一、そこにある何かの縁【3】
ふと、フレスヴァが何かに気付いたらしい。
気を取り直したように咳払いして、半眼で問い掛けてくる。
「あの……ミリアーノお嬢様?」
「なに?」
「ところで、神具の扱い方はご存知なのでございますか?」
問われ、ミリアーノはきょとんとした顔で目をぱちくりとする。
「え? 知らない」
「……」
「あ、なによその目! みんなのやり方を見ていれば私だって扱えるようになるわよ。うん、きっと」
「……」
ぐっと拳を握り締めて気合いを入れるミリアーノをよそに、フレスヴァは重いため息をついた。
「やれやれ。やはり最後はわたくしめが尻拭いする結果になるんでしょうね」
「うわっ、なによその言い方。すっごくムカツク」
「ムカツクのは図星の証拠でございます」
「フンだ。もういいわよ。フレスヴァなんかに頼らなくたって、私一人で何でもできますよぉーだ」
「あーはいはい。さようでございますか。それは嬉しい限りでございます。わたくしめはもう知りませんよ?」
「知らなくてもいいもん! 絶対自分で何とかしてやるんだから」
ぶつぶつと独り言を呟いた後に、
「──あっ!」
ミリアーノは前方からこちらに向かって来る豆粒サイズほどの白い物体の接近に気付いた。
すぐにフレスヴァに知らせる。
「ねぇねぇフレスヴァ。あれ見て。なんだと思う?」
しかしフレスヴァはそっぽを向いたまま知らぬ顔で、
「『もう頼らない』と言っていたのはどこのどなた様でございま──」
「そんなことより、とにかくあれを見て」
「ぎゃっ!」
フレスヴァの頭を無理やり目的の方へと捻じ曲げたからであろう。フレスヴァが痛々しい悲鳴を上げた。
「み、ミリアーノお嬢様……今、わたくしめの首がグギッと」
「どうでもいいじゃない。とにかくあれを見て」
「ど、どうでもいいって……。はて? 『あれ』とは何でございますかな?」
「ほら。あれよ、あれ。島の方向から真っ直ぐこっちに向かってくる白い豆粒みたいなやつ。
──あれ、なんだと思う?」
フレスヴァは狭い額に片翼を当て、顔をしかめて目を細める。
「ほぅ……。たしかに白い豆のようなものがございますな。はて? なんでございましょうか。鳥のわたくしめには理解できません」
「鳥のあなたに理解できないなら、あれは鳥じゃないってことね」
「ごもっともで」
ミリアーノは持っていた羽ペンを懐へと入れた。火竜の手綱を両手でしっかりと掴み、ピンと張って火竜に緊張感を与える。
「スピードを落としていた方がいいかも」