編み出すなんて僕にはでき……」
急に言葉を止めて、アーレイはある一点を見つめる。
会話が止まったことで三人はアーレイに注目し、そしてその視線を辿って、ようやく存在に気付く。
いつからそこに居たのだろう。
蛙の足元にちょこんと佇む緑色の生命体──ポルメル。体よりも大きな蓮の葉を手に、こちらをじぃっと見つめている。……ように見える。
ミリアーノは「あ」と声を発し、
「ポルメルだわ」
「ポルメルだ」
「なんで島の番人がこんなとこに居るんや?」
不思議に見つめる三人をよそに、アーレイは一際大きく目を見開き、表情をだんだんと輝かせていく。
「そうか、その手があったのか……!」
「ミリアーノお嬢様」
アーレイの小さな呟きが、ポシェットからのフレスヴァの声にかき消される。
ポシェットに視線を落としてミリアーノ。
「なに?」
「ポルメルからの伝言にございます」
「伝言?」
「はい。『突然のスコールにご注意を』とのことです」
「何それ。私が間違ったことへの皮肉?」
アーレイの表情に自信が戻る。
「グランツェさん! クレイシスさん! ミリアーノさん!」
突然名を呼ばれてビクリとする三人。アーレイへと振り返る。
「な、なんや?」
「どうしたの? いきなり」
クレイシスがアーレイの表情で何かを悟り、微笑する。
「ようやくレシピが出来たか? アーレイ」
「はい!」
ミリアーノとグランツェにも笑顔が戻る。
「ほんと? アーレイ君」
「だったら早よレシピ教えろや。道具をすぐにそろえたる」