表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻想 《 ファンタジア 》   作者: 高瀬 悠
二章 奪われた神具
37/64

二、奪われた神具【23】

※お気に入り登録してくださり、ありがとうございます。

 心からお礼申し上げます。


 一言でいえば、生きた緑色のゼリーのような生き物である。体格はパンダが二足歩行しているような感じでどっしりとしており、また、顔や頭はツルンと毛の無い丸型だった。顔には丸い小さな二つくぼみと逆三角形の窪みがあり、その逆三角形の窪みから鳴き声を発しているようだ。まるで口のような動きをしながら鳴き声と合わせて逆三角形が変形する。

「バゥ?」

 次いで丸い小さな二つの窪みが、確実にミリアーノの姿を捉える。

「バゥ?」

「ぎゃぁぁぁぁ!」

 ミリアーノは初めて見る変な生き物に、身を強張らせて悲鳴を上げた。

 その悲鳴に驚いたクレイシスがパニックを起こし、さらに隅っこで身を丸めて縮こまる。

 タコ民族の女性がミリアーノの反応を見て盛大に笑った。

「《島の番人》に驚くなんて。あんた、この島は初めてかい?」

 涙目でミリアーノ。タコ民族の女性に顔を向け、首を傾げる。

「《島の番人》? これが……?」

 と、緑色の謎の生命体を指差す。

 タコ民族の女性は頷く。

「そう。名前はポルメルと言って、この島のマスコットみたいな存在さね。そんな怖がらなくていいって。よっぽどな事がない限り、何もしてこないから」

「で、でも……」

 ミリアーノは不安に怯えながら緑色の謎の生命体──ポルメルに、そっと視線を送る。

 ポルメルの視線はミリアーノを見つめたまま変わっていない。


 なんだろう。なんていうか……

 マスコットのはずなのに、あんまりかわいくない。


 台の下からクレイシスが這い出てくる。安堵の息を吐いて、

「安心しろミリアーノ。ポルメルは安全な生き物だ」

 問題はそこじゃない。

「バゥ?」

 また、ポルメルが一鳴きした。

 しばらくしてポシェットからフレスヴァがそろりと顔を出してくる。

「あの、ミリアーノお嬢様?」

 ミリアーノはポシェットへと視線を落とした。

「なに? フレスヴァ」

「彼の言葉を通訳しますと、『追われているのかい?』と申しておりますが?」

「わかったわ。じゃぁ助けてくれるのかどうか訊いてくれる?」

「御意に」

 フレスヴァは咳払いすると、ポルメルと会話を始めた。

「我々を助けてくださるのですか?」

「バゥ」

 ミリアーノの口端が引きつる。

「私が訊いても一緒じゃん」

 フレスヴァはポルメルの言葉を受けて、ミリアーノに通訳した。

「ミリアーノお嬢様。イベント会場を更に奥へと進んだ場所に彼の家があるそうです。『どうせ家に帰るついでだし、もし良かったらハイエナ民族に見つからないようイベント会場付近まで連れて行ってあげようか?』と申しておりますが、いかがなさいますか?」

 ミリアーノは額に手を当て難しい顔で、

「ちょっと待って、フレスヴァ。なんで『バゥ』の一言にそれだけの言葉が詰め込まれているわけ?」

「わたくしめども精霊は言葉を介すのではなく、心と心、ハート・トゥ・ハートのコミュニケーションでございます」

「あ、そぅ。つまり言葉に意味はないわけね」

「左様でございます」

 納得して、ミリアーノは話題を隣に居るクレイシスへと振る。

「──と、いうことらしいわよ。どうするの? クレイシス」

「なぜオレに振る? 受付所まで走りたいなら断れよ」

「嫌」

「じゃぁ決まりだな」

「そうね」

 ミリアーノはポルメルに連れて行ってもらうことにした。が、

「……」

 しばらく無言でポルメルと見つめ合った後。

 ミリアーノは思い直し、再びクレイシスに訊ねる。

「でも連れて行くにしても乗り物らしき物はどこにもないわよ?」

 お手上げしてクレイシス。

「さぁな。オレもポルメルに連れて行ってもらうのは初めてだ。担いで連れて行かれるとかじゃないのか?」

「……」

 ミリアーノは再びポルメルと目を合わせ。

 そしてまた、クレイシスへ向き直る。

「でも担がれたりしたら余計目立ちそうじゃない?」

「なぜ疑問をこっちに返してくる? 訊くならオレじゃなくポルメルに訊け」

「あなたが訊いてよ」

「なんでオレが?」

「わたくしめがおりますぞ、ミリアーノお嬢様」


 ──結局。



「予想外だ……」

「えぇ、そうね」

 島の風に髪をなびかせて、二人は遠い目をして呟く。

 羽もないのに風船のようにして空を飛ぶポルメルに運ばれて、二人は精霊の神秘を知る。

「精霊は空を飛べるんだな」

「そうね。精霊って空を飛べるんだね」

「わたくしめも飛べますぞ、ミリアーノお嬢様!」


 二人はそのまま無事、イベントの受付所へと辿り着くことができた。

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ