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幻想 《 ファンタジア 》   作者: 高瀬 悠
三章 陰謀を阻止せよ
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三、陰謀を阻止せよ【4】


「な、なんなの、これ!」

 一気に変わった風景に警戒を走らせるミリアーノ。抜け道の無い広間に閉じ込められ、不安を募らせる。

 そんなミリアーノの足にしがみついて、アーレイが狼耳を垂れて恐々と声を上げる。

「ぼ、僕達、生きて出られるのでしょうか?」

「え? まさか私達一生ここに閉じ込められちゃうの?」

 ポシェットからフレスヴァが顔を出し、怒りに顔を歪めて唸る。

「ぐぬぬ。もしそれがまことだとしたら解せませんぞ、この島の精霊どもは」

 その不安をクレイシスが一蹴する。

「それは無いから安心しろ。予選を落ちればさっきの場所に戻れる」

「戻れるってどういうことや? 魔法使い」

「これは精霊が作り出した異空間だ。実際には存在しない」

「魔法みたいなもんか?」

「そういうことだ。ここで参加者の大半がふるい落とされる。一次予選で求められるのは幻影の技術力。幻影の力を駆使して精霊の仕掛けた魔法に組み込み、未完成のこの空間を完成させ、新たなる道を開く。道は一チームで一つ。同じ道は通れない。早くこの空間を完成させ抜け出したチームだけが予選突破となる」

「早く抜け出すっちゅーことは、『合格できるチームは限られている』いうことか?」

「そうだ」

「合格できるのはどのくらいや?」

「さぁな。彼女は気分屋だ。どのくらい合格させるかは彼女の気分しだいだ」

「あり得んやろ、そのやり方」


 ──空気が変わった。

 緊張が走る。

 参加者達が各々武器を構え出す。


 クレイシスが的確にアーレイを指示する。

「来るぞ、アーレイ」

「は、はい」

「『来る』って何が来るの? クレイシス」

「グランツェ、道具の準備だ」

「こっちはいつでもOKや」

 と、荷に手をかけるグランツェ。

 共にクレイシス自身も魔力を一手に集中する。そして、

「アーレイ」

「は、はい」

「この予選は早く抜け出た者勝ちだ。戦闘力は気にするな。この予選に相応しい神具のレシピを作り出せ、誰よりも先に」

「わかりました」

 力強く頷いて、アーレイはミリアーノから離れて表情を鋭く変える。

「……」

 一人呆然とするミリアーノ。無言で、ポシェットにいるフレスヴァに視線を落とす。

 フレスヴァもミリアーノを見上げて静かにお手上げをしてみせた。


 誰かが発した第一声が広間に響く。

「始まるぞ!」


 それを合図にするかのように、いきなり前方の壁をすり抜けて巨大な蛙の魔物が現れた。

 あまりの巨大さに圧倒され、参加者達は戦くように退いた。

 蛙の魔物の背後に出現する白く大きな扉。それを塞ぐように蛙の魔物はどっかりと地に座り込み、言葉を発す。

 太く野太い声で、


「汝らに問う。我、幼い頃は水の中。成長したら陸に出る。さて、我とは誰?」


 イベントの常連参加者は何やら荷から道具を取り出し準備を始める。

 初参加の者たちはわけがわからず動揺し、話し合う。

 再び慌しくなった周囲に、ミリアーノもオロオロとしながらクレイシスに問う。

「ね、ねぇクレイシス。あの蛙、急に人語で何か言ってきたわよ?」

 だがクレイシスはその問い掛けに答えず、アーレイに訊ねる。

「どうだ? アーレイ」

「ぼ、僕が思いますに、これはなぞなぞの分類に入るかと──」

「いやそうじゃなくてだな、アーレイ」

 グランツェが蛙の魔物を見上げて感心する。

「蛙はしゃべるもんなんやなぁ」

「感心している場合か、グランツェ」

 ミリアーノはクレイシスの服を引いて再度訊ねる。

「ねぇクレイシス。あれって何なの? 一体何をすればいいの?」

 掴まれた服を振り払ってクレイシス。ヤケクソ気味に言葉を返してくる。

「わかったよ、言うよ! 要はあの蛙の『言葉の意』を解けばいいんだ」

「そうわかったわ」

「ただし──」

 皆まで聞かず、ミリアーノはすぐさま蛙の魔物へと振り向くと、大きく息を吸い込んだ。そして声と同時に蛙の魔物に指を突きつけ叫ぶ。

「答えは蛙よ!」


 しん、と。

 ありとあらゆる物音が広間から消えた。

 参加者達が皆、唖然とした顔でミリアーノに注目する。


 蛙の魔物はミリアーノを睨むように見下し、答えた。

「ブー。不正解」


 突如、ミリアーノとそのチーム三人の真上の天井から降り注ぐ大量の水。

 四人はまるでスコールに見舞われたかのような、そんなずぶ濡れの状態でただ呆然と立ち竦む。

 オチとばかりに金ダライが一個、一人の頭上に落ちてきた。

「──って、なんで俺だけや!」

 予期せぬ落ち物に、グランツェは痛む頭を抑えて憎々しげに天井を見上げる。

 放心状態のクレイシス。心あらずの声でぼそぼそと独り言を呟く。

「あり得ない。こんなこと……」

 ミリアーノは濡れた髪をかき上げ、きょとんとした顔でクレイシスに向き直る。

「もしかして正解は蛙じゃかったってこと?」

 クレイシスは静かに首を横に振る。そして、

「なぜ言った・・・?」

 小首を傾げてミリアーノ。

「え? 正解を言っちゃダメだった?」

 クレイシスは身振り手振りを交えて気持ちを伝える。

「そうじゃなく、イベントなんだぞ? これ。何のイベントをしているのかわかっているよな?」

「うん。それはわかっているわよ、私だって」

「だったらオレの話は聞いていたよな? さっき話したこと」

「えぇ」

「なら総じてわかるよな? 蛙の『言葉の意』を解け。ただし神具を・・・使って・・・、だ」

「神具を使って?」

「そうだ」

 ポシェットからフレスヴァが顔を出す。

「ミリアーノお嬢様は神具を持っておりませんぞ?」

 クレイシスが顔に手を当て、うんざりとため息を吐いて答える。

「だから、それを作るんだ。今から」

 ミリアーノは驚いた。

「えっ! 今から作るって、そんな簡単に出来ちゃうものなの? 神具って」

「だからさっきも言ったが一次予選は技術力。要は謎解きだ。この空間はワン・ピース欠けたパズルみたいなものだ。そのワン・ピースを幻影の魔法で補い、空間を完成させて二次予選へ進む。一チームに道は一つ。つまり同じ幻影は使えないということだ。ここで試されるのは知識者の豊富なレシピ。神具を作ってお前が生み出した幻影が蛙の『言葉の意』にそえばいい。わかったか?」

 するとアーレイが二人の会話に割って入り、静かに挙手をする。

「あの。そのことで僕から一言よろしいですか?」

 三人の視線が集う。

 アーレイが申し訳なさそうに言葉を続ける。

「あの。僕、まだ一度も神具を完成させたことがないんですが……こんな僕の知識でも大丈夫だと思いますか?」


 ・・・・・・え?


 クレイシスがいきなり愕然と膝を折って床に手をつく。暗い影を背負って涙を流し、

「もうダメだ、このチーム。オレ、確実にファルコム皇帝から抹殺される」

 絶望にひれ伏すクレイシスを指差し、グランツェがミリアーノに訊ねる。

「どうしたんや? あれ」

「初めての反抗に失敗したみたいよ」

「お前が優勝しようってオレをあおったんだろ!」

 両手をわななかせて怒鳴ってくるクレイシスに、ミリアーノはお手上げして気楽に言った。

「諦めるのはまだ早いと思うわ、クレイシス。だってまだ神具を作ってもいないんだよ? まずはやってみることが大事だと思うわ」

 クレイシスはフッと肩の力を抜いて、

「それもそうだな……」

 三人の視線は再びアーレイに集った。



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