二、奪われた神具【22】
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「ちゃんとオレについてきているか? ミリアーノ」
「言われなくたって、あなたが腕を引っ張っているんだからついていくしかないでしょ!」
人ごみの中をかき分けながら、ミリアーノとクレイシスは言い合う。
「ねぇ、あの人達っていったい何なの? ただの兵士じゃなかったの? ところでウサギの着ぐるみはどうしたのよ?」
「質問が多い! 一つに絞れ!」
「わかったわよ。じゃぁまずコレから答えて。あの追いかけている兵士の人達って何者なの?」
「さっきも言っただろう? あいつ等はこの世の人間じゃないと」
「だから、それがどういう意味かって訊いているのよ、私は」
訊いた直後、クレイシスは人の流れを縫うように横切って、リンゴを売っている屋台の裏へとミリアーノを連れ込んだ。
陳列台の下にある空間に二人で隠れる。
「なんだい、あんた達は?」
ふくよかなタコ民族の女性が、台の下を覗き込んで驚き顔で訊ねてくる。
クレイシスは肩で息継ぎながら愛想笑いを浮かべ申し訳なく謝った。
「ごめん、今追われているんだ。ちょっと隠れさせてくれ」
「あら。あんたどこかで見た顔だと思ったら、もしかしてあの有名な魔法使いかい?」
「よくそう言われます」
上手く会話を流し、クレイシスはミリアーノへと視線を戻す。
「まだ走れそうか?」
不機嫌に顔をしかめてミリアーノ。
「その前に答えて。何があったの? 彼らがこの世の人間じゃないってどういうこと?」
クレイシスは眉間にシワを寄せ、難しい顔で唸りながら頬をかくと、説明しにくそうに答えた。
「うーん、そうだなぁ……。なんというか、闇の民族──と言ってもわからないだろう?」
「そうね」
ミリアーノは素直に頷いた。
「つまり、だ。要するにこの世の民族じゃない種族──わかり易く言えば、今までずっと闇の中に封印されていた対人捕食民族なんだが、対人といっても肉を捕食するのではなく、魔力を糧として生きるハイエナ民族なんだ。精霊はそいつ等から身を守る術を本能的に身につけているんだが、オレたち魔法使いはまだその術を知らない。だから魔法使いだけを狙って──今は皇帝の命令でオレだけを狙って狩りをしてくる人間外生物なんだ」
「人間外生物って言われても、あの人達普通に人間だったわよ?」
「あの姿はカモフラージュだ。明らかに正体がわかったら狩りなんてできないだろう?」
瞬間、ミリアーノはハッと悟った。
思わず開いた口を手でふさぐ。
「私、この騒動にすごく関係ない」
「お前の言いたいことはよくわかる。だがもっとこう、上手く説明できないんだが、なんというか、その……」
あまり言いたくないといったジェスチャーを交えつつ、クレイシスは苦々しい顔でやっと一言吐き出した。
「助けてくれ」
「え? どうやって? 私が戦うの?」
と、ファイティング・ポーズを構えてみせる。
半眼でクレイシス。
「戦えるのか?」
「ううん、無理。私、喧嘩とかしたことないもの」
「だろうな。とにかくイベント会場の受付まで行こう。そこに行けば島の精霊がたくさん居る。きっとどうにかしてくれるはずだ」
「わかったわ」
頷いて、ミリアーノは早速とばかりにポシェットに突っ込んでいた地図を取り出す。
それを広げて現在地を確認。
ふむふむ。今がココね。
そして現在地から指先で地図を辿って受付会場までの道のりを確認──。
その途中でミリアーノの指先が止まり、微動に震え出す。
「受付会場?」
「あぁ。受付会場だ」
「冗談でしょ?」
「冗談を言ってどうする?」
「だって、現在地はココよ?」
しつこいくらいに指先で地図の右下にある現在地を何度も叩く。
クレイシスも一緒になって地図を覗き込み、
「あぁ。そこだな」
「ココを真っ直ぐこっちに行って──」
と、地図の中央にある大通りへと指を走らせ、その大通りからそのまま真っ直ぐ地図の上にある『イベント会場へ』と記された所へと指を走らせる。
「どのくらいの距離があると思っているの?」
割り込むようにクレイシスが地図に指を向ける。大通りを指先で示し、
「この大通りに馬車が走っている」
「あ、それなら良かったわ」
腰を上げようとするミリアーノをクレイシスはすぐさま引き止めた。
「待てミリアーノ。状況はそんなに単純じゃない。よく考えるんだ。その馬車にオレと一緒に乗れば……言いたい事、わかるよな?」
あなたを置いていってもいいですか?
「──って、お前今すごく非道な事を考えただろう?」
「よくわかったわね」
「あら、いらっしゃい。またリンゴを買いに来てくれたのかい?」
タコ民族の女性がお客を迎え入れる。
屋台の下に隠れていた二人は一瞬にして会話を止めた。
クレイシスがミリアーノの耳元にそっと囁く。
「誰が来たのか見てくれ」
「わかったわ」
「バゥ」
──ばぅ?
明らかに人語以外の、何か大型な老犬が一鳴きしたような、そんな声だった。
ミリアーノは台の下から恐る恐る顔を覗かせる。
「バゥ」
正体を見て、思わず硬直。
店に来た客人は見たこともない謎の生命体だった。




