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幻想 《 ファンタジア 》   作者: 高瀬 悠
三章 陰謀を阻止せよ
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三、陰謀を阻止せよ【2】


 ◆


「え? もう開催日なの?」

 締め切った一人用テントの隙間から顔だけを覗かせて、ミリアーノは慌てて周囲を見回す。

 朝も早い時間である。

 森に囲まれた広場にかかる薄い朝靄あさもや

 空はほんのりと明るく染まり、小鳥がさえずりが聞こえている。

 朝の訪れに、人は大抵空を見上げて「今日もいい天気だ」とノビをするものだが、そんな悠長な雰囲気はミリアーノの周囲からは見られなかった。

 片付けられていくテント。

 各々背負う大掛かりな荷物。

 そして何事かと目を疑うような戦闘準備。ほとんどの人が簡易な甲冑を着込み、そして体のそこかしこに武器を装備している。

 ミリアーノは視線をあちこちに走らせながら訊ねた。

「ねぇ、何事なの? 仮装行列の準備?」

 クレイシスはミリアーノの反応に呆れ、顔に手を当てるとうんざりとため息を吐く。

「ほんと何も知らずに参加するつもりだったんだな、お前」

「え?」

「これから仮装行列だ。そう思えばいい」

 半眼でミリアーノ。

「ねぇ。絶対嘘ついているでしょ」

「とにかく早く支度をしてテントから出ろ。テントはオレとグランツェで片付ける。さっきも言った通りイベント開始だ。遅れれば精霊を見失う。見失った時点でそのチームは失格だ。早くしろ」

「ちょっ、何? どういうこと? 何の知らせもなかったんだけど開始なの? 精霊を見失うって──」

「イベント開始前兆を見極められない奴は見極められるまで二十四時間眠ることを許されない。イベント開始に遅れれば『また来年さようなら』だ」

 ミリアーノはようやく事の焦りに気付いて慌てた。

「え、やだ。ちょっと待って、すぐ準備するから」

 言うなりすぐにテントの中に入る。

 テントの中から声。

「何事でございますか? ミリアーノお嬢様」

「ちょ! 邪魔、退いてフレスヴァ!」

「ぎゃぁ!」

 踏まれたのであろう、フレスヴァの悲惨な声がテントから漏れ聞こえてきた。




 まるで騎士団に保護されてお供する民間人四人だった。

 ミリアーノのチームは完全に周囲から浮いていた。


 森の中にある一本道を参加者の流れに乗って歩いていくミリアーノ達。

 歩きながら、一人だけ大荷物──テントは現地置き去り。中身は売り物にしていた骨董品の数々である──を背負ったグランツェがミリアーノの上から下を一瞥いちべつして一言。

「なんやお前、えらく普段着やな」

 こちらは手ぶらのミリアーノ。同じくグランツェを一瞥して言い返す。

「そういうグランツェこそフツーの格好じゃない」

 ポシェットからフレスヴァが顔を出して、

「行列を間違えたのでございましょうかね?」

 獣民族の少年──アーレイは眼鏡の位置を手で正しながら前方後続を見回し、

「なんか僕達だけ妙に浮いてますね。あぁいう甲冑とかを装備していた方が良かったのでしょうか?」

「人間がイベントで戦うとかあり得んやろ。石にされちまうのがオチや」

「イベントってきっと、拳と拳で仲良く語り合うのよ」

「物騒ですぞ、ミリアーノお嬢様」

 そのまま三人プラス一匹の視線は、前方を一人行くクレイシスの背中へと集った。

 ミリアーノが言葉を投げる。

「ねぇ、どうなの? クレイシス」

「…………」

 振り返らず黙々と歩いていたクレイシスだったが、間を置いて、やがてぽつりと答えてくる。

「仮装行列だ。そう思えばいい」


(絶対嘘だ)


 三人プラス一匹は内心で静かにそう突っ込んだ。



 どのくらい歩いただろうか。

 しばらくすると森が晴れ、行く手を立ちふさぐかのように雄々しく壮大な山々が姿を現した。

 集合地点なのか、参加者たちの足がそこで止まり、暇を持て余すように会話が始まる。

 ミリアーノは人の波をかき分け、最前列で足を止めると山を見上げて感嘆かんたんした。

 まるでその頂は、天にも届くかのように鋭く聳えている。

「うわぁ~。あの切り立った山の上からここを見下ろしたらすごく迫力ありそうね」

 少し遅れてクレイシスが人をかき分けミリアーノの隣に姿を現す。

「おい、ミリアーノ。なぜお前はそう自分勝手に行動を──」

 次いでその隣に姿を見せるグランツェ。

「なんや? 何かおったんか? ──って、ただの山かぃ!」

 最後にアーレイ。

「どうしたんですか? またどこかへ移動するんですか?」

 ミリアーノは両腕を広げて興奮気味に、この感動を皆に伝える。

「すごいの。ほら、見てあの上。すごく高そうじゃない? 迫力感じない?」

 冷めた目で頂を見上げて男三人。ぼそりと、

「山やな」

「山だな」

「山ですね」

 ミリアーノはがっくりとテンションを落とした。

「なによ、その無感動コメント」

 クレイシスが視線をミリアーノへと戻して、

「高そうってお前、たしか火竜に乗ってここまで来たんだったよな?」

「えぇ」

「あれだけ上空から見ていて高そうはないだろ」

 ミリアーノは「あ。」と何かを思い出し、顔を苦々しく歪める。

「なんか今ので嫌なこと思い出しちゃった」

「嫌なこと?」

 怪訝に訊ねるクレイシスに、ミリアーノは慌てて両手を振って誤魔化した。

「な、なんでもないわよ」

 高い上空から火竜の喧嘩の巻き添えにしてあなたを落としてしまいました。なんて、口が裂けても言えない。

 クレイシスが詰め寄る。

「嫌なこととはなんだ? オレに言えないことなのか?」

「えっと……」


「はぁーい、皆さーん。こっちに集まってくださぁい!」


 ナイスタイミング。

 イベント役員が集合をかける幼い声が見事に彼の気を引きつけてくれた。



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