二、奪われた神具【21】
見やればそこに、気恥ずかしそうにもじもじとしている獣民族の少年。
「さ……さきほどは助けていただき、ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げる。
ミリアーノは照れくさく手を振って、
「私は何もしてないから、お礼ならあっちに居る魔法使いの人と最初に助けに入ったこの人に言ってあげて」
と、グランツェを指し示す。
獣民族の少年は改めてグランツェに向き直ってお礼を言う。
「助けていただき、ありがとうございました」
顔を真っ赤にして気持ちをごまかそうと粋がるグランツェ。
「べ、別にお前を助けたわけや──」
ミリアーノはグランツェの言葉を手で制して、
「いいじゃない。結果として助けたことに変わりはないんだから」
そんな時だった。
「ミリアーノ!」
突然クレイシスに名を呼ばれ、ミリアーノはびくりと身を震わせて目を向けた。
「な、なに?」
クレイシスがなぜか焦った様子でこちらに駆け寄ってきて、がしりと両肩を強く掴んできた。
怯えるミリアーノ。
「え? なに? なんなの? 私、何かした?」
掴んだまま無視して、クレイシスはグランツェに声をかける。
「えーっと……グランツェだったよな?」
「なんで俺の名を?」
「まず一人」
「は?」
理解できず、グランツェは呆け顔になる。
そのまま今度は獣民族の少年へと視線を移して、
「二人目」
たまらずミリアーノは口を挟む。
「ねぇ、いったい何のことを言っているの?」
「あとはお前とオレで計四人。──これで仲間は揃った」
グランツェも口を挟む。
「仲間って何のことや?」
その問いかけに、クレイシスはさも当然とばかりに言い放つ。
「イベントだ。今年はこのメンバーで参加する」
その場にいた誰もが驚きの声を上げたのは言うまでもない。
クレイシスはミリアーノに簡潔に説明する。
「いいか、ミリアーノ。今までの流れをよく考えてほしい」
「流れ……?」
小首を傾げるミリアーノ。
「そうだ。そうしたらなぜオレが素の状態でここに来て、こんなに焦りながらお前と接触しているかがわかるはずだ」
ミリアーノは考えた。
(えーっと。なんでこの人変装したんだっけ?)
辿り着く思考。思い起こすファルコム大帝国兵士との接触。
ミリアーノは叫んだ。
「──って、まさか!」
「そう。その『まさか』だ。詳しい話は時間が無いから省略する。このメンバーでイベントに参加だ。いいな?」
「わかったわ」
ミリアーノは頷く。それを確認したクレイシスはグランツェと獣民族の少年に話を振った。
「事情はあとで説明する。とにかく二人の力を借りたいんだ。できれば今は何も聞かずにイベントに参加登録をしてくれると助かる」
「ええで」
「は、はい。僕でよろしければ仲間になります」
ミリアーノは周囲の異変に気付いた。野次馬の人々をかき分けてこっちに向かってくる見覚えある黒服の男達。
慌ててクレイシスの服を掴んで引く。
「ねぇ見てクレイシス。ファルコム大帝国の兵士がもうそこまで──」
「気をつけろ、ミリアーノ。あいつ等この世の人間じゃない」
え? と目を丸くしてミリアーノ。
「ちょっと待って。どういうこと? それ」
無視するようにクレイシスは話を進めた。
「今から一騒動起こすから、その間に全力で走ってくれ」
わけもわからず焦りを見せるグランツェ。
「ど、どういうことや?」
「いいから走れ。事情はあとで話す。もし散り散りになったらイベントの受付所で落ち合おう。オレは連れのミリアーノと一緒に向かう。グランツェはこの……えっと」
獣民族の少年は答える。
「アーレイです」
「アーレイと一緒に行ってくれ」
「了解や」
「じゃ、始めるぞ」
一通り説明をし終えてからクレイシスは巨岩歩兵の幻影に向け、指を鳴らした。
応えるように、巨岩歩兵は雄たけびを上げてゴリラのように胸を叩きながら人々を追い掛け回し始めた。
蜘蛛の子散らすように逃げ出す周囲。
通りは人々のパニックに陥った。
「行くぞ」
呆然としているミリアーノの腕を掴んで、クレイシスは人ごみに紛れるように駆け出した。